昨年秋、ちょうど2019年の仕込みも一段落した頃にブルゴーニュ地方を訪問した。
ドメーヌめぐりで得た情報とオスピス・ド・ボーヌ(注1)の結果をもとに、ブルゴーニュの2019年ヴィンテージについてまとめおこう。
ついでにまもなく出荷が始まる2018年ヴィンテージのことも……。
(注1)毎年11月の第3日曜日に開催されるワインの競売会。ここでの落札額はその年のブルゴーニュワイン全体の取引価格に大きな影響を与えると言われている。
2019年のブルゴーニュの天候
まず2019年の天候はどうだったのか。
温暖な冬が生育サイクルを早めたが、前年の12月大雨に見舞われた。3月の終わりになって生育を取り戻し、発芽は早い区画で4月の初めだったという。ところが4月5日と6日の晩に気温が急降下。場所によっては大きな霜害がもたらされた。最も大きな被害を被ったのはマコネ地区である。
6月初旬に再び気温が低下し、開花と結実が遅れた。このような激しい気温の変化によって、地域によっては花ぶるいや結実不良が引き起こされた。夏は暑く、日差しに恵まれたが、その一方で9月まで水不足に悩まされた。8月中旬の雨がヴェレゾンを促したものの、生育は不均一なものとなり、同じ区画の中でも熟度がまちまちなブドウが見られたという。
収穫は8月31日、マコネ地区のクレマン用のブドウから始まり、コート・ド・ニュイやオーセロワでは9月10日から摘み取り開始。10月第1週の週末、オート・コートで収穫を終えた。
初夏までの不安定な気候と夏の干ばつの結果、収穫量の低下は免れない。
一方で質については「9のつく年」のジンクス通り、赤白ともに優れた年となりそう……というのが大方の見方である。
ワインの出来は?
収穫の時点で量は判断できても、質に関しては仕込みが終わるまでわからぬもの。
10月下旬、取材で訪ねたジュヴレ・シャンベルタンの造り手はこう話してくれた。
「たしかに量については少なかったね。2018年と比較して25~35%くらい低かったんじゃないかな。
とくに花ぶるいや結実不良に見舞われた区画では顕著だった。しかしその一方でブドウの凝縮感は高く、2018年よりも酸は豊かだ。美しいまでにピュアなアロマをもち、フレッシュさも備えている。
マロラクティック発酵が終わるまで最終的な結論は出せないけど、ノーブルで偉大なヴィンテージと言えるし、とてもブルゴーニュ的に調和のとれたワインだと思う」。
もっとも彼の本拠地、ジュヴレ・シャンベルタンでは、とりわけ水分ストレスが問題となったらしい。
「水分ストレスが限界に達して、成熟がブロックされた区画も見られたね。けれどもフェノールの熟度は完璧。果皮、種子、梗などすべて熟していた。
もちろん収穫のタイミングをじっと待つ必要があったけど……」。
価格は上昇傾向
それからほぼ3週間後の11月第3日曜日は、恒例オスピス・ド・ボーヌの競売会である。
競売会の前日にはプロを対象にした事前試飲会が実施されるが、そこで2019年産ワインの質が予想以上に優れていることが明らかとなり、収穫量の大幅な減少も相まって落札価格は上昇した。
昨年と比べて赤ワイン1樽あたりの平均落札価格は32.6%上昇し、2万0535ユーロ。白ワインは同じく27.1%上昇の2万0964ユーロ。
特別慈善キュヴェのコルトン・ブレッサンドに至っては、2015年のコルトン・ルナルド1樽48万ユーロには及ばなかったとはいえ、歴代2位となる1樽26万ユーロ(約1900万円!)で落札された(2012年にコルトン・シャルロット・デュメイが27万ユーロで落札されたが、これは350ℓ樽だった)。
このような状況からみて、2019年の赤ワインは十分な凝縮感をもつと同時に酸も備えたクラシックな長期熟成型。白ワインはテンションの張ったピュアなスタイルと考えられそうだ。
しかしながら、収穫量の大幅な減少から価格の上昇は免れそうにない。
もっとも、アメリカがフランスを含む一部のヨーロッパ産ワインに25%の関税を課したため(その後、トランプ大統領は100%関税の追加措置を表明)、いくら質が高くとも高騰したブルゴーニュワインをアメリカ市場がどれだけ受けいれられるかは未知数。アメリカ市場の需要が後退すれば、引くてあまたの著名ドメーヌものは別として、多くのブルゴーニュワインは価格の上乗せを躊躇せざるを得なくなるだろう。
まずは2018年ヴィンテージを!
ところで、そろそろ出荷が始まる2018年ヴィンテージについても言及しておきたい。
2018年もまた暑く乾燥した年だった。しかしジュヴレ・シャンベルタンの造り手が語るように、2019年のほうが酸に恵まれ、2018年はとくにリンゴ酸の少なさが特徴とされる。赤は熟度が高く果実味に溢れて芳醇。一方、白はトロピカルフルーツのアロマをもち、まろやかな味わいと一般に捉えられている。
しかしながら、現地で実際に試飲した2018年ヴィンテージには、いたずらに熟度を求めず、ムルソーでもピュアな酸と高いテンションを表現したワインが見られた。どうやら2003年以降続く高い気温への対応に造り手のほうも慣れてきたようで、キャノピーの管理や収穫のタイミングなどに注意を払っている様子である。
2018年は2009年とよく似た年と言われるが、2009年のように果実味を前面に押し出したワインは意外と少なく、多くのワインがバランスのとれた風味に仕上がっていると思う。
量については2019年と比べて潤沢。2017年と同様、2018年もタンニンがシルキーで早いうちから楽しめるワインが多い。2019年は飲み頃になるまで多少時間を要しそうなので、2018年を多めに仕入れておくのは賢い選択に違いない。