代表取締役社長の木田茂樹氏
1885年創業の山梨を代表するワイナリー、ルミエール。
「本物のワインを造るには、本物のブドウを育てること」 創業以来、受け継がれてきた理念を忠実に守り、その理念のもとに生まれたワインは、国内外のコンクールで高い評価を得ている。
今回エノテカ編集部は、ルミエール・ワイナリーを訪問し、山梨ワイン海外輸出プロジェクトKoshu Of Japan(KOJ)委員長も歴任してきた、社長の木田茂樹氏と工場長の岩間茂貴氏に、「自然なワイン」にこだわるルミエールのワイン造りについてお話を伺ってきた。
ブドウにも草にも虫にも優しい畑
まずはワイナリーの目の前にある自社畑を案内していただいた。ルミエールの自社畑は、沢山の草花が美しく咲いている。
さっそく畑の中を歩いてみると、フランスの銘醸畑を歩いてきたスタッフも驚くほど土がふかふかと柔らかい。実際に表土は手でも簡単に掘れるほどだった。
なぜこれほど柔らかいのかと不思議に思い、岩間工場長に聞くと、その答えは「不耕起栽培を行っているから」とのこと。
不耕起栽培とは、読んで字のごとく、畑を耕さずに作物を栽培する方法。これによって、雑草などの有機物がミミズや微生物に分解され、土にかえることで土壌を柔らかくすると言われている。
「土壌が柔らかくなると酸素の供給が上がり、ブドウの根が活発になります」と岩間工場長は続けた。
「海外と比較すると、日本の多湿な気候は病害のリスクが多いため、有機栽培を実践しているワイナリーは少ない」にも関わらず、ルミエールの自社畑では化学合成農薬をはじめ、化学肥料、除草剤、殺虫剤などを使っていないそう。
オーガニック認証を得るためには、周囲の畑も有機栽培をしている必要があるので、認証は取得していないようだが、自社畑と付き合いの長い契約農家の畑は、エコファーマーをはじめ、持続可能な栽培方法を目指す農家も多いという。
「最初の数年間は我慢が必要。初めは収穫量が減るなどの影響を受けましたが、今では良い栽培環境が整っています」と、木田社長は語ってくれた。
自然を生かした栽培にこだわる理由
ルミエールが自然を生かした栽培にこだわる理由は、畑由来の野生酵母を育てるためでもある。
「化学合成農薬を使わないと畑の中の微生物がよく育ち、中でもブドウの皮に酵母菌が育つことにより、野生酵母による発酵が可能になります。培養酵母で醸造するワインに比べると複雑味が出てきて、シャープさよりもふくよかさが特徴的な、柔らかい味わいになるんです」
ワイナリーの畑の中に育った野生酵母を使ってワインを造ることで、他のワインにはない個性を表現しようということだ。
ルイ・ロデレールやオーパス・ワンなど、世界のトップワイナリーがテロワール(その土地らしさ)を表現するために行っている取り組みと同じである。
ルミエールではオリジナリティのある味わいを求め、この自社畑で育った野生酵母を使用している。
醸造も、出来るだけ自然に
有形文化財に登録されている石蔵発酵槽
つづいて、ワイナリーの施設内を案内していただいた。中でも目を引いたのが、国登録有形文化財の石蔵発酵槽。
1901年に設けられたこの半地下式発酵槽は、文化財の一つとして日本遺産にも認定されているが、今でも現役だ。
一度に約10tのブドウを発酵することができるだけでなく、土中に埋まっているため石の天然冷却効果によって、冷却装置がなくても丁度良い温度で発酵することができるという優れものだそう。
この石蔵発酵槽で醸造されるワイン「石蔵和飲」は、果梗をつけたままのブドウを石蔵内に入れて、そのまま発酵させている。例えば、ジョージアのクヴェヴリワインのような、原始的で自然な醸造方法だ。
実際に「石蔵和飲」を試飲させていただいたが、非常に滑らかな口当たりとふくよかな果実味が広がる。
ルミエールのワイン造りへのこだわりを体感できる、代表的なワインのひとつだろう。
温暖化への対応
垣根仕立てのテンプラニーリョの畑
温暖化への対応は、現代のワイン産業の課題の一つだ。
つい先日、ボルドーでも温暖化に対応するために、今まで認められていなかったブドウ品種の使用認可が議決された。
日本では、そこまで厳格なルールはないものの、ルミエールが力を入れているのが、スペインを代表する品種、テンプラニーリョだ。
日本では珍しいこの品種を栽培している理由は、温暖化対策だと岩間工場長は言う。
「もともと山梨はボルドー品種に適した土地でしたが、ここ10年ほどでスペインや南仏系の品種もよく熟すようになってきました。また、山梨はここ数年、夜間の温度が下がりにくくなっているため、特に黒ブドウに関しては着色不良が問題になります」
温暖化による黒ブドウの着色不良には、山梨の多くの生産者が悩まされている。それに対してテンプラニーリョは色付きがよく、ワインの色もしっかり出せる。また早熟で収穫が早くにできるため、秋雨によるリスクも減らすことができるとのこと。
ルミエールがテンプラニーリョで醸す「プレステージクラス テンプラニーリョ」は、今回の訪問で一番感動したワイン。スタッフ一同、驚きを隠せない品質だった。
力強さと複雑さだけでなく、繊細さを兼ね備えた、スペインのテンプラニーリョとは異なる日本のテンプラニーリョならではの個性がある。
今では他のワイナリーもテンプラニーリョの栽培を始め、徐々に注目が高まっているようだ。
まとめ
木田社長と「プレステージクラス テンプラニーリョ」
日本では難しいとされる自然を生かした栽培方法を実践し、野生酵母を使用した自然なワイン造りを行うルミエール。
テンプラニーリョなどの国際品種も栽培しているが、「あくまでも日本らしい、繊細で優しい味わいを大切に、食事に寄り添うワイン造りを目指しています。また、日本特有の品種である甲州は、今後も大切にしていきたい。」と木田社長。
「新しいものが好き、古いものも好き、どっちの考えも大事」と多様性を大切にする姿勢は、ジャン・バティスト・レ・カイヨン(注1)を彷彿とさせる。
ルミエールは今後も目が離せない、注目の日本ワイン生産者だ。
(注1)ルイ・ロデレールの副社長兼栽培・醸造責任者。世界最高の醸造家の一人と言われている。
今回紹介したワインはこちら
石蔵和飲 マスカット・ベイリーA
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プレステージ・クラス・テンプラニーリョ
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