イタリアのラツィオ州と聞くと聞き覚えがない方も多いかと思いますが、ラツィオ州にはオードリー・ヘップバーンがアン女王を演じた映画「ローマの休日」の舞台となったローマがあります。
この州では穏やかな気候のもと、緑豊かな丘陵地帯でワインが造られています。一度聞いたら忘れられない変わった名前のワイン「エスト! エスト!! エスト!!! ディ・モンテフィアスコーネ」もこの州で造られるワインです。
今回はそんなラツィオやこの地のワインについて、ご紹介したいと思います。
目次
ラツィオってどんなところ?
ラツィオ州はイタリア半島の中西部にあり、西はティレニア海、東にはアペニン山脈が連なり、イタリアのワイン銘醸地でもあるトスカーナ州やカンパーニア州に挟まれています。
州の多くは丘陵地帯で、火山によって発生した湖が点在しており、火山性の土壌を持つ土地が多くなっています。気候は雨が少なく温暖で典型的な地中海性気候です。
州都はイタリアの首都でもあるローマ。「永遠の都」と呼ばれるほど歴史的遺産が多く、世界の芸術や文化遺産の30%はこの地にあると言われています。
古代の美しい風景が現存し、郊外にもオスティア・アンティーカの遺跡や水道橋、アッピア街道など、遠い古代に思いを馳せられるような建造物が残っています。
白ワインの生産量が7割!
ラツィオでは白ワインの生産量が全体の7割を超えています。その中でも、多くの人に愛されている有名なワインをご紹介します。
フラスカーティ
ローマ帝国初代皇帝であるアウグストゥス帝の時代(紀元前27年~14年)に、多く造られるようになった歴史のあるワインです。当時からローマ人に好評で、16世紀にはローマ法王であるパオロ三世も好んで飲んでいたと言われています。
原料となるブドウ品種は、マルヴァジアとトレッビアーノで、色調は輝くような麦わら色が特徴的です。前菜や魚料理、パスタ、リゾットなど家庭料理を中心に幅広くペアリングします。
また、フラスカーティのワインは一言に白ワインと言ってもその味わいは様々です。
より厳しい規定をクリアしたD.O.C.G.フラスカーティ・スペリオーレは、通常のフラスカーティよりも長い熟成期間とアルコール度数の規定があり、ふくよかでワンランク上の味わいとなります。仔牛の薄切り肉にハムやチーズを挟んでソテーしたローマの名物料理「サルティンボッカ」にもピッタリです。
甘口のD.O.C.G.カンネッリーノ・ディ・フラスカーティは琥珀色を帯び、上品で個性的な香りを持ちます。リコッタチーズを使ったタルトやレーズン入りの菓子パンなどに合わせるとお互いを引き立てます。
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エスト! エスト!! エスト!!! ディ・モンテフィアスコーネ
特徴的な名前が印象に残るエスト! エスト!! エスト!!! ディ・モンテフィアスコーネ。エスト(Est)はラテン語で「ある」という意味です。
由来となったのは12世紀のこと。ワインの好きなドイツ人司教であるヨハネス・デフクが、従者に一足遅れて、教皇に会うためにヴァティカンへ旅している途中の出来事でした。
彼は従者に道中で最高のワインを探し出したら、その宿に「Est」と書くようにと命じていました。そして従者は、モンテフィアスコーネという町の宿で最高のワインを見つけ、その宿の入り口に「エスト! エスト!! エスト!!!」と書き残したそうです。なお、司教はその町が気に入り、この地で生涯を終えたと伝えられています。
そんな彼らが魅了されたワインは、マルヴァジアやトレッビアーノから造られる非常に爽やかで果実味豊か。軽快な飲み心地が特徴の白ワインです。
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チェザネーゼ・デル・ピリオ
ラツィオでは白ワインだけでなく、素晴らしい赤ワインも生産されています。その一つがチェザネーゼ・デル・ピリオ。
2008年にラツィオで初めてD.O.C.G.に認定されたワインで、ラツィオ原産であるチェザネーゼというブドウ品種から造られています。
凝縮した果実味やしっかりとした酸と力強いタンニンが特徴的で、どっしりとした肉料理と好相性です。
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栽培されている品種
マルヴァジーア・デル・ラツィオ
マルヴァジアの中でも特に、ローマ周辺のカステッリ・ロマーニ地区で栽培されている白ブドウです。別名マルヴァジア・プンティナータとも呼ばれています。
ウドンコ病やベト病の影響を受けやすく、真菌性疾患にもなりやすいために栽培量は減少傾向にありましたが、近年は品質の高さから再評価されています。
強いマスカット香が特徴的なマスカット・ハンブルクとは同じ親を持つ兄弟関係。イタリアへの到来は様々な仮説がありますが、ギリシャから輸入されたという説が有力です。
マスカットなどのフルーティーな香りに加え、ムスク(じゃ香)などのスパイシーな香りと甘みを持ち合わせ、飲み心地が軽やかなワインとなります。
トレビアーノ・ジャッロ
グレコ・ジャッロとも呼ばれるローマ周辺のカステッリ・ロマーニ地区やコッリ・アルバーニ地区で多く栽培されている白ブドウです。ブドウが成熟すると黄色になることから、イタリア語で黄色を意味する「ジャッロ」の名がつけられています。
この品種はバルサミコ酢のベースワインにも使用されることで知られています。
一般的には他のブドウとブレンドされることが多い品種です。
チェザネーゼ
チェザネーゼはラツィオで最高の黒ブドウ品種と言われており、名前はカステッリ・ロマーニ地区にあるチェザーノ村に由来しています。
1960年代まではラツィオの州全体で栽培されていましたが、現在はピリオ、アッフィレ、オレヴァーノ・ロマーノなど限られた地域のみで栽培されています。
チェザネーゼには、チェザネーゼ・コムーネとチェザネーゼ・ダッフィーレというクローンが存在し、コムーネのほうが幅広く栽培されていますがダッフィーレの方が粒が小さく糖度は高く、またポリフェノールが多く含まれるため高品質とされています。
伝統的に甘いスパークリングワインの原料とされていましたが、近年ではフルーティーでビロードのようなタンニンを持つ、香り高いスティルワインが生み出されるようになりました。
ラツィオはカルボナーラの故郷
日本でもスパゲッティの定番であるカルボナーラは、ラツィオの郷土料理です。
正式名称は「スパゲッティ・アッラ・カルボナーラ」といい、塩漬けほほ肉であるグアンチャーレや塩漬け豚バラ肉であるパンチェッタを卵の黄身や生クリーム、牛乳などと混ぜ合わせてパスタに絡める日本でも人気の料理です。
レシピは、この地の炭焼き職人が考案したという説や、第二次世界大戦中にアメリカ軍が好むスパゲッティとしてイタリア人シェフが考案したという説などがあります。
前述したフラスカーティと合わせると上手くペアリングし、カルボナーラの濃厚な味わいを口の中ですっきりとリセットされるために次から次へと食が進みます。
まとめ
観光地としてのイメージが強いラツィオで興味深いワインが生産されているということをわかっていただけたでしょうか?
美食家を唸らすイタリア料理とともにラツィオのワインを味わいながら、美しい古代ローマの遺跡の数々に思いを巡らせてみても楽しいかもしれません。
<参考>『2019 ソムリエ協会教本』一般社団法人日本ソムリエ協会林茂『最新 基本イタリアワイン:増補改訂第4版』CCCメディアハウス杉山明日香『ワインの授業 イタリア編』リトルモア
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