日本の米どころとして有名な新潟県ですが、実は古くからワインも造っています。
日本ワインの歴史に偉大な功績を残した老舗ワイナリーがある一方で、近年は新しいワイナリーが一部地域に集結し産地化をはかる動きも見られる産地です。
軒数はそう多くはないものの個性派ワイナリーがそろう新潟県では、どのようなワインが造られているのでしょうか?詳しく紹介致します。
新潟ワインの概要
北陸地方の新潟県は日本海に面する南北に細長い県で、県の端から端までは300キロメートル以上あります。北から東、さらに南側の県境には朝日山地、飯豊山地、越後山脈、そして北アルプスの飛騨山脈といった山々が連なり、飛騨山脈に水源を持つ信濃川の下流には広大な新潟平野が広がっています。日本海側は海洋性気候、内陸部は昼夜の寒暖差が大きい盆地気候です。
新潟と聞けば雪国をイメージする人が多いと思いますが、積雪量は地域によって大きな差があります。県内のブドウ産地である上越地方の上越市や南魚沼市は日本有数の豪雪地帯ですが、下越地方の日本海沿岸の角田浜、越前浜は海洋性気候で積雪はほとんどありません。
県の北端のワイナリーがある胎内市と南端のワイナリーがある上越市とでは144キロメートルも離れており、気候条件も土壌も異なります。そのため、栽培されているブドウ品種も造られているワインも地域毎に様々で、今なお各々のワイナリーがその土地に適したブドウ品種の研究を続けています。
国税庁のデータによると2019年3月現在、新潟県のワイナリー数は10軒、日本ワインの生産量は391キロリットルで山梨、長野、北海道、山形、岩手に続いて全国6位です(注1)。
(注1)国税局課税部酒税課 平成29年度調査分による
ワイン造りの歴史
新潟県のワイン造りは国内で有数の歴史を持っています。
1990年、上越地方の庄屋だった川上善兵衛が自宅の庭をブドウ園に変えてブドウの植栽を始めました。その後、川上善兵衛の果たした偉業は日本のワインの歴史を語る上で欠くことができません。
「日本のワインブドウの父」とも呼ばれる川上善兵衛は、地元の上越高田が豪雪地帯の上、痩せた土地で稲作やその他の作物がなかなか育たないために困窮する農民達を救うため、痩せた土地でも栽培が可能なブドウを植栽し、1890年に県内初のワイナリー「岩の原葡萄園」を創設します。立ち上げた当時は海外から苗木を輸入し植え付けていましたが栽培が上手くいかず、1922年からは当地の気候風土に適したブドウを求め品種改良に挑みました。
そして、計1万311回もの品種交配を行い、その中からマスカット・ベーリーAをはじめとして、ブラック・クイーン、レッド・ミルレンニュームなど、優良な22品種を世に送り出しました。それらの品種は全国各地で栽培されるようになり、マスカット・ベーリーAは現在日本ワインの主力品種となっています。
「岩の原葡萄園」では創業から今日まで約130年間にわたって善兵衛の志を引き継ぎワインを生産しています。マスカット・ベーリーAのワインは、今ではワイナリー年間生産量2万本のうち半分以上を占めています。
話は戻りますが、新潟県では戦後、米以外の特産物としてワインが注目され、岩の原葡萄園に続いて南魚沼市にもワイナリーが立ち上げられました。しかし、2000年まで県内のワイナリー数は角田浜に設立されたもう1軒を含め計3軒にとどまっていました。
2000年以降は日本ワインブームの追い風もあり、角田浜・越前浜でワイナリー設立が活発化します。90年代に創設されたカーブドッチワイナリーは、ヨーロッパ系ブドウ品種にこだわってワイン造りを行うかたわら、ワイナリー経営塾も開講しました。その卒業生達が周辺でブドウ園を開園しワイン造りを始めています。
新潟のワイン産地
ワイン用ブドウの主な産地は岩の原葡萄園のある上越市の他、新潟市、胎内市、南魚沼市です。とりわけ新潟市の新潟ワインコーストは今注目の産地です。
新潟ワインコースト
新潟市街地の南西部、角田浜、越前浜にある5軒の生産者達が「新潟ワインコースト」と称して、ワイン産地の形成を計っているエリアです。ブドウ畑が広がる中に美しいワイナリーの建物やガーデン、レストラン、マルシェ、さらにスパ施設が点在しており、観光地としても人気になっています。
この辺り一体は新潟砂丘に位置しているため、水捌けは良いのですが栄養分に乏しい砂地で、もともとはスイカやメロンの栽培地でした。1992年、角田浜に欧州ブドウ栽培研究所(現カーブドッチワイナリー)が設立され、ヨーロッパ系ブドウ品種の栽培が始まったのです。
そして2006年以降、カーブドッチワイナリーが開講したワイナリー経営塾の卒業生達が次々に周辺にワイナリーを創設。現在、新潟ワインコーストの5軒のワイナリーは直線距離にして約300メートル圏内に集積しており、いずれも自社畑でのブドウで醸造を手掛けるドメーヌ式のワイナリーを経営しています。
胎内市
2007年に地域活性化を目的に胎内市が「胎内高原ワイナリー」を設立。約7ヘクタールの広さのブドウ畑でヨーロッパ系のブドウ品種を栽培し、100%自社畑産のブドウでワインを生産しています。
畑は胎内市北部にある高坪山の中腹にあり、標高約250mと新潟県内のワイナリーの中では標高の高い場所にあります。土壌は粘土質がベースにもかかわらず、「だしかぜ」と呼ばれる強い風の影響でブドウの樹は通気性が良く乾燥し、病害虫の被害も少ないのが特徴です。
この地で造られるツヴァイゲルトレーベのワインが特に高い評価を得ています。
南魚沼市
ブランド米で有名な南魚沼市にもワイナリーが1軒あります。東には越後三山、西には魚沼丘陵が広がる稲作中心の地で、1970年代後半、地域活性化を目的にブドウ栽培が始まりました。
この辺りは冬季には雪が3メートル以上も積もる豪雪地帯ですが、夏は昼夜の寒暖差が大きいためブドウの糖度が上がります。
また、ヨーロッパ式の垣根仕立てでのブドウ栽培に県内で最初に成功しました。垣根仕立ては、冬は垣根をくずし、ブドウ樹を地面に寝かせて越冬させることができるため雪国に適した栽培方法なのです。
メルロやカベルネ・ソーヴィニヨンなどヨーロッパ系ブドウ品種を中心に栽培しています。
「海のワイン」の可能性
「新潟ワインコースト」のワイナリーはとりわけヨーロッパ系品種によるワイン造りを謳っており、耐病性に優れたアルバリーニョの栽培と醸造に力を入れています。
アルバリーニョとはスペインの北西部、大西洋沿いに位置するリアスバイシャス地方で栽培されている白ブドウ。海の近くで栽培されているため「海のワイン」とも呼ばれ、その豊かなミネラルと酸味から魚介との相性が良いことで知られています。
リアスバイシャスは雨が多いエリアで、年間降水量は1,600〜1,800mmで新潟と同等程度です。また、リアスバイシャスの土壌は粘土質の上に砂質があり、土壌も新潟と似た性質を持ちます。
日本海は海の幸も豊富ですから地元の料理とも相性が良いと想像できます。
新潟県に限らず、今、日本のワイン造りにおいて重要なことは、その土地にあったブドウ品種を見つけることです。新潟ワインコーストも海の近くに広がるワイン産地ですから、生産者達はアルバリーニョがこの地の適正品種となると期待しワイン造りに励んでいるのです。
まとめ
降水量が多い新潟県は、決してブドウの栽培に恵まれた地域ではありません。しかし、岩の原葡萄園は雪を利用して熟成庫を冷却する工夫をしたり、新潟ワインコーストでは遠く離れたスペインのブドウ品種の栽培に挑戦しています。また、山の中腹にある冷涼な胎内高原ワイナリーの畑には耐寒性に優れたツヴァイゲルトレーベの栽培に成功しました。
このように、新潟県のワイナリーはいずれも個性的ですが、共通するのはどのワイナリーも試行錯誤しながらその土地らしさを表現するべくワイン造りを行っていること。ひいては、それが地域の活性化、産地形成にもつながることでしょう。
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2018・厳選 日本ワイン&ワイナリーガイド
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