2018年5月、競売にかけられた1774年産のワインが史上最高額となる10万3700ユーロ(約1320万円)で落札されたニュースが世界中を駆け巡りました。
このとんでもない値段がつけられたワインは、ブルゴーニュでもボルドーでもなく、ジュラのアルボワ産のヴァン・ジョーヌでした。日本ではマイナーなワインですが、フランスでは5大白ワインにも数えられるほど有名なのです。
今回はそんな偉大なジュラワインについて解説していきたいと思います。
ジュラってどんなところ?
日本ではジュラワインよりも、ジュラ産のコンテという熟成されたハードチーズがよく知られています。コクがあり後味に甘みを感じるチーズで、日本酒との相性が良いこともありファンが年々増えてきています。コンテはジュラワインとの相性が良く、特に後述するヴァン・ジョーヌとは素晴らしいマリアージュを生み出します。
そんなコンテのイメージが強いジュラですが、ブルゴーニュの東に位置するフランス最小のワイン産地で、多くの素晴らしいワインも生産されています。
ジュラの平均気温は11℃から13℃と涼しめでワイン造りに適しており、全体的に年間降水量の少ないフランスの中では雨は多い方です。日照時間は年間1700時間~1900時間と少なめですが、ブドウ畑の多くは南か南西向きの斜面にあるために日当たりは良好です。
日本での流通が少ないジュラワインですが、19世紀にはオーストリア宰相であったメッテルニヒがシャトー・シャロンのヴァン・ジョーヌを世界最高のワインだと絶賛したという逸話があり、現在でも一部のワインラヴァーからはコアな人気を誇っています。
ジュラのみで造られるヴァン・ジョーヌ
ジュラの特徴的なワインと言えば、冒頭でも紹介したヴァン・ジョーヌ。ジュラ地方のみで造られる特殊なワインです。
「ジョーヌ」(jaunes)は「黄色」を意味するフランス語で“黄ワイン”、“イエローワイン”と呼ばれることもあります。
ヴァン・ジョーヌとは、醸造中に発生した酵母の下で長期熟成させ、酵母の旨味や香りをたっぷりとつけたワインです。このような醸造方法から、一般的な白ワインとは味わいが大きく異なります。
原料はサヴァニャンという白ブドウ品種のみ。醸造後はクラヴランと呼ばれるボディーがどっしりとした620mlのボトルに詰められ、最低6年の熟成(内最低5年は産膜酵母下で熟成)を経て市場に出荷されます。醸造規定の厳しいヴィンテージのシャンパーニュでさえも最低熟成期間は3年とされているため、ヴァン・ジョーヌがいかに厳しい条件かが分かります。
他にも、ジュラでは藁の上にブドウを敷き並べて乾燥させたものを原料とする甘口ワインのヴァン・ド・パイユ(藁ワイン)や、発酵前のブドウ果汁にアルコールを加えて造る酒精強化ワイン、マクヴァン・ド・ジュラなど少し変わったワインが生産されています。
代表的なワイン産地
ジュラの代表的なワイン産地は、ヴァン・ジョーヌのみに認められた「AOC シャトー・シャロン」と、多種多様なワインを生産している「AOC アルボワ」です。
AOC シャトー・シャロン
前述したヴァン・ジョーヌが生まれた土地がシャトー・シャロンだとされています。
ヴァン・ジョーヌはシャトー・シャロン、ドンブラン、ムネトリュ・ル・ヴィニューブル、ヌヴィ・シュール・セイユの4つの村から、気品あるジュラ最高峰のものが生まれ、ブドウの栽培は南または南西向きの斜面のみが認められています。
原料となるサヴァニャンはアルボワよりも高い糖度が必要で、風味豊かでアルコール度数の高いワインとなります。
なお、生産者協会がブドウの成熟が不十分だと判断した場合はヴァン・ジョーヌの生産を中止することができるため、1974年、1980年、1984年、2001年のヴィンテージは存在していません。
AOC アルボワ
アルボワは、ジュラ地方の首都であり、アルコール発酵のメカニズムを発見したことでワイン醸造の近代化に貢献した細菌学者のルイ・パスツールが生まれ育った土地として知られています。
AOCアルボワはジュラで最も生産量が多く、中世の時代から宮廷で好まれる格調高いワインとして好まれていました。
ジュラ特有のヴァン・ジョーヌ(黄ワイン)、ヴァン・ド・パイユ(藁ワイン)も造られていますが、赤ワインの生産量が最も多く、トゥルソーやピノ・ノワール、プールサールなどから造られた赤ワインが生産量の7割を占めています。
赤ワイン、白ワインともにフルーティーなアロマを持ち、赤ワインは長期熟成も可能。かつてはフランス宮廷御用達だったこともあり、ヴァン・ジョーヌやヴァン・ド・パイユも余韻を残すエレガントなワインとしても知られています。
栽培されている品種
ジュラを象徴しているのはヴァン・ジョーヌの原料となるサヴァニャンと、晩熟な黒ブドウ品種のトゥルソーです。
サヴァニャン
ヴァン・ジューヌの原料となるのがサヴァニャン。ジュラの中でもヴァン・ジョーヌを生産している地域の土壌に適した品種とされており、比較的病害への耐性が強いブドウです。
サヴァニャンから造られるヴァン・ジョーヌは、アーモンドやヘーゼルナッツなどの香ばしく複雑味のあるアロマを生み出します。また糖度が高いために、太陽光を感じる香ばしさを持つヴァン・ド・パイユの原料となることもあります。
サヴァニャンは非常に古い品種で、遺伝子的にピノ・ノワール、ピノ・ブランなどのピノ系品種と、トラミネール種と親子関係にあるとされていますが、どちらが親であるかは分かっていません。
また、ソーヴィニヨン・ブランの子孫であるカベルネ・ソーヴィニヨンの祖父母であることや、多くの高品種ブドウと親族関係であることも分かっています。
トゥルソー
トゥルソーは隣接するワイン産地・サヴォワでも栽培されており、パワフルで熟成に耐えうるワインを生み出す品種です。
収穫量を抑えないと濃い色味が出ないことがあるため日照量が多く必要なトゥルソー。日照時間が少ないジュラでは全体の5%しか栽培されておらず栽培の難しい品種です。
フルーティーな中にスパイシーな香りも持ち、しっかりとしたタンニンがコクを感じさせるストラクチャーがしっかりとした素晴らしいワインとなります。
スペイン・ガリシア地方のカンガスではIGPワインの主要品種とされており、他にもポルトガルやアメリカ・カリフォルニアなどで栽培されています。
まとめ
ジュラで造られるヴァン・ジョーヌはその独特な風味から、中華料理やお寿司とマリアージュすることも知られています。
他にも個性を感じるワインが生産されているジュラワインはワイン愛好家の中で密かに注目されています。
いつもと少し違ったワインを飲みたいと思った時にはジュラワインを選んでみると新しい世界が広がるかもしれません。
参考文献:『日本ソムリエ協会 教本2019』
小阪田嘉昭 他『フランスAOCワイン事典』(三省堂)
Jancis Mary Robinson 他『Wine Grapes』(Penguin)
『Winart』No.85 (美術出版社)
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