ブルガリアのワインを飲んだことがありますか?
実はここ10年ほどの間にブルガリアのワインは国際的に大きな注目を集めるようになりました。
かつてブルガリアでは大量生産型のワイン造りが行われ、日本もバルクワインを大量に輸入していましたが、現在は高品質な瓶詰ワインが少しずつ輸入されるようになっています。
今回は、そんなブルガリアワインについて解説します!
ブルガリアってどんなところ?
ブルガリア共和国はヨーロッパの南東部にあるバルカン半島に位置し、北部はドナウ川に沿ってルーマニア、南部はギリシャ、トルコ、西部はセルビア、マケドニア、そして東部は黒海に接しています。
国土の3分の1を山岳地帯が占め、バルカン半島の名の由来となったバルカン山脈が国土のほぼ中央を東西に走っています。
ブルガリアの気候はこのバルカン山脈で大きく分けられます。北側は夏は気温が高く乾燥し、冬は多湿で気温が低い大陸性気候、南側は温暖な地中海性気候です。また、多くの山地がエーゲ海とアドリア海の海風を遮り、西風が黒海からの影響を抑えているため、同じ緯度にあるイタリア中部やフランス南部よりいくらか涼しい気候となっています。
ブルガリアのワイン造りの歴史
ブルガリアは4000年以上前から、トラキア人によってワイン造りが行われてきました。古代ギリシャ神話に出てくる有名なブドウ酒の神様「ディオニソス(注1)」は、トラキアの神デューニシウス(遊びと酒の神)が起源とされていることや、古代ギリシャ人がトラキア人のワイン製造技術を文献として残していることからも、ブルガリアが世界最古のワイン生産国の一つであることがわかります。
これ以降のブルガリアワインの歴史は、常に政治に翻弄されてきました。そんなワイン造りの歴史を振り返ってみましょう。
7世紀にブルガリア王国が建国。以降、ワイン造りは続きますが、14世紀にオスマントルコの支配下に入ると衰退。そして1909年にトルコからの独立が承認された後、再びワイン産業は復活します。
1944年にはソ連の衛星国となり、ワイン産業は国営化され、旧ソ連圏市場への輸出促進のためブドウ畑も大幅に拡大しました。しかし、質より量を重んじるようになり、ワインの品質は低下してしまいます。
1960年代後半から1970年にかけて醸造施設や技術の改善が行われ、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロといった国際品種が多く栽培されるようになります。そして80年代には、確かな品質と手頃な価格を背景にブルガリア産のワインは成功をおさめ、東ヨーロッパ随一のワイン生産国となりました。
その後、1989年に社会主義体制が崩壊。1991年にワイン産業は民営化され、1999年にはテロワールの概念を導入した新たなワイン法が制定されました。
以降、ブルガリアのワイン産業の成長は目覚ましく、2007年にEUに加盟するとワインの醸造設備も技術もみるみる向上します。現在はブドウの栽培から醸造までを手がけるブティックワイナリーも多く誕生し、高品質なワインが造られるようになりました。
(注1)ギリシア神話に登場する豊穣とブドウ酒の神のこと。別名をバッカスとも言う。
ブルガリアのワイン産地
ブルガリアのワイン産地は大きく5つの地域にわけられますが、ここでは北部のドナウ平原と、南部のトラキアヴァレーについて紹介致します。
ドナウ平原
ブルガリア最大のワイン産地のひとつで、ドナウ川南岸からバルカン山脈にかけて、ドナウ平原の中央から西に広がる地域。畑面積はブルガリア全体の3割を占めます。
夏はかなり暑く乾燥する大陸性気候で、冬の寒さは厳しいものの、年間を通して日照時間に恵まれています。
死火山から成り立つ土壌はミネラルに富み、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロ、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランといった国際品種の他、土着品種のガムザも多く栽培されています。
トラキア・ヴァレー
バルカン山脈の南側に広がる、ブルガリア南部の広域な産地。
東部は穏やかな大陸性気候で、カベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フラン、プティ・ヴェルドなどのボルドー系品種が栽培されています。
西部は土着品種マヴルッドの故郷としても知られる古くからの産地です。バルカン山脈がロシアの平原から吹き抜ける寒い風をブロックするため、温暖で適度な降雨量もあり、黒ブドウの生産が盛んです。
南部は地中海の影響を受け、冬は温暖で夏は暑く乾燥する地中海性気候で、オーガニック栽培を可能にしています。大規模な投資も多数入りこれからが期待される産地です。
栽培されている土着品種
主に北部では白ワイン、南部では赤ワインが生産されています。ブルガリアには2000種を超える土着品種が存在しますが、その中でも覚えておきたい土着の黒ブドウ品種3種を紹介します。
パミッド
南部や北部で幅広く栽培されている黒ブドウ。かつてはブルガリアで最も多く栽培されていましたが、現在は減少しています。
比較的寒さや渇水に強く樹勢も強い品種で、収穫期は9月中旬頃。酸味が少ないので長期熟成には適さず、大量消費用の軽めの赤ワインが造られます。
ガムザ
東ヨーロッパの他の国ではカダルカと呼ばれる黒ブドウで、かつてはブルガリア北部を代表する品種でした。
比較的酸度が高くタンニンが少ないブドウですが、収穫量を抑え、数年熟成させると非常に興味深いワインになります。
マヴルッド
生産量は大変少ないですが、ブルガリアを代表する土着の黒ブドウ品種です。語源はギリシャ語の「黒」を意味する「マヴロ」から派生したと言われています。
暖かく保水性の良い、深い堆積土壌でよく育つため、温暖なブルガリア最南西の地域で栽培されています。
赤や黒系果実のアロマと黒胡椒やチョコレートの香りを持った長期熟成型でフルボディのワインを生みます。
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まとめ
ワイン造りにおいて不遇な時代もあったブルガリアですが、近年は海外からの融資を受けて近代的なワイナリーを設立し、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの国際品種を使った高品質なワインを生み出す生産者が増えています。
一方で、土着品種を大切に守り、その土地でしか造れない個性的なワインを造る生産者も改めて注目を集めています。
そんな急成長をとげたブルガリアワイン、今ならまだ手に取りやすい価格で購入することがきますよ!
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2018