実はテロワールのワイン!アルザスの多様な土壌が生むワインの魅力

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公開日 : 2022.2.8
更新日 : 2022.5.23
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実はテロワールのワイン!アルザスの多様な土壌が生むワインの魅力

リースリングやゲヴュルツトラミネールなど、品種名表示が一般的なアルザスワイン。そのせいかテロワールについて語られることはほとんどない。


ところが実際には「テロワールのモザイク」と呼ばれるほど、アルザスは多様な地質に彩られたワイン産地。しかも面白いことに石灰質土壌の考え方が、ブルゴーニュのそれとはまた違うようで……。

なぜテロワールのモザイクになったのか?

まずはアルザスの地質構造がどのようにして出来たかを解説しよう。


およそ3億年前の古生代に、原生岩の一種である花崗岩が地表に隆起した。1億5000万年前の中生代になると、現在のアルザスは海の底に沈む。そして花崗岩の上に砂や粘土、円石藻の死骸などが堆積し、砂岩や石灰岩、泥灰岩などの堆積岩層を形作っていった。


新生代初期の5000年前頃、アルプス造山運動によりアルザスは再び隆起して、海水は引き、さらに中央部が陥没。今日、ライン川が中心を流れるライン地溝帯となった。


西はフランスのヴォージュ山脈、東はドイツのシュヴァルツヴァルト(黒い森)に挟まれたこの一帯。陥没は断続的に続いて地質構造を複雑にし、海や川の沈殿物も混じり合い、さらに風化や浸食も加わって、テロワールのモザイク化が進んだのだ。


地溝帯のアルザス側を三つに大別すると、①ヴォージュ山脈、②ヴォージュ山脈の麓の丘陵地、③ライン川周辺の沖積平野に分けられる。


①は花崗岩や砂岩、一部で片岩、②は石灰質や粘土質、粘土に砂岩や粘土に石灰岩など非常に多様、③は泥灰土や沖積土である。


アルザスワイン委員会(CIVA)はアルザスの土壌を13種類に分類しているが、それらは互いに入り組んでいて、一つの村の中に四つか五つの異なる土壌タイプが存在するという。

土壌とワインの関係

13種類すべての土壌について言及するには紙幅が足りないので、いくつか代表的なものを取り上げることにする。

花崗岩土壌…風化して荒い砂になった花崗岩の土壌で、保水力は低く、痩せている。軽やかで、若いうちから表現力に富むワインを生む。


砂岩土壌…アルザスの砂岩はピンク色をしており、ストラスブールの大聖堂の建材としても使われる。土壌的な特質は花崗岩とよく似ているが、香りは控えめ、酸味のしっかりした、タイトなワインとなる。


火山性土壌…溶岩など火山性の堆積物による土壌でアルザスでは稀。スモーキーな香りを伴い、豊かで力強く、長期熟成型のワインを生み出す。


石灰質土壌…ジュラ紀中期や三畳紀ムシェルカルクの石灰質土壌。香りは控えめながら、おおらかでどっしりとしたワインになる。


石灰岩混じりの泥灰質土壌…粘土の中に石灰岩の小石が混じった土壌。豊潤で余韻の長いワイン。


粘土(泥灰土)、石灰岩、砂岩混じりの土壌…ヴォージュ山脈の麓の丘陵地で比較的多く見られるのがこのタイプ。豊かさと軽やかさ、力強さと繊細さなど、バランスのとれたワインに仕上がる。

石灰質土壌のワインは水平的

アルザスを取材して「?」と思うのは、石灰質土壌に対する造り手の考え方。


ブルゴーニュ的思考では、石灰質土壌のワインはミネラリーでテンションがあり、タイトなスタイルだ。そこで典型的な石灰質土壌の特級畑ヘングストのリースリングを飲み、「ミネラルが感じられ、緊張感のある味わい」とでもコメントしようものなら、「こいつ、わかってないな」という顔をされてしまう。


アルザスの造り手にとり、石灰岩の石ころが転がる土壌は粘土や泥灰土を表土にもつ比較的重い土壌。ここで栽培されたリースリングからは、リッチで豊潤、力強く、水平方向に広がるワインが生み出されると考えられている。


一方、それとは対照的なのが花崗岩土壌の特級畑ブラント。こちらは風化した砂質の軽い土壌で、リースリングは軽やかでミネラリー、酸も高く、垂直方向にすっと伸びたワインに仕上がるのだ。


ちなみにトリンバックのトップキュヴェ「クロ・サンテューヌ」は、特級畑ロザケールにある単一畑。


実はロザケールまで行っても、クロ・サンテューヌを見つけることは不可能だ。畑名を記した標識もなければ、石垣で囲われているわけでもない。昔、ロマネ・コンティに農薬をまくと脅迫する事件が起きたが、そのような嫌がらせやいたずらを受けないよう、わざと特定できないようにしている。


ラベルの絵を目印に行っても無駄。教会の真下の畑がクロ・サンテューヌではない。あの絵はクロ・サンテューヌから見たユナヴィル村の教会である。

クロ・サンテューヌ リースリング / トリンバック

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さて、クロ・サンテューヌの土壌は石灰質だが、石灰岩が海水中で変容したドロマイト(苦灰岩)と、アルザスでも珍しい。だから、石灰質といってもヘングストとはまた違う。


豊潤さや力強さ、それに熟成のポテンシャルは当然備わっているが、飲んだことのある人ならそのミネラル感とテンションに感銘を受けるはずだ。加えて、特級畑ロザケールはヴォージュ山脈の麓にある関係で、山の陰に隠れることが多く、ブドウの成熟に時間がかかる。


このゆっくりとした成熟が香りや酸、ミネラルを与えてくれるのだろう。


アルザスはセパージュ(品種)ワインと多くの人が思い込みだちだが、実はテロワールのワイン。そのワインを育んだ土壌の風味を味わいたい。

アルザスワイン一覧

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