上野和寛

クリスタルは私の基本であり、
特別なシャンパーニュです

上野和寛さん(茶禅華 シェフソムリエ)

都内でも有数の一等地として知られる南麻布の住宅地にひっそりと建つ、星付きの中国料理店、「茶禅華」(さぜんか)。旧ドイツ大使公邸を改装したシックな店内では、『和魂漢才』に基づいた中国料理が振る舞われています。そんな「茶禅華」で、シェフソムリエを務める上野和寛さんは、自他ともに認める大のルイ・ロデレールファンだそう。その理由について伺いました。
※日本固有の精神と中国伝来の学問。また、その両者が合すること。

『クリスタル』との
衝撃的な出会い

初めて飲んだプレステージ・シャンパーニュが、ルイ・ロデレールの最上級キュヴェ『クリスタル』だったという上野さん。そのときの衝撃は忘れられないと言います。

「私がワインバーでソムリエの見習いをしていた頃は、時代もあって高級シャンパーニュが毎日のように開いていました。粋なお客さまからおすそ分けをいただくことも多く、色々なシャンパーニュをいただいたのですが、『クリスタル』の美味しさは別格でした。立ち上がる香りは圧倒的で、口に含んだ瞬間には思わず「これは一体何だ!?」と驚いてしまいました。

その日自宅に帰り、早速『クリスタル』について調べたんです。1876年、ロシア皇帝アレクサンドル2世の要望で誕生したシャンパーニュということを知り、その背後にあるストーリーやメゾンの哲学を深く理解するにつれて、ますます魅力を感じるようになりました。」

クリスタル

ロシア皇帝の要望で暗殺防止のために透明なボトルとフラットな瓶底が採用されました。

以来、記念日には『クリスタル』を飲むようになったという上野さん。『クリスタル』の中でも、特に好きなヴィンテージがあるのだとか。

「2002年、2004年、2008年のヴィンテージが大好きです。2002年と2008年はグレートヴィンテージと言われますが、キャラクターは対照的だと思います。

2002年は明るくて陽気な印象が強く、一方の2008年は酸味がしっかりしていて引き締まった味わいが特徴です。そして2004年は、この両者の良さを兼ね備えた、まさにパーフェクトな年だと思います。

この3ヴィンテージは、ブラインドテイスティングで出されても絶対に外しません。」

中国料理と
シャンパーニュの相性とは

そんな上野さんに、中国料理とシャンパーニュのペアリングにどんな特徴があるのか聞きました。

「中国料理は、北から南にかけて地域ごとに特色が異なり、非常にバリエーション豊かです。そんな多彩な料理を1本のワインでカバーできるのが、シャンパーニュの魅力だと思います。シャンパーニュは、複雑な味わいや香りを持ち、泡の刺激もあります。これらの要素が広東、四川、北京などの個性的な料理と見事に調和します。

料理に合わせてシャンパーニュを変えるのも面白いです。甘いソースを添えた北京ダックには甘口のシャンパーニュを合わせてみたり、辛みの強い四川料理には辛口のロゼ・シャンパーニュを合わせてみてもいいですよね。中国料理とシャンパーニュの組み合わせには、無限の可能性があると思います。」

川田智也

料理長を務める川田智也さん

茶禅華が手掛ける中国料理とルイ・ロデレールも相性がよいと言います。そこには明確な理由があるのだそう。

「茶禅華の料理のテーマは『和魂漢才』です 。中国料理の大胆な「旨さ」と、日本料理の滋味深い「美味しさ」を調和させた料理です。ここで重要なのが「素材」です。茶禅華では素材の質や鮮度にこだわっています。その素材の輪郭を、クリスタルが持つ透明感が一層際立たせてくれるんです。」

今回、クリスタルとの相性が抜群な、コースの一品として提供されている一皿を作っていただきました。料理について川田智也料理長に伺いました。

「こちらは清蒸鮮魚(チンジョンシェンユイ)という香港の伝統料理です。ルイ・ロデレールの『クリスタル』から感じた伝統をキーワードに、料理の技法を掛け合わせました。

本来の清蒸鮮魚では魚を一匹丸ごと蒸しますが、今回はクエを切り身にし、日本料理の昆布締めの技法を取り入れました。皮目をバリッと仕上げる火入れで、魚の旨味を引き立てる清蒸鮮魚、特有のシンプルな味付けを施した、新感覚の一皿に仕立てています。ルイ・ロデレールは伝統を重んじつつも常に革新を続けているため、この両者の調和を料理に投影しました。

さらに、ビジュアルの面でも工夫を凝らしています。シャンパーニュグラスを傾けてその表面を見ると、その美しい表情に思わず息を呑むときがありますが、この料理も火入れが適切に行われると、魚の表面がまるでクリスタルのように輝きます。味や香りだけでなく、視覚のペアリングも楽しんでいただきたいという想いを表現しました。」

料理に合わせて
シャンパーニュの表情を変える

お客様には、ワインを最高の状態で楽しんでいただきたいと話す上野さん。グラスと提供温度には特にこだわっています。

「お客さまに『クリスタル』をボトルで提供する際、料理の味わいが濃厚になるとともに、ワインの温度やグラスの大きさを変えています。

乾杯の際は5℃くらいに冷えた『クリスタル』をフルートグラスで提供します。コースが進み、野菜料理や魚料理が出てくる頃には、グラスをやや大きめのものに変えて温度を10℃くらいに上げます。これにより、最初は食前酒のような軽やかな印象から、次第に白ワインの豊かな印象に変わります。

そして、最も濃厚で味わい深いメイン料理が始まる際には、大きなグラスで飲むことをお勧めします。温度は15℃から18℃くらいにすることで甘みや旨味が一層感じられるようになり、酸味が落ち着くため、料理との相性が抜群に良くなります。

1本のシャンパーニュを泡として、白ワインとして、旨味として楽しむ。このように、『クリスタル』の表情を温度で変化させる飲み方は、なかなか面白いのではないかと思います。実はこれ、よくやるんですよ。」

「ルイ・ロデレールのシャンパーニュは、存在感がありながらも決して押しつけがましくない。まさにその点が魅力だと感じています。私自身のサービスも同様で、最大限のおもてなしを心がけながらも、自分が前に出過ぎないようにしています」

上野さんのサービススタイルは、まさにルイ・ロデレールのシャンパーニュのような洗練さと品位を感じさせます。お客様に寄り添いながらも、控えめな姿勢で最高の体験を提供し、ワインの持つ本来の魅力を引き出しているのです。

Profile

上野和寛

星付きの中国料理「茶禅華」のシェフソムリエ。東京・渋谷の老舗ワインバーで経験を積み、2017年の茶禅華オープンから現在までシェフソムリエを務める。大のルイ・ロデレール好きとして知られる。