イタリアのリグーリア州は、温暖な気候と風光明媚な景観、そして何より海の幸とこの地方独特のワインを求めて、世界中から多くの観光客が訪れるリゾート地です。
リグーリア州のワインはもともと生産量が少ない上に地元でほとんど消費されてしまうため、日本ではあまり見かけません。
観光客に大人気というリグーリア州のワインとはどんなワインなのでしょうか?詳しく解説致します。
リグーリア州ってどんなところ?
イタリア北西部に位置するリグーリア州はティレニア海に面して弓形に細長く伸びた州で、西はフランスと国境を接し、北はピエモンテ州とエミリア・ロマーニャ州、東はトスカーナ州に接しています。州都のジェノヴァは、中世にヴェネツア共和国と並んで海洋国家として栄えた歴史を持つ、イタリア最大の港町です。
リグーリア海北岸に沿って南フランスのコート・ダジュールから続くリグーリア海岸は「リヴィエラ(イタリア語で岸の意)」の一部で、温暖な気候と風光明媚な景観により、国際的な観光地として知られています。音楽祭で有名なサン・レモや、険しい海岸に色とりどりの家屋が並ぶチンクエ・テッレは世界遺産に登録されており大変人気です。
気候は、海岸沿いは温暖な地中海性気候で内陸部は冬の寒さや夏の暑さが厳しい亜大陸性気候となっています。
イタリアではヴァッレ・ダオスタ、モリーゼに次いで小さな州。ピエモンテ州との境をなすリグーリア・アペニン山脈や西側のリグーリア・アルプス山脈とリグーリア海に挟まれ、州の65%が山岳地帯、35%が丘陵地帯で、平野はなく山と海に挟まれた細長い土地に多くの住民が住んでいます。
ワイン用のブドウ栽培はわずかな耕作可能な土地を利用して行われています。海に面した州ですが断崖絶壁が多く、急な斜面の段々畑でブドウ栽培が行われているのです。また、リグーリア州には多くの土着品種が存在し、魅力あるワインが造られています。
リグーリア州で造られるワイン
リグーリア州のワイン生産量はイタリア国内でヴァッレ・ダオスタ州に次いで少なく、そのほとんどが地元住民と多くの観光客によって消費されています。生産されるワインは赤ワインが35%、白ワインが65%と、白ワインが主体です。
そんなリグーリア州で造られる代表的なワインを紹介致します。
チンクエ・テッレ
チンクエ・テッレとはリグーリア州、ラ・スペツィアのリグーリア海岸沿いにある5つの村の総称で、ポルトヴェーネレや小島群などと共にユネスコの世界遺産に登録されています。
その世界遺産の名前を冠するワインは、リーグリアの土着品種ボスコにアルバローラ、ヴェルメンティーノをブレンドして造られる辛口の白ワインで、果皮と共に発酵させるのが伝統的な造り方です。そのため、ワインはややオレンジがかった色調をしています。
元々この土地は11世紀に要塞都市として生まれ、村と村をつなぐ道がなく隣の村との交通手段にも船を使うという孤立した村でした。平地がなく土地が痩せているため、作物の栽培が難しく、唯一育ったのがブドウでした。そのため人々は、海岸沿いの急斜面の岩盤を砕いてできた石垣の上に畑を造りました。
数百年かけて築かれてきたその石垣の全長は6,700キロメートルにも及び、万里の長城よりも長い距離です。畑の最大斜度は45度にもなるため、機械を使っての作業は不可能で栽培から収穫まで全て手作業で行われています。
また、チンクエ・テッレの原料ブドウを70日以上陰干しした「チンクエ・テッレ・シャッケトラ」という甘口ワインも造られています。ブドウを時々陽に向けて回し(「sciaシャック」= 回転させる)、採り入れる(「tra トラ」= 採る)ことから「シャッケトラ」と名付けられました。生産量の少ないチンクエ・テッレの中でも、特に希少なデザートワインです。
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ロッセーゼ・ドルチェアクア
リグーリア州で最初にD.O.C.を取得した赤ワインで、リグーリアの土着品種ロッセーゼから造られます。
リグーリア州といえば海岸沿いの畑のブドウから造られる白ワインのイメージが強いのですが、ドルチェアクア村は隣国フランスとの国境に接するインペリア県の西南部、リグーリア州の東部の丘陵地帯にあります。穏やかな地中海性気候で、昼間は暖かい風が吹き、夜は山からの冷たい風が吹くため昼夜の寒暖差が大きいことから、フレッシュな酸がワインに備わります。
明るいルビー色で心地よい果実味があり、かすかにスパイシーなロッセーゼは軽い早飲みのスタイルから、熟成能力をもったしっかりとした味わいのものまで、様々なタイプがあります。
栽培されているブドウ品種
リグーリア州で栽培されているピガートはヴェルメンティーノの一種と考えられている白ブドウで、ギリシャ原産です。香り高く黄桃のアロマを持ち、心地よい塩っぽさ(ミネラル感)とグレープフルーツのようなさわやかな苦みのある白ワインを生みます。
ピガートの名前の由来は諸説ありますが、ローマ時代に飲まれていた松脂をいれた香味ワインpicatumと言われています。現在でもギリシャには松脂をいれたワイン(レッツィーナ)が造られていますから、ギリシャとの関係性がうかがえます。また、ピガートは果実が完熟すると琥珀色の斑点が表面に現れることから、リグーリアの方言で「Pigau」(= 小さな琥珀色の斑点という意味)に由来するとも言われています。
ピガートを使った代表的なワインは、リグーリア州の州都ジェノヴァの西にあるサヴォーナ県、インペリア県で造られるD.O.C.「リヴィエーラ・リグレ・ディ・ポネンテ」(赤、白、ロゼ、発泡性、甘口のデザートワインがある)の白で、ピガートとヴェルメンティーノから造られます。みずみずしい味わいが特徴で、魚介料理との相性は抜群です。
リグーリア州のワインの現状
もともとリグーリア州のワイン生産量は他の州に比べて少ないのですが、ここ数年は輸出量が増加、作柄や天候にもよりますが、ワイン生産量も増えつつあります。
テロワールを尊重し、その土地らしさを表現したワインへの回帰が続く昨今、土着品種を用い、ブドウの栽培は手作業で丁寧に行われ、昔と変わらず独特な環境で造られるリグーリア州のワインが再評価されるようになったのは当然なことかもしれません。
まとめ
今では世界的な観光地となったリグーリア海沿岸の傾斜地に広がる美しいブドウ畑は、作物を育てる十分な平地がないリグーリアで、かつて人々が自然と向き合い、生きていくすべを得るために作られたものです。
そして今なお厳しい環境でブドウの栽培を続けているのは、この土地でしか生まれないブドウができるからでしょう。
参考文献・日本ソムリエ協会 教本 2018
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