世界三大貴腐ワインの一つ「トカイ」で有名なハンガリーワイン。
しかし、トカイ以外のハンガリーワインはよく知らないという方は案外多いのではないでしょうか?ハンガリーでは「トカイ」の他にも様々なタイプのワインが生産されています。
長い歴史を持つハンガリーワインは、第二次世界大戦後の社会主義体制のもと一時期衰退しましたが、1989年に共和国体制に移行してからは外資による技術革新が進み、品質が飛躍的に向上しました。
そこで今回は、改めて注目したいハンガリーワインについて詳しく解説したいと思います。
目次
ハンガリーワインの歴史
ハンガリーでは紀元前からブドウ栽培が行われていましたが、本格的なブドウ栽培はローマ人によって伝えられたそうです。9世紀後半にはキリスト教に改宗し、西暦1000年にキリスト教王国が建国されて以来、宣教師達によりワインの生産が拡大されました。
1867年ハプスブルク帝国の解体に伴い、ハンガリーワインの生産と輸出は開かれ、フランス、イタリアに次いで世界第3位のワイン生産国となりました。しかし、1875年、他のワイン生産国同様フィロキセラ(注1)の被害に遭いブドウの生産量は激減します。
第二次世界大戦後はソビエトの支配により、ブドウ畑の国営化が進み、ハンガリーワインは「質より量」の時代となりました。
その後、1989年に共和国へ体制転換されてからは、フランス資本やスペインの著名なワイナリーがハンガリーに進出するなど、近代的なワイン造りが広く導入されました。
(注1)フィロキセラ ブドウネアブラムシとよばれるアブラムシの一種。ブドウの根に寄生してブドウの樹を腐らせてしまう、ブドウの樹にとって天敵ともいえる昆虫。
ハンガリーの気候風土
ハンガリーは西にスロヴェニア、オーストリア、北にスロヴァキア、東にウクライナ、ルーマニア、南にセルビア、南西にクロアチアと7カ国に囲まれた内陸国です。
国土の大部分はなだらかな丘陵で、国の中央を縦断するドナウ川によって潤される東部・南部の平野部には肥沃な農地が広がっています。
国の北側はタトラ山脈に守られ、南からは地中海の温暖な空気が入り込む穏やかな大陸性気候です。
ハンガリーのワイン産地
ハンガリーでは1956年にはフランス同様ワイン法が制定され、14の生産地区に分類して原産地の品質を保証してきました。その後、1997年の改正ワイン法により22の指定地域に分類され、現在に至ります。
ワインの産地は、トカイ地方、北ハンガリー地方、バラトン地方、北パンノニア地方、パンノン地方、ドナウ地方という大きく六つに分けられます。
ここでは代表的なワイン産地である、トカイ地方と北ハンガリー地方についてご紹介します。
トカイ地方
首都ブダペストの北東230kmに位置し、北端はスロヴァキア国境と接します。2002年、スロヴァキアとウクライナの国境に近いハンガリー北東部に位置するトカイの山裾に広がる地域がユネスコの世界遺産に登録されました。
貴腐ワインで有名な「トカイ」の産地です。トカイには、フランス王ルイ14世をはじめ多くのヨーロッパの王侯貴族に愛されたという逸話があります。
原料となるブドウはフルミントが主体で、ワインは甘口から辛口まで様々なタイプがあります。
中でも極甘口の貴腐ワイン「Tokaji Aszu(トカイ・アスー)」は、地形と気候の影響により発生する霧によって貴腐菌(ボトリティス菌)がブドウに付着し、果実の水分が蒸発して糖度の上がったブドウ果汁から造られます。
トカイワインは2013年にワイン法が改定され、等級分けされました。
「Szamorodni(サモロドニ)」は“自然のままに”という意味をもつ、伝統的な製法で造られるトカイワインです。トカイ・アスーなどではブドウの収穫を一粒ずつ摘み取るのに対して、サモロドニは房ごと収穫したブドウを醸造して造られます。自然のままに造られるため、貴腐の割合によって辛口(Szaraz/サーラズ)になったり、甘口(Edes/エーデシュ)になったりします。最低2年の熟成が必要となります。
サモロドニよりも甘口のカテゴリに区分されるのがAszu(アスー)です。アスーとは、蜂蜜のようなという意味で「トカイ・アスー」は最低残糖分が120g/L以上、「Tokaji Esszencia(トカイ・エッセンシア)」は最低残糖分450g/L以上、いずれも最低3年以上の熟成が必要です。
世界三大貴腐ワインの一つであるトカイ・アスーは、芳醇なメロンや蜂蜜の芳ばしい香り、黄金色の輝き、トロリとした口当たりの甘美な味わいですが、酸がしっかりとあるため後味はすっきりとしています。
北ハンガリー地方
ブダペスト北東の北ハンガリー地方は古都エゲルが中心地で、有名な赤ワイン「エグリ・ビカヴェール」の産地です。
かつては黒ブドウ品種カダルカの栽培が盛んでしたが、近年はケークフランコシュを中心に、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなど国際品種からもワインが造られています。
「エグリ・ビカヴェール」の主要品種はケークフランコシュで、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、ケークオポルトーなどもブレンドして造られます。木樽で熟成されたエグリ・ビカヴェールは、スパイシーで芳醇な香りと、程良いタンニンが特徴です。
また、エゲルは赤ワインが有名ですが、オラスリズリングなどから白ワインも造られます。
栽培されているブドウ品種
覚えておきたいのは「トカイ」の主要品種フルミントと、「エグリ・ピカヴェール」の主原料となるケークフランコシュです。
フルミント
ハンガリーの国内外で最も知られているブドウ品種がフルミントでしょう。
トカイ地方と国境を超えたスロヴァキアで広域に栽培されている白ブドウ品種で、貴腐ワイン「トカイ」の主原料です。
発芽が早く成熟の遅い晩熟のブドウで、果実のつき方がゆるい房と薄い果皮は、貴腐化されたデザートワインの製造に理想的ではありますが、生育中にウドンコ病(注2)に感染する可能性があります。
フルミント主体の貴腐ワインは、高い糖度を有すると同時に酸も非常に高いため、長期の熟成が可能です。一方辛口に仕上げた場合は一般的に早飲み用のカジュアルな白ワインになります。
(注2)北アメリカ由来のカビで、1850年ごろヨーロッパに伝播した。生育中のブドウ果粒が白い粉状の胞子で覆われ次第に腐敗する。
ケークフランコシュ
ハンガリーをはじめ、ドイツやオーストリアなどでも栽培されている黒ブドウ。ドイツやオーストリアではブラウフレンキッシュと呼ばれています。
ハンガリーでは北ハンガリー地方のエゲルで主に栽培され、エグリ・ピカヴェールの主要品種です。
発芽が早いため早春の霜の被害を受けることがありますが育てやすく生産性の高いブドウです。果粒は深紅がかった紫色、スパイシーでタンニンが豊富な赤ワインを生みます。
おすすめのハンガリーワイン
最後に、おすすめのハンガリーワインをご紹介します。どちらもトカイワインですが、甘口・辛口と異なるので飲み比べてみても楽しいですよ。
トカイ アスー 3 プットニョシュ
こちらのワインは、フルミント由来でアスー特有の完熟した果実の香りを持ち、貴腐ワインの深い甘みとわずかな苦味も感じられる甘口ワインです。
ワイン名にある「プットニョシュ(=PUTTONYOS)」とは、貴腐ブドウ約26kgの単位で、(1プットニョシュ=貴腐ブドウ約26kg)こちらはドライワインに貴腐ブドウの果粒を3プットニョシュ加えて造られているということです。
十分な熟成を経た上品さと奥深さを感じられる仕上がりになっています。
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トカイ・ドライ・マンドラス
こちらはフルミント種を100%使用し、完熟した果実味と酸のバランスが美しい辛口のトカイワインです。
なんと、1772年に一級に格付けされたという歴史ある畑で収穫したブドウから造られています。
ミネラル感も大いに感じられる、火山性土壌のテロワールを存分に表現した一本になります。
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まとめ
トカイ地方は世界で最初にブドウ畑が格付けされたワイン産地で、1737年に格付けを行いました。フランスのボルドーワインの格付け制定は1855年ですから、なんと118年も前のことです。
つまり、当時から国内外でトカイワインの評価が高かったことがわかります。
日本ではなかなか見かけることは少ないかもしれませんが、東欧の中でも長いワイン造りの歴史を持つハンガリーのワインをぜひお試しください。
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2019