ワインテイスティングは楽しいものです。漠然と飲むだけでなく観察し言葉にすることでワインの本質に迫ることが出来るからです。
しかし時には馴染みのない言葉に遭遇することもあります。今回はそういった独特な言葉についてご紹介します。
Q1「エレガントなワイン」とは
広辞苑によればエレガントは「上品なさま。優雅なさま」。それではワインではどのようなものを言うのでしょうか。
この表現をめぐって専門家の間で長年議論されてきました。なぜならすでに「上品」「優雅」という言葉の意味が抽象的で曖昧だからです。
例えば「上品な女優を挙げてください」とアンケートをとれば、山口百恵さんを挙げる人もいれば(古い!?)、綾瀬はるかさんを上品と言う人もいるかもしれません。
つまりその基準には受け取り側の経験や価値観といった主観に基づいていており、かなりの幅があるのです。
ならば、メドック格付け1級シャトーにおける常套句を参考にしてみましょう。
シャトー・ラトゥールは「男性的」、その一方でシャトー・マルゴーは「女性的でエレガント」と称されます。この二つはともにカベルネ・ソーヴィニヨンを主体としています。
しかし、英国のワイン評論家ジャンシス・ロビンソンは同一ビンテージの二つのワインを飲んで下記のように述べています。
Ch Latour 2014
大柄でスパイシー、風味がはっきりしている。このしっかりとした印象は終盤まで持続する。非常に緻密で、乾いたタンニンを感じる。しかし甘美な果実味も感じる。
Ch Margaux 2014
中程度のルビー色。香りにはわずかなトースト香があり甘くてチャーミング。ミディアムボディで魅力的な果実味。とてもジューシーで唾液のしたたり落ちるような酸味。はっきりとしたカシスの風味。程よい酸味があり非常に良い構成。
ラトゥールのコメントからはどっしりとした力強さや収斂性のある渋みを。それに対してマルゴーからは、華やかな香り、決して重すぎず、上質の酸に由来するバランスの良さを飲まずとも想像することが出来ます。
この例からワインにおいて「エレガント」といった場合は「香りが華やか」「バランス」ということが連想されそうです。
「エレガント」が「女性的」という言葉とセットになることが多いのは、そもそも「上品で優雅」という言葉が女性に使われることが多いからでしょう。
Q2 ワインの「アタック」とは
「アタック」というとバレーボールを連想しがちです。しかしワインの世界では口に入れた第一印象のことを指しています。
社団法人日本ソムリエ協会のテイスティングでは、口に含んでから喉元を過ぎるまでに感じたことを、前半、中盤、後半といった具合にストーリー性をもって表現していくことを推奨しています。
特にこの「アタック」は口中に含んだ後、開口一番に述べられます。そのコメントは強弱を中心とする「量」と、スムース、ソフト、やさしい、ドライといった「質」に分けることが出来ます。例えば「アタックはドライで力強い」といった具合です。
Q3「樽香」とは
ワインの貯蔵ではオーク樽が用いられることが多くなりました。
この樽は何枚もの長い木材がバンドで留められたものです。樽で寝かすことにより①穏やかな酸素との接触がおこる、②樽材から香り成分やタンニンが抽出される、③トーストされた表面から香り成分が抽出されるといった効果があります。
オーク樽を使用した場合、次のような香りが期待できるでしょう。以下が「樽香」といわれる香りです。
①酸素との接触に由来する香り:アーモンド、ヘーゼルナッツ
②木樽由来の香り:ヴァニラ、ココナッツ、丁子
③トースト由来の香り:燻製香、焦げ臭
しかしオーク樽には多岐にわたるオプションがあるのです。
例えばどこの木材を使うのか、アメリカ産なのかフランス産なのか。内部はトーストされておりその焼き具合も、ライト、ミディアム、ヘビーと加減することができます。新樽を使う生産者もいれば、昨年使ったものを洗って貯蔵用に使う生産者もいます。
当然ですが、そういったオプションの選択によって上記の香りも少しずつ変わっていくのです。
また気を付けたいのは樽香が強いからといって必ずしも良質のワインとは断言できないことです。かつてはオークがプンプン香るワインが「良し」とされた時代もありましたが、昨今では果汁由来なピュアさが、樽香で覆い隠されたものは繊細さを欠いたワインとみなされるようになりました。
ピノ・ノワールのようなデリケートな品種は、あえて樽香を抑えることが一般的です。
コメント勉強のすすめ
テイスティングコメントはマイペースにワインを飲んでいるだけではなかなか上達しないものです。最後に上達の秘訣を三つ伝授します。
一つはセミナーやスクールなどに参加して、講師と同じワインを試飲しながら試飲コメントを聞くことです。様々な講師のコメントを聞いてみましょう。同じワインを飲んでいても表現に幅があるので参考になります。分からない言葉があればその場で質問することも出来ます。
二つ目に仲間とテイスティングして意見交換しましょう。相手が自分にはないボキャブラリーをもっていることもあれば、自分には感じていない香りを感じていることもあります。その逆に仲間は感じていないけど自分が感じる香りなどを知ることができます。
この作業は自分がどの香りに敏感/鈍感というのを認識するきっかけになるでしょう。
三つ目に雑誌やインターネットサイトでプロのテイスティングコメントを読むことです。筆者が参考にしているのは上述のジャンシス・ロビンソンの「purple page」というサイトです。有料かつ英語にはなります、が世界を代表する評論家がどのようにワインを表現するのかはブラッシュアップには欠かせません。