名作映画「ニュー・シネマ・パラダイス」や「ゴッドファーザー」シリーズのロケ地として知られるイタリア・シチリア島。どこかノスタルジックで美しい風景が魅力のシチリア島は、地中海最大の島です。
映画の物語を盛り上げる美しい海辺や山々の風景、レトロな街並み。実際に訪れる人々を優雅な気分にさせ、ワインを飲むシチュエーションと非常に相性が良いことは言わずもがな。
イタリアでは全20州でワインが生産されていますが、もちろんこのシチリアでも多くの個性豊かなワインが造られています。それでは、今回はシチリアのワインの魅力についてご紹介していきたいと思います。
シチリアってどんなところ?
シチリア州にはシチリア島の他にも、エオリエ諸島やエガディ諸島など多くの島が含まれています。
最大の面積を持つシチリア島は、イタリア半島の先端カラブリア州の南西に浮かんでいます。
島の南部は、アフリカ大陸北部に位置しているチュニジアの首都・チュニスに近く、シロッコと呼ばれるアフリカから吹いてくる南風が熱気とサハラ砂漠の砂を運んでくるため、想像しづらいかもしれませんが、実はかなりアフリカに似た気候風土となっています。
シチリアの夏は暑く、冬は温暖でよく乾燥しており、ワインに適した地中海気候です。土壌もワイン栽培に適している石灰土壌や鉄分を含んだ赤い土壌、火山性土壌など多岐にわたっており、恵まれたテロワールとなっています。
シチリアワインの歴史
シチリアは地中海の中央に位置していることから、歴史的に多くの文明が行き交う土地でした。
ワインにおいても、ほとんどの品種がシチリアの土地を通過しているという説があるほどです。中東原産のヴィティス・ヴィニフェラ種(カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネなど)がギリシャを経てシチリアに到達。その後、古代ローマ帝国が拡大していくにつれて北上していったと考えられています。
戦後の高度経済成長期には、巨大タンクに詰められたバルクワインの供給が盛んになります。有名ブランドが飲みやすく親しみやすいワインを生産したことから、国内外の市場で注目されるようになりました。
1990年代後半からは高品質なワインを目指す中規模のワイナリーが登場するようになり、世界中でシチリアワインブームが拡がりました。
2000年以降は国際的なスタイルから脱却し、土地の個性を大切にしたテロワールが感じられるワインが多く造られるようになりました。現在ではイタリアトップの生産地であるヴェネト州やプーリア州と並ぶ大産地となっています。
シチリアの代表的なワイン
シチリアの代表的なワインとして、歴史ある酒精強化ワインのマルサラと近年注目が集まるエトナをご紹介します。
マルサラ
シチリア島の西端で造られている世界4大酒精強化ワイン(注1)のうちの一つです。
マルサラは、香ばしいカラメルや木樽の深く芳醇な香りを持つイタリア特有の酒精強化ワインです。1773年にイギリス商人のジョン・ウッド・ハウスが開発してから世界中に広まり、イギリス海軍のネルソン提督やイタリア王国成立に貢献しジュゼッペ・ガリバルディも愛したとされています。
マルサラは黄金色のoro、琥珀色のambra、ルビー色のrubioに分かれており、さらに残糖量や製造法、熟成期間によっても分類されています。
一時期は料理酒として使われることが主流となっていましたが、近年では品質が改善され、単体でも楽しむことができるような繊細で複雑味のあるマルサラも生産されるようになりました。
(注1)酒精強化ワインとは、保存性を高めたり味わいに個性をもたせたりするためにワインにブランデーなど高アルコールの蒸留酒などを加え、アルコール度数を高めたワインです。スペインのシェリー、ポルトガルのポートとマデイラ、イタリアのマルサラが世界4大酒精強化ワインと呼ばれています。
エトナ
エトナは中東部に位置しているエトナ火山を囲むようなブドウ栽培地で造られるワインです。
この地は標高300mから1200mと高いことからシチリアの中でも冷涼な地域で、酸のあるワインに仕上がります。赤・白ともにフレッシュで、ミネラル感のある味わいです。
カッリカンテを主体とする白ワインは強い酸味を持ち、熟成させるとリースリングのようなエレガントなワインとなります。
赤ワインは基本となる品種によって少々特徴が違い、ネレッロ・マスカレーゼはフレッシュな酸と優しいタンニンを持つ色の淡いワインに、ネレッロ・カップッチョは柔らかい味わいで中程度の色調のワインになります。
特にネレッロ・マスカレーゼはピノ・ノワールと共通するキャラクターと品質の高さから、世界中のワイン愛好家から注目されている品種です。
代表的な品種
ネロ・ダーヴォラ
シチリアで最も栽培されている黒ブドウで、品質の高い素晴らしい赤ワインを生み出します。
シチリア島だけでなく、西部に浮かぶサルデーニャ島でも栽培されておりカラブレーゼという名前でも呼ばれています。
味わいは新興国のシラーズに例えられることもあり、黒系果実とスパイスの香り、熟したタンニンの甘みやコクが特徴的。
果実味を活かした早飲みタイプからしっかりとした骨格のある長期熟成タイプまで造られてます。
ネレッロ・マスカレーゼ
ネロ・ダーヴォラに次いで多く栽培されている品種です。エトナを代表する赤品種で、州都であるパレルモや考古遺跡で有名なアグリジェント地方などでも栽培されています。
色調は淡いですが、赤系果実の華やかな香りとキメ細かいタンニン、エレガントな酸があり、長期熟成も可能な高貴な味わいです。
非常にエレガントな味わいから、ブルゴーニュのピノ・ノワールの代替品としても近年注目が集まっています。
まとめ
様々な名作映画が誕生し、多くの人々を魅了してきたシチリア。実際に足を運ぶことはなかなか難しくても、自宅で映画を楽しみながらシチリアワインを味わってみるという楽しみ方もあるのではないでしょうか。
現地の風や素晴らしいテロワールを感じられる個性豊かなシチリアワインを、ぜひ手にとってみてくださいね。
<参考>『2019 ソムリエ協会教本』一般社団法人日本ソムリエ協会