ワイン産地として知名度が高いにもかかわらず、あまり踏み入られていない秘めた魅力がいっぱいのシャブリ。エノテカでも2019年、新たに2生産者の取り扱いを始め、改めて注目している産地です。
そんなシャブリの中で、いぶし銀の存在感を放つのがドメーヌ・ダニエル・ダンプ。今回は、年間約1,000種類以上のワインをテイスティングするという石田バイヤーに、その魅力を語ってもらいました。
【プロフィール】石田敦子
2002年エノテカ新卒入社。一度退社し、2度の仏ワイン留学。1度目はシャトー・ラトゥールで勤務、2度目はボルドー大学で醸造を学び帰国後エノテカに復職。現在は仏・伊を中心のバイヤー。DUAD(ボルドー大学醸造学部公認ワインテイスター)
シャブリの多様性は凄い!
―さっそくですが聞きたかったことがあります。エノテカは昨年シャブリの取り扱いがかなり増えましたが、どうしてですか?
シャブリって日本人にとってすごく馴染みのある産地だと思うんです。普段ワインを飲まなくてもシャブリを知っている人は多いですし、初めて飲んだ白ワインがシャブリ、という方も多いと思います。
その一方で、安い大量生産のワインというイメージもあると思っています。
“好きなワインはシャブリです“って言うと舐められる風潮みたいなものもありませんか?そのせいかシャブリについて語る愛好家ってまだまだ少なかったり、有名なラヴノーやドーヴィサ(注1)のファンは多くいらっしゃるのですが、それ以外の生産者に目を向けないままシャブリから離れてしまう。そんな気がしています。
(注1)シャブリの2大巨頭と言われるトップ生産者
私自身もラヴノーをきっかけにシャブリを好きになりましたが、このシャブリをきちんと掘り下げて紹介することは、エノテカらしいかなっていう想いがありました。
また、ブルゴーニュワイン(特にコート・ドールの価格)がどんどん高くなるので、歴史とテロワールと多様性がある産地を発掘しなきゃという危機感もありました。
―何かきっかけがあったんですか?
もともとシャブリは自分が飲むことが多かったからというのもありますが、もう一つは生産地そのものの魅力です。
ここ数年ピエモンテに行く機会が多かったのですが、その丘陵地帯の多様性や傾斜、複雑さに、それはそれは驚きまして、その直後にコート・ドールを訪問すると、なだらかに見えてしまうくらいでした(笑)
ですが、シャブリの渓谷は美しい複雑な地形で、すごく惹きつけられました。そしてシャブリにも右岸、左岸があって、土壌の多様性があって、「ワインラヴァーのためのシャブリを追求したいんです」と廣瀬会長に相談したところ、「やってみなさい」と背中を押してくれたのがきっかけです。
秀逸なプルミエクリュを造るいぶし銀の生産者
―そんなシャブリの中でダニエル・ダンプは古くから取り扱っていますよね?出会いを教えてください。
ダニエル・ダンプは2009年から取り扱っているので、長い付き合いになります。
エノテカで取り扱っているワインって2パターンに分けられると思うんですよ。一つはトップ生産者の造るワイン。その産地のトップを探し、交渉する。これはエノテカとしてのポリシーでもあります。けれど、得てしてトップ生産者の造るワインというのは稀少なものがほとんど。
その一方で、手に入るかわからない幻のワインばかりを追いかけるのではなく、無名であっても良い生産者を掘り出し、きちんと消費者の手に届くワインを見つけることも、この仕事の醍醐味です。
ダニエル・ダンプはまさに後者に当たる生産者でした。有名か否か、グラン・クリュを持っているか否か、そうではない物差しでワインと向き合った時に出会ったのがダニエル・ダンプでした。
―ダニエル・ダンプってどんなドメーヌなんですか?
一言でいうと、「自分の娘が嫁にいったら安心するドメーヌ」ですね。
家族経営なんですが仲がすごく良くって、この間お父さんから息子たちへ代替わりしたんですが、ブルゴーニュでよくあるお家騒動なんかもなく、無事引き継げたってお父さんが安心していました。
地元愛もすごくって。ダンプ家のみなさん一緒にランチをした時に教えてくれたんですが、みんな結婚式に出した赤ワインが「イランシー」(注2)だったそうで。同じブルゴーニュでもコート・ドールから選ばないことにほっこりしました(笑)
(注2)シャブリのすぐ隣に位置するピノ・ノワールの産地
(左から)セバスチャン・ダンプ氏、ヴァンサン・ダンプ氏
(下)ダニエル・ダンプ氏
―なんだか親しみがわきますね。ダニエル・ダンプのワインの魅力ってなんでしょうか?
グランクリュの畑を所有していないので、生産者としての立ち位置はどうしても地味なんですが、プルミエクリュが秀逸で、丁寧な畑仕事と醸造で、ピュアでクリーンなワインを造り続けています。テロワールを純粋に表現するために、あえて区画ごとに造りを変えていないところも魅力です。
実直、真面目、謙虚、そんな言葉がぴったりの職人的な存在。今も昔も、テロワールの魅力に溢れた、品質の高いワインを造り続けるいぶし銀の生産者。それがダニエル・ダンプなんです。
曽祖父の想いを引き継ぐ「コート・ド・レシェ」
ドメーヌのセラーで眠っていた1979年産コート・ド・レシェ
―1番好きなダニエル・ダンプのワインを教えてください。
コート・ド・レシェです。ドメーヌのあるミリィ村から1番近いプルミエクリュで、一族のフラグシップでもあります。そして、私の好きな「知る人ぞ知る畑」の一つだと思っています。
ダンプ家が造るワインの中でもミネラル感たっぷりで、クリーンでみずみずしくて、今飲むのはもちろん、長期熟成も出来る。「いつ飲んでもいいよワイン」、「持っておくと突然の来客にも安心ワイン」です。
ちなみにダニエル・ダンプでは1940年代から代々レシェを家族・友人用に熟成させていて、「熟成させるのはレシェが1番!これを飲んでみなさい!」と継がれているそうで、私自身も訪問したときに古いヴィンテージのものを飲ませていただいて、ポテンシャルの高さに驚きました。
そして、家族にとって本当に大切で好きなキュヴェなんだと知ったのは、現当主ヴァンサンさんの曽祖父が、少しだけ持っていたフルショーム(最も評価の高い1級畑のひとつ)の畑を、レシェが好き過ぎて、土地の価格を考えずに交換しちゃったと聞いたときでした(笑)
そして、家族にとって本当に大切で好きなキュヴェなんだと知ったのは、現当主ヴァンサンさんの曽祖父が、少しだけ持っていたフルショーム(最も評価の高い1級畑のひとつ)の畑を、レシェが好き過ぎて、土地の価格を考えずに交換しちゃったと聞いたときでした(笑)
個人的にもシャブリが好きで、よく買うという石田バイヤー。しばらくシャブリ飲んでなかったな、そんな方々にダニエル・ダンプを飲んでみてほしい!と熱く語ってくれました。
石田バイヤー、ありがとうございました!
ダニエル・ダンプの商品一覧