ワシントン州は全米でカリフォルニア州に次いで2番目にワイン生産量が多い州です。恵まれた気候条件のもと、近年はワイナリー数も急増し、造られているワインも高品質で既に高い評価を得ていますが、カリフォルニアワインの知名度に比べるとまだまだ低いと言わざるを得ません。
そこで、今回はワシントン州で造られているワインについて解説したいと思います。
ワシントン州ってどんなところ?
ワシントン州はアメリカ西海岸の最北にある州で、南はオレゴン州、東はアイダホ州、北はカナダのブリティッシュコロンビア州に接しています。州都はオリンピアですが、規模・経済においてはシアトルが州の中心都市で、マイクロソフト社やボーイング社の本拠地があり、世界中に展開するコーヒーショップ「スターバックス」の発祥の地としても知られています。
主なワイン産地は、オレゴン州との境界線から内陸中央部へ広がるコロンビア・ヴァレー流域にあります。アメリカ北部にありながら、栽培地域は内陸に位置するため、暑く乾燥し、昼夜の寒暖差が激しい大陸性気候です。また、年間の平均降雨量は203mmと非常に少ないため、ブドウの栽培においては灌漑が必須となります。
また、緯度に関してはフランスのボルドーやブルゴーニュとほぼ同じで、7〜8月の平均気温はボルドーより高く、9〜10月はブルゴーニュとほぼ同じくらいまで冷え込みます。高緯度のため、夏の日照時間はカリフォルニアよりおよそ2時間長い、平均17時間/日にも関わらず、季節や昼夜の寒暖差が大きいためしっかりとした酸を持つ風味豊かなブドウが育ちます。
ワイン産地としての歴史はまだ浅いですが、オレゴン州同様に急速に成長しているワイン産地で、アメリカワインの生産量の約4%を生産しています。
ワイン造りの歴史
アメリカ西海岸のワイン造りの歴史は、ヨーロッパからの植民者によって18世紀後半に太平洋沿岸部にスペイン原産のワイン用ブドウが持ち込まれたことに始まります。19世紀にはワシントン州の各地にワイン用ブドウ畑が開墾されましたが、小規模にとどまりました。
1903年にカスケード山脈の雪解け水を利用した大規模な灌漑が始まったことで、コロンビア・ヴァレーの乾燥した大地にブドウ畑が広がりましたが、1920年〜1933年まで施行された禁酒法により、アメリカ全体のワイン産業は衰退しました。
禁酒法撤廃後、ワシントン州で本格的にワイン用ブドウの栽培が始まったのは1960年代以降で、1967年にワシントン州の主導的生産者がカリフォルニアの著名な醸造家をコンサルティングに招いたことで、ワシントン州に近代的ワイン醸造技術がもたらされました。
その後のワシントンワインの発展は目をみはるものがあり、1970年代にかけては15日に1軒にワイナリーが誕生したと言われるほどワイナリー数は急増し、1990年代後半にはワイナリー数はおよそ100軒となりました。
2000年以降、ワシントンのワイン産業は発展期に入り、恵まれた気候条件から生まれる高品質さと、コストパフォーマンスの高さが評価され、人気を博すようになりました。国内外のワイン評価誌で多くのワシントンワインが上位を獲得したことも功を奏し、2019年現在のワイナリー数は1000軒を超え、過去10年で2倍以上にもなりました。
代表的な産地
ワシントン州はアメリカ第2位の栽培面積を誇り、14のAVAに分けられます。その中でも代表的な三つの産地を紹介します。
コロンビア・ヴァレー
ワシントン州の3分の1以上を占めるコロンビア・ヴァレーは州最大のAVA(注1)で、ワシントン州中部、中南部、南東部にあり、一部はオレゴン州に及びます。
AVA内にはいくつものヴァレーや丘陵地があり、後述するヤキマ・ヴァレー、ワラワラ・ヴァレーを含め10のサブ・リージョンを形成しています。
コロンビア・ヴァレーは、今から約1万5千年前に大陸中央のミズーラ氷河湖の洪水が繰り返し起こったことで、様々な土壌が堆積しており、水はけが良くブドウ栽培に非常に適した地域とされています。また、ヴァレー内の多くの産地に見られる玄武岩の母岩も、ワインにミネラル感をもたらしているとされています。
年間の平均降雨量が150〜200mmほどと非常に乾燥した地域であり、冬の寒さも厳しいために、ブドウの最大の脅威であるフィロキセラが生息できず、ほとんどのブドウの樹は接ぎ木をせず自根で栽培されています。
生産されているブドウ品種は、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、リースリングとワシントンワインの主要品種をはじめ、約30種のブドウ品種が栽培されています。
(注1)AVA (American Viticultural Areasの略))米国政府認定ブドウ栽培地域
ワラワラ・ヴァレー
1850年代からブドウ栽培が始まった、パイオニア的ワイナリーが多く存在する地区です。オレゴン州の国境に近いワシントン州南東部に位置するAVAで、2000年を過ぎた頃から活況を呈しており、現在ワシントン州で最もワイナリーが集中する地域でもあります。
黒ブドウの生産が多く、生産量の多い順にカベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルロー、カベルネ・フラン。中でも特にシラーが世界的に高い評価を受けています。
ブドウの栽培だけでなく小麦や玉ねぎの栽培など農業が盛んなワラワラ・ヴァレーは、ワシントン州の他の地域よりも冷涼で、冬は特に寒さが厳しくブドウ樹の凍結や霜が問題になることがあります。
ヤキマ・ヴァレー
1983年、ワシントン州で最初に認可されたAVAで、ワシントン州中南部のカスケード山脈の麓近くにあり、より広大なAVAのコロンビアヴァレー内に存在します。
大陸性気候のため、夏の生育期は温暖で乾燥し、日照の多い日中と涼しい夜が繰り返すことでしっかりと酸を蓄えたブドウが成長します。
ヤキマ・ヴァレーは他の地区より冷涼な気候なことから、一般的に白ブドウの栽培に適していますが、多様な地形のために40種以上ものブドウ品種が栽培されています。
ヤキマ・ヴァレー内でも冷涼な場所ではシェルドネやリースリングを、温暖な地域ではワシントン州で最高品質と評価されているカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、シラーが生産されています。
ワシントン州で造られるワイン
ワシントン州ではバラエティ豊富で高品質なワインが多く造られていますが、ここでは代表的なワインをご紹介します。
代表的な赤ワイン
黒ブドウで生産量が最も多いのがカベルネ・ソーヴィニヨン。次いで、メルロ、シラーと続きます。
ワシントン州で造られるカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロのワインは、豊富な果実味とタンニンが特徴のアメリカ西海岸で造られる赤ワインらしさと、ボルドーの赤ワインのような複雑さやエレガンスさをバランスよく合わせもっているものが多いです。
シラーは1988年にワシントン州にもたらされた新しい品種で、近年生産量が増えています。というのも、ワシントン州の気候や土壌がシラーの栽培に適していることがわかってきたからです。
そのきっかけとなったのは2001年。今となっては世界的ワインメーカーとなったチャールズ・スミスが知り合いのワイナリーからシラーを購入し、初めてワインを造りました。
彼が造ったワインはスパイシーでリッチかつ複雑味があり、すぐに国内外で高い評価を獲得。
チャールズ・スミスは「シラーの名手」と呼ばれるようになり、同時にワシントン州も上質なシラーの産地として注目されるようになりました。
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代表的な白ワイン
ワシントン州で最も広く栽培されている白ブドウ品種がシャルドネです。ワシントン州で造られるシャルドネのワインは、新鮮な青リンゴのような爽快な酸味のあるフルーティーなものから、トロピカルフルーツのような果実味のしっかりとしたものまで多彩です。オーク樽で熟成させたものももちろんありますが、比較的軽めに仕上げてあるものが多いです。
また、最近はリースリングのワインにも注目が集まっています。リースリングはもともとワシントン州で栽培されていたブドウ品種の一つで、現在、シャルドネの次に生産量の多い品種です。
花の香りやピーチ、アプリコットのようなニュアンスのある華やかなワシントン州のリースリングのワインは、エスニック料理やスパイシーな料理とも相性がよいことで知られています。辛口がほとんどですが、甘口やオフドライのワインも造られています。
まとめ
ワシントン州のワイン産地は地形も気候も多様なため、多くのブドウ品種が栽培されており、原料が同じ品種であっても出来上がるワインのスタイルは様々です。恵まれたテロワールのもとに生まれる高品質なワシントンワインは世界的に人気を博していますが、日本でも手頃な価格で手に入れやすいものが多く、非常にコストパフォーマンスが高いと言えるでしょう。
とにかくおいしいワインを飲みたい!と思ったら、まずワシントンのワインを手にとってみて下さい。きっと大満足するはずです。
参考 ・日本ソムリエ協会 教本 2018 ・ワシントンワイン協会 http://www.washingtonwine.jp/jp/index.html
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