シャトー・ラフィット・ロスチャイルドの醸造チームが手がける至高のボルドーワインをテイスティング!
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ドメーヌ・バロン・ド・ロスチャイルドのコマーシャル・マネージャーのジャン・セバスチャン・フィリップ氏
言わずと知れたメドック格付け1級のシャトー・ラフィット・ロスチャイルドを擁するドメーヌ・バロン・ド・ロスチャイルド(以下、DBR)は、ボルドーに複数のシャトーを所有しています。
先日、そんなDBRの顔でもあるコマーシャル・マネージャー、ジャン・セバスチャン・フィリップ氏をお迎えし、エノテカ広尾本店にてスペシャルイベントを開催しました。
当日テイスティングしたワインは、ラフィットの醸造チームが手がけるボルドー左岸のシャトー・デュアール・ミロン、右岸のシャトー・レヴァンジル、そしてソーテルヌのシャトー・リューセック。
複数ヴィンテージの飲み比べやバックヴィンテージを堪能する貴重な機会となりました。フィリップ氏の解説とともに、イベントの模様を報告いたします。
目次
ラフィットのすぐそばにあるシャトー・デュアール・ミロン
イベント中は終始笑顔で参加者と談話するフィリップ氏。ラフィットのワインのようにエレガントで紳士的。
シャトー・デュアール・ミロンは、シャトー・ラフィット・ロスチャイルドの西側、ポイヤック村カリュアド台地の延長線上にあるミロンの丘に位置し、1962年以降ラフィットと同じ醸造チームが手がけているシャトーです。
「もともとデュアール・ミロンはラフィットの近くにあり、素晴らしい畑を持っていました。ラフィットの昔のオーナーが、セカンドワイン『カリュアド・ド・ラフィット』を造る前から、セカンドワイン用にデュアール・ミロンのブドウを買い付けていたこともあり、デュアール・ミロンを購入することになったのです。」とフィリップ氏はラフィットがデュアール・ミロンを所有するに至った経緯を教えてくれました。
デュアール・ミロンの畑は72ヘクタールで、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなどボルドーブレンドのブドウ品種は全て栽培しているとのこと。畑を45から50ロットの区画に分けて収穫、醸造し、最後にブレンドするという造り方で、どの区画のブドウも基本的にはほぼ同じレシピで造るそうです。
とりわけフィリップ氏が強調していたのは、熟成用の樽について。「デュアール・ミロンは新樽を50%、使用済みの樽を50%使い、16〜18ヶ月間熟成させています。実は、それらの樽は全て自社製で、5人の凄腕の樽職人が年間2000樽作製し、DBRで使用する樽を全てまかなっています。これは、ボルドーでは非常に珍しいことです。」
今回はそんなシャトー・デュアール・ミロン2016年、2012年、2011年の3ヴィンテージをテイスティングしましたが、非常に興味深い比較となりました。
2016年ヴィンテージ
2016年のボルドー地方は「2009年の果実味、2010年の酸味を兼備した新時代のグレート・ヴィンテージ」と言われるほど評価の高い年となりました。
「ポイヤックは一般的に小石土壌なのですが、デュアール・ミロンの土壌は粘土質でメルロとの相性が良いため、メルロをいかに使うかが鍵となります。なぜなら、デュアール・ミロンが素晴らしいと評価されるヴィンテージは常にメルロを上手く生かせた年だからです。」とフィリップ氏は言います。
そして「2016年は若々しく、骨格もまだしっかりしており、タンニンも果実感も十分にあり余韻も長いので、これからが非常に楽しみなワインです。」と満足そうにコメントしていました。
2012年ヴィンテージ
カベルネ・ソーヴィニヨン65%、メルロ35%とセパージュは2016年と同じながらも、4年遡るだけで2016年より随分と熟成が進んでいるというのが第一印象です。
「2016年は歴史的なヴィンテージで、ブドウの品質、量ともに素晴らしかったのに比べて、2012年は湿度も高く、とても難しいヴィンテージでした。よって、2012年は熟成ポテンシャルが短く、早めに飲み頃を迎えるでしょう。」とフィリップ氏のコメント。
確かに、2016年の骨太な味わいに比べて、2012年は既に骨格に丸みがあり、香りもグリーンペッパー、グローブ、ドライカシス、杉など複雑。余韻もしっとりと長く、とてもエレガントなワインに仕上がっていました。
2011年ヴィンテージ
「セパージュはカベルネ・ソーヴィニヨンが75%で、2016年、2012年と比べて10%多いことから、ワインの骨格とタンニンがとてもしっかりしています。2012年より若く感じるのではないでしょうか?タンニンがもう少しまろやかになるまで熟成させて良いと思いますが、今すぐ楽しむなら、脂質の多いお肉料理など、ちょっとリッチな食事と合わせると良いでしょう。」
2016年、2012年に比べて2011年はいまだに生き生きとした酸を感じました。ということは、熟成するポテンシャルが高いということ。そして、カベルネ・ソーヴィニヨンが10%多いだけで、こんなにも印象が変わることに改めて驚きました。
ポムロールの中心に位置するシャトー・レヴァンジル
ボルドー右岸のポムロールの中心に位置するシャトー・レヴァンジル。周りには、ヴュー・シャトー・セルタン、シャトー・ラ・コンセイヤント、シャトー・ペトリュス、そして道を一本挟むとサンテミリオンのシャトー・シュバル・ブランと錚々たるシャトーが並ぶ最高の立地にレヴァンジルはあります。
ラフィットがレヴァンジルを購入したのは1990年。ボルドー左岸でカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にして造られるワインと、レヴァンジルのようにメルロを主体にして造られるワインは、そもそも目的が違うとフィリップ氏は言います。
「レヴァンジルはとても親しみやすいワインです。タンニンはあるけれども、若いうちからフレッシュさとエレガンスさを感じられるワインを造りたいという明確な目的を持ってワインを造っているのです。」
早速シャトー・レヴァンジルの2011年と1999年をテイスティングしました。
2011年ヴィンテージ
タンニンがありますが、口当たりがとてもなめらかで、やわらかい印象。フィリップ氏の言う通りシャトー・デュアール・ミロンよりも親しみやすく、果実味と酸とのバランスが非常に良いワインでした。
1999年ヴィンテージ
タンニンが落ち着いており、エレガントという言葉で形容するのがぴったりのワイン。果実味が豊かで酸はいくぶん控えめ。ブルーベリーやプラムの上質な香りや腐葉土のような少し湿った土のニュアンスがあり、余韻は長く熟成感がありました。
「2011年と1999年は気候条件も似通っていて、収穫量もしっかりとあった年でした。異なる点は12年間という歴史です。1999年はステンレスタンクで発酵、80%新樽熟成ですが、2011年は新しい醸造施設のもと、コンクリートタンクで発酵、75%を新樽で熟成させました。」とフィリップ氏。
そして、レヴァンジルではカベルネ・フランをどのように使うかが非常に重要だとも教えてくれました。
「なぜカベルネ・ソーヴィニヨンを使わないのかということにも関係しているのですが、レヴァンジルのメルロはシャトー・ペトリュスのメルロの土壌で有名なブルー・クレイという青い粘土質土壌に植えられています。そして、小石が転がる砂礫質土壌にはカベルネ・フランを植えている。レヴァンジルのセパージュはメルロ80%、カベルネ・フラン20%ですが、適した土壌に適したブドウを植えることが何より大事なのです。」
「カベルネ・フランは繊細で育てるのが難しいブドウです。ややもすれば、一般的な味わいになってしまうのですが、カベルネ・フランに合った土壌と環境が整えば、非常にエレガントさを備えたワインとなるのです。」
ブレンドして造られるボルドーワインでも、やはり原料となるブドウが適したテロワールで育てられてこそ素晴らしいワインに成りうるのです。
ソーテルヌの未来
DBRは貴腐ワインで有名なソーテルヌのシャトー・リューセックも所有しています。リューセックの畑もまた、シャトー・ディケムの東側に続く小丘にあり、最高の立地にあります。
「貴腐ワインという素晴らしいワインを造り続け、次の世代に伝えることはとても大事なこと。」と最初にフィリップ氏は言いました。
「貴腐ワインは造るのには手間も時間もコストも非常にかかります。一般的に1本のブドウの木からボトル1本分のワインが造られると言いますが、貴腐ワインは1本のブドウの木から1杯のワインしかできない。そして、全ての貴腐ワインに言えることですが、貴腐ワインを造るには自然の運も必要です。」
「しかし、残念ながら世界的にソーテルヌのような甘口ワインが飲まれる機会は少なくなってきています。それは、現代の食事に合っていないからでしょう。昔のフランス人が食べていたような重たいフランス料理は、今の若い人達はあまり食べません。私でも、ソーテルヌとフォアグラなんてtoo much(重すぎるマリアージュ)です!」と苦笑いしながらフィリップ氏は話してくれました。
「だから、造り手である私達も、この素晴らしいソーテルヌというワインを新しい世代の人達にどうやって楽しんでもらうか、真剣に考えています。若いヴィンテージのリューセックなら生牡蠣と合わせても美味しいですし、リューセックのセカンドワイン、カルム・ド・リューセックに氷を浮かべてアペリティフとして楽しむのもおすすめですよ。」と、フィリップ氏の意外な提案に参加者の皆さんはとても驚いていた様子でした。個人的には機会があれば是非試してみたいと思います。
シャトー・リューセック1997
リューセックのセパージュは割合の大きいものからセミヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、ミュスカデルの3種。
1997年のボルドーは雨が多く、赤ワインは難しい年でしたが、湿度が高く貴腐が育ちやすい環境だったので、ソーテルヌに関しては素晴らしいヴィンテージとなりました。
輝く黄金色、粘着性があり濃厚なアタック、かりん、ドライアプリコット、百合の花、蜂蜜、そして微かなペトロール香など、非常に複雑な香りがしました。口に含むとしっかりとした熟成感があり、落ち着いた酸味がバランスよく全体をまとめている印象。今でも十分楽しめる味わいですが、まだまだ熟成させることができるポテンシャルも備えていると、フィリップ氏もコメントしていました。
シャトー・リューセックについて
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おわりに
イベントの最後、「私はDBRのワインを宣伝するために世界中を飛び回っていますが、皆さんには是非、ボルドーに来ていただきたい。なぜなら、毎日畑で仕事をし、ワインを造っている我々のテクニカルチームはシャトーにいるからです。私達の思いやワインを造る喜びは、日本の皆さんとならきっと共有できると思っています。」と言うフィリップ氏に、会場は拍手喝采でした。
BDRが造り出すワインはいずれも妥協を許さない最高品質を極めた逸品ばかり。それでも、次の時代を見据えて変化をいとわず改革を続ける姿勢にボルドーの王者たる所以を垣間見ることができたイベントでした。