1970年代、世界的なブームを巻き起こしたシャブリ。その人気は日本にも波及し、普段からワインを飲まない方にも広く知られるワイン産地の一つとなりました。
特に日本での人気は未だに根強く、輸入されているブルゴーニュワインの2本に1本がシャブリです。
しかし、そのほとんどは低価格帯のシャブリ。ブルゴーニュワイン愛好家というよりは、もっと気軽にワインを楽しんでいる方々がレストランなどで消費しています。
現在シャブリは、真のブルゴーニュ愛好家こそが注目すべき産地なのにも関わらず……。
世界のプロフェッショナルが推奨する産地
コレクションを組み立てる際に、シャブリを無視するコレクターが多すぎる。とんでもない話だ。
―ジャスパー・モリスMW (※1)
シャブリ・グラン・クリュは世界中の優れたワイン取引業者から全般的に無視されており、今でもコルトン・シャルルマーニュの半値で売られている。相場は実質価値に近づいていくだろう。
―ジャンシス・ロビンソンMW (※2)
生産者がワインの品質に対して報いられることを願わずにはいられない。
―ティム・アトキンMW (※3)
引用 ※1:Jasper Morris MW:ブルゴーニュワイン大全, p.496, 2012 ※2:Jancis Robinson MW et al., The World Atlas of Wine 7th Edition, p.70, 2014 ※3:Tim Atkin MW:Chablis Can Have Its Cake and Eat It Too, wine-searcher, 2014
これらは全て、世界でトップレベルのプロフェッショナルたちの言葉です。
高まり続ける需要と限られた生産エリア(=供給)によってブルゴーニュワインが高騰を続けている現在、シャブリはお買得なワインとして世界から注目されているのです。
それどころか、ティム・アトキンMWのようにシャブリのグラン・クリュやプルミエ・クリュは価格が安すぎるという意見もあり、今後どのように市場でのポジションを確立していくかが問題となっています。
なぜシャブリはお買得なのでしょう?
その要因は多岐に渡りますが、ティム・アトキンMWは大きな理由の一つとして、畑が広く入手難易度が低いため稀少価値による価格上昇が少ないことを挙げています。つまり、ブルゴーニュの特定のワインのように、それ以外では飲めないという畑が少ないということです。
この事実は投資やコレクション目的ではなく、飲むためにワインを購入している方にとっては嬉しいことではないでしょうか。シャブリの品質は上述のようにお墨付きなのですから。
実際にコート・ドールとシャブリの面積を比較してみました。
アペラシオン | 面積 |
---|---|
シャブリ(プティ・シャブリを除く) | 4,417ha |
ムルソー | 386ha |
シャブリ・グラン・クリュ | 104ha |
コート・ドール・グラン・クリュ・ブラン | 90ha |
参考:ブルゴーニュワイン委員会(https://www.bourgogne-wines.jp/)
確かに、それぞれの村名格の生産が認められる面積は、シャブリが遥かに大きくなっています。
しかしグラン・クリュの総面積で比較すると、シャブリ・グラン・クリュは104ha、コート・ドールで白ワインが生産可能なグラン・クリュ90haと大差ありません。
この事実をどのように受け取るかは消費者次第ですが、値段は2倍以上違うにも関わらず、トータルで見たときの稀少性はほとんど変わらないのです。
温暖化の影響
今シャブリが注目されている理由は価格以外に、温暖化による影響もあります。
温暖化はもともと暖かい南の産地では、ワインの高アルコール化や酸度の低下などネガティブな影響を与えており、その結果徐々にワイン産地を北上させています。
ところがドイツやシャンパーニュなど北限の産地と同じように、今まで冷涼な気候でブドウの成熟に頭を抱えていたシャブリでは、安定してブドウが熟すようになりました。
これによってワインは昔よりもボディがあり、厳しい酸味が穏やかになってきています。好みにもよるので、一概に品質向上とは言い切れませんが、緊張感とスケールを兼ね備えたコート・ドールのような味わいに近づいているのです。
酸っぱいイメージがあってシャブリはちょっと……、なんて方も改めて飲むとイメージが変わるかもしれませんよ。
ただ他の産地と同じく、春霜や雹の被害が大きくなっているのはシャブリも同じ。生産量が年によって大きく変わるため、徐々に値段が上がっていく可能性は高そうです。
シャブリもブルゴーニュ
シャブリと言えばキンメリジャンという貝殻の化石を含んだ土壌がとても有名です。
しかし、その先についてはあまり語られません。
シャブリもブルゴーニュのワイン。畑が違えば当然、個性が変わるはずです。シャブリにどんな畑があるのか見てみましょう。
シャブリの畑は、中心を流れるスラン川の下流(北方向)を見て右岸と左岸のグループに大別できます。
右岸
右岸には7のグラン・クリュと、16のプルミエ・クリュが存在します。スラン川沿いの斜面に連なる畑は左岸と比べて日照条件に優れており、熟した黄色い果実の香りとどっしりとした男性的な味わいが特徴です。
グラン・クリュの中でもレ・クロは、ミネラルが強く最も長命でパワフルなスタイルと言われています。
一方グルヌイユは、蛙(グルヌイユ)の名のとおりスラン川に最も近いグラン・クリュで畑は粘土質が強く、果実味豊かなワインを生み出します。
他にもブーグロ、プリューズ、ヴォーデジール、ヴァルミュール、ブランショと、個性豊かなグラン・クリュが存在しています。
左岸
左岸にはプルミエ・クリュのみがあり、白い花や果実をイメージさせる女性的な味わいが特徴と言われています。
中でも最初に格付けされたプルミエ・クリュの一つであるヴァイヨンは、強い粘土質土壌由来の明快な力強さを感じさせる正統派の味わいが特徴。
また、ヴァイヨンと同様に高い知名度を誇るコート・ド・レシェは、キンメリジャンのテロワールが体現された最もシャブリらしい酸とミネラルを持ち合わせています。
これらの他にも涼しい気候と白亜分の強い土壌のモンマンなど、24のプルミエ・クリュが左岸に位置しています。
これらの畑はそれぞれが非常に個性的。自分の好みの畑を探すのも面白いですよ。
これだけの数の畑が存在する一方、ワインショップなどで見かけるシャブリ・プルミエ・クリュは同じような畑名ばかりかも知れません。
これはシャブリのプルミエ・クリュ制度が、40の単一畑が14の集合畑に属するという特殊なシステムで成り立っているからです。
例えば、有名なところでは単一畑ラ・フォレから造られたワインは、単一畑名であるラ・フォレと集合畑名モンマンのいずれかを、自由に選んでラベルに表示できます。そのため、よく知られている集合畑の名で販売されているシャブリが多いのです。
しかし実際にはもっと多くの畑があり、コート・ドールと同じようにそれぞれ個性あります。そのため近年ではそういったテロワールの違いを表現しようと、個別に出荷する生産者が増えています。ブルゴーニュ愛好家も、シャブリのテロワールを探究してみる価値がありますよ。
今こそシャブリを!
日本人にとって、シャブリはあまりにも身近すぎて、ブルゴーニュの偉大なワインという認識が少なかったかもしれません。
まだ価格が高騰していない今こそ、シャブリを手に取ってみる機会かも知れませんよ。
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