ピノ・ノワールの銘醸地と言えばブルゴーニュが有名ですが、近年、アメリカのオレゴンもまた、ブルゴーニュに勝るとも劣らないピノ・ノワールの産地と言われるようになりました。
しかし、未だオレゴンがどんなワイン産地なのかご存知ない方も多いでしょう。同じアメリカでもカリフォルニア産のワインとは異なる個性を持ったオレゴンのワインについて詳しく解説致します。
オレゴンってどんなところ?
オレゴンはアメリカ西部の太平洋に面した州で、カリフォルニアの北に位置します。
自然豊かなオレゴンは環境保全に対する意識が高く、特にオレゴンの北端に位置する州最大の都市ポートランドは、きれいに整備された街並みや環境意識の高さで知られ、全米で最も住みたい街に選ばれるほど憧れの街とされています。
オレゴンのワイン産地は太平洋沿いの海岸山脈とカスケード山脈の間にあるウィラメット・ヴァレーとその南側のサザン・オレゴン、ワシントンとの境界を流れるコロンビア川流域にあります。ウィラメット・ヴァレーやサザン・オレゴンは太平洋からの海風や寒流の影響を受け比較的冷涼な気候で、冬に雨が多く、夏は乾燥しています。コロンビア川流域の産地は大陸性気候で夏は非常に暑く乾燥します。
アメリカにおけるオレゴンのワイン生産量はカリフォルニア、ワシントン、ニューヨークに次いで第4位(2016年米国財務省データによる)です。
とはいえ、カリフォルニア州が全米のワイン生産量の約80%を占めることからオレゴンのブドウの栽培面積はそれほど広くはありません。オレゴンには年間生産量5000ケース以下の小規模なワイナリーが多いことも特徴として挙げられます。
オレゴンワインの歴史
オレゴンのワイン産業が近代化し始めたのは1960年代に入ってから。1966年にウィラメット・ヴァレー北部のダンディ・ヒルズに、カリフォルニアから移住したデイビッド・レット氏がピノ・ノワールやピノ・グリを植樹し、「ジ・アイリー・ヴィンヤーズ」を設立したことが始まりです。その後、現在のオレゴンワインのパイオニア達がこれに続きました。
1979年、パリで開催されたゴー・ミヨ(注1)のブラインド・テイスティング審査会のピノ・ノワール部門で「ジ・アイリー・ヴィンヤーズ」のピノ・ノワールがブルゴーニュの銘醸ワインを抑えて10位になりました。この結果に驚いたブルゴーニュの生産者は再度審査会を計画しますが、今度は「ジ・アイリー・ヴィンヤーズ」のワインが2位となったことから、オレゴンはピノ・ノワールの産地として脚光を浴びるようになったのです。
なお、この審査会で1位だったのが「ジョセフ・ドルーアン」のワインで、この審査会が縁となって両ワイナリーの関係は深まり、1980年代にはジョゼフ・ドルーアンがオレゴンのダンディ・ヒルズにブドウ畑を拓き「ドメーヌ・ドルーアン・オレゴン」を設立しました。
その後、オレゴンではワイナリーの設立が相次ぎ、現在は700余りのワイナリーがありますが、その多くがブドウの栽培からワインの醸造までを一貫して行うドメーヌ型の小規模生産者です。また、カリフォルニアやフランスの著名なワインメーカーがオレゴンでワイン造りを行っています。
(注1)ミシュランと並ぶ強い影響力を持つフランス発祥のレストランガイド。
代表的な産地
代表的な産地はウィラメット・ヴァレーとサザン・オレゴンです。それぞれについて詳しくご説明します。
ウィラメット・ヴァレー
太平洋から80km離れた場所に位置するウィラメット・ヴァレーはオレゴン随一の産地です。
ポートランドからウィラメット河に沿って南北240km、東西97kmにわたる大きな栽培地域で、栽培面積は9600ha。北部は特にオレゴンのパイオニア的生産者が集中しており、高品質なピノ・ノワールの産地として知られています。
土壌は肥沃なローム質から砂岩や玄武岩などのやせた土壌まで多様です。
ちなみにウィラメット・ヴァレーはフランスのブルゴーニュと同緯度にあり、全体的に冷涼な気候で、気温は夏の日中でも30度を超えることがほとんどないため、ブルゴーニュのワイン同様フレッシュな酸を持つワインが生まれます。
サザン・オレゴン
ウィラメット・ヴァレーの南からカリフォルニアとの境界にかけて広がる産地で、栽培地域は海岸山脈とカスケード山脈の間の南北200km、東西95kmに及ぶエリアで3265haの畑が拡がっています。
ウィラメット・ヴァレーより緯度が低いことから温暖で乾燥しているため、シラーやテンプラニーリョなどの栽培に適していますが、標高の高い場所ではピノ・ノワールやピノ・グリが栽培されています。
代表的な品種
ここではオレゴンを代表する黒ブドウ、白ブドウについてご紹介します。
ピノ・ノワール
オレゴンを代表する品種は何と言ってもピノ・ノワールです。オレゴンの栽培面積のおよそ6割を占めています。
一般的にカリフォルニアやオーストラリアなどのニューワールドのピノ・ノワールは、果実味が豊富で酸味が少なく、ヴォリューム感のあるものが多い印象ですが、オレゴンのピノ・ノワールは果実味のバランスが良く、なによりきれいな酸があります。
その理由は、畑が標高の高い冷涼な場所にあったり、太平洋からの強い風によって冷気がブドウ畑を通過したりするなどテロワールに由来します。
オレゴンでは多くの生産者が有機栽培を実践し、ブドウの栽培から醸造まで十分に手間をかけ、個々のテロワールを反映したワイン造りを目指しています。そのため、オレゴンのワインはピノ・ノワールに限らず単一畑で造られるものが多いのも特徴です。
冷涼な気候のもと、テロワールを重視したワイン造りを行っているという意味では、オレゴンのワインはブルゴーニュのワインに近いかもしれません。
ピノ・グリ
オレゴンでピノ・ノワールの次に栽培面積が大きいのが白ブドウ品種のピノ・グリです。ピノ・ノワール同様、冷涼な気候のもとでよく育つブドウで、ヨーロッパでもフランスのアルザスやドイツ等、緯度の高い地域で栽培されています。
オレゴンのピノ・グリのワインは、一般的に洋梨やリンゴの蜜のような熟した果実のジューシーさに爽やかな酸味とミネラル感があるのが特徴です。すっきりとしたドライな味わいでどんな料理にも合わせやすく、天ぷらやしゃぶしゃぶ等の和食とも好相性です。
まとめ
フランスの銘醸地との共通点がありながらも、独自の個性を持つオレゴンのワイン。
ここ50年ほどの間にこれほどまで品質が向上したのは、1960年代から活躍するパイオニア的生産者達から現在の新しい生産者、そして海外のワインメーカーまでもが協力して、産地としてのオレゴンの名声と品質向上に努めてきたからに他なりません。
これからますます注目されるであろうオレゴンワインから目が離せません。
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2018
オレゴンワインの商品一覧