前編では、ブドウ畑で荻原さんにブドウ栽培についてお話を訊きました。
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ブドウ畑から醸造所へ移動する車の中でも、荻原さんはブドウの話を熱心にしてくれました。ブドウに対する愛と熱量を表現し、自分の信じた道を進んで「ブドウ農家としてトップを極める」そんな覚悟や信念が伝わってきました。
また、斎藤さんが、「自分がどれだけダメかを知ることを知らせてあげることが私の仕事」とおっしゃっていて、お互いを理解して尊重できる関係だからこそ、孤高の強さを築いてゆけるんだろうなと感じました。
さて、次は醸造所へ移動し、キスヴィン・ワイナリーの醸造を担当する斎藤まゆさんに醸造施設の中を案内していただきながら、様々なお話を伺いました。
良い樽は香りや味が秀逸
―ワインをつくる上で樽が重要とお聞きしました。素材はもちろん、作り方となど樽にもさまざまな違いがあると思いますが、樽に対するこだわりを教えてください。
樽の作られ方はもちろんですが、それ以外にも、モノの価値というか、モノとしての面白さが樽にはあるんです。
樽を実際に触ってみれば分かると思いますが、切れ込みの入れ方ひとつとっても各メーカーで違いますし、持った時の感覚もそうですし、木の表面の滑らかさなど、メーカーによって”色”ってあるんです。
この”色”が大事ですね。
良い樽はワインづくりに影響するので、やっぱり良い樽を使うと香りや味が秀逸ですね。そして、良い樽は触っていて気持ちいいんです。他にも重さや丸み、大きさなど、秀逸な樽の良さは色々ありますが、ひとつの樽に偏ってしまうと、樽の感じがのっぺりとしてしまうので、敢えて樽の種類は統一せず、少しずつ差を持たせるようにしています。
そうすることで、美味しいブレンドが出来上がって、ワインの厚みに繋がってくるので。
―このセラーではどのワインを熟成させているんでしょうか?
ここでは甲州レゼルヴ、シャルドネ、シャルドネ・レゼルヴ。赤ワインはピノ・ノワールとシラーを熟成させています。
ピノ・ノワールに関しては、徐々にスタイルを変えています。
やっぱり、その時代その時代でお客様の反応が違うので、「ここが好き」とか「ここが嫌い」には耳を傾けています。あと、こういうブドウが出来たから、こういうワインしかつくれませんでしたとは言いたくなくないので、ブドウの品質は必ず上げています。
荻原も環境のせいにするのはプロじゃないという想いでブドウの品質を上げているので、ワインも去年よりもひと腕上げてみせる、という信念を持って感性を磨き、研究を重ねています。
ワインつくりの基礎はカリフォルニアから
―キスヴィンはロゼのラインナップが多いと思いますが、その理由を教えてください。
私自身、ロゼが大好きなんです。
ロゼは、白の代わりにもなれば、赤の代わりにもなります。また、気軽に飲むこともできますし、すごく華やかな感じにもなるので、色んな表情を持っているんです。
ロゼワインって「おまけ」みたいな扱いをされていますが、その「おまけ」みたいなもので、成功させられるワイナリーってすごくないですか?私自身、おまけみたいなものにこそ実力が表れると思っています。
だから、セカンドワインの存在があるわけですし、すごい高いワインに手を出せなくても、そのワインをつくっているワイナリーのスタンダードなものはやっぱり美味しいものが多いですよね。
そういう考えがあるので、ロゼワインはワイナリーの技量が試されると思っています。だからこそ、美味しいロゼワインを作って驚いてもらいたいですね。醸造家としての腕が試されるのがロゼワインと思っています。
ロゼはもっと飲んだ方がワインの世界が広がりますよ。
―今のワイン造りはブルゴーニュでの修行が活きているんですか?
どちらも活かせていますが、どちらかというと、カリフォルニアの方ですね。
理由は、カリフォルニアで醸造の基礎を学ぶことができたからです。
ワインのつくり方を知らない人でも絶対につくれるようになるプログラムでしたが、勉強は本当に大変でした。しかし、その基礎があったからこそ、世界中どの産地に行っても働けるという自信がついたんです。
ワインの世界は知識があることが強い世界ですし、実力の世界ですからね。自分の能力をどれだけワイナリーのために活かせるか?をプレゼンしていかなければいけない世界なんです。
そのプレゼンができなければ、ただの作業員で終わるかもしれませんし、どこかのワイナリーの醸造責任者であれば、能力があることを認めてもらわなければいけません。
今では、ワインをつくるだけではなく、ワインを売る能力まで見られます。カリフォルニアでは、ワインをつくって、売ってから利益を出すというところまでを学ぶことができたのは本当に大きかったですね。カリフォルニアに行ったのは私の人生の中で最良の選択でした。
ジュラール・バッセも認めた甲州スパークリング
―甲州スパークリングについてお話を伺えればと思います。甲州スパークリングはカーボネ―ションにてつくられていますが、その理由を聞かせてください。
甲州というブドウ品種には繊細さを感じているので、スパークリングとしてどうやって完成させるか?と考えた時に、瓶内二次発酵の期間をかけることと、イースト・オートリシスという、酵母が自己分解する際に発生する香りに私自身、魅力を感じなかったんです。
もし、シャルドネやピノ・ノワールを使ってスパークリングをつくっていく時があれば、瓶内二次発酵の方式を取るかもしれませんが、必ずしも瓶内二次発酵が良いと限らないのが私の考えです。リーズナブルで親しみやすい、とにかく楽しいスパークリングを作りたかったというのもあります。
甲州スパークリングはお客様からの要望があってつくったんですが、自分たちに合ったつくり方を考えた時に、フレッシュさと熟成感のバランスが、甲州のスパークリングなんじゃないかなと思い、カーボネ―ションで作っています。
個人的には、開けたての泡の感じが強めに出ることもあると思うので、開けて数日後の方が美味しい時があるかもしれません。
もともとのワインの輪郭は丸いので、そこに炭酸を合わせることで、ドライな感じが出てきます。だから、酸味と甘みがある梅干を口に含んで、甲州スパークリングを飲むと、その丸さが際立つのでおすすめです。
あと、ジェラール・バッセの会話のきっかけになったのは、実は甲州スパークリングなんです。ジェラール・バッセがこのワインを飲んで、日本のワインも捨てたもんじゃないなと思い、声をかけてくれたんですよ。
―ちなみに海外にも輸出されているんですか?
輸出していますよ。フランス、アメリカ、台湾、香港、シンガポールとか…。
ワインの世界は実力が全てなので、ものすごく美味しくて魅力的なワインがあれば、世界中からバイヤーが来るはずなんです。でも、日本には世界中からバイヤーがこぞって来ているでしょうか?
例えば、カリフォルニアのナパやブルゴーニュには、観光客で賑わって、何もしなくても人が集まってきます。ワインってそういう世界なんですが、今はあらゆる情報網も交通も輸送手段も発達したので、一生懸命に売り込みにいかなくてはいけないのなら、それは大したワインを作っていないということなのかな、と。
そうやって強がりを言っていたら、本当にたまにここにバイヤーが来るようになって、少しずつ海外に出ていくことも増えてきました。
―最後に斎藤さんが醸造で大事にしていることを教えてください。
ブドウやワインに優しくなれるだけの強さを持つことですね。
強さというのは体力的な強さもそうです。重いものを運ぶような作業を延々とできるのかどうかですね。体力がなければ、ワインつくりはできません。
あとは、優しさです。収穫の時に、ブドウを丁寧に優しく、しかもスピード感を持って取り扱えるかどうか。ワインという液体を扱うときに、可能な限りの醸造のオプションを持っていられるかどうか。
知識や経験の面でも強くなれば、ワインに優しく接することができるのです。すごく基本的なことなんですが、それが今の自分にとって大事にしていることですね。
―今日はありがとうございました。
荻原さんと斎藤さんにはキスヴィン・ワイナリーの魅力を熱く語っていただきました。
毎日畑に出向いて、ブドウの樹とコミュニケーションを取る。また、ファンひとりひとりに耳を傾けて、お客様ともコミュニケーションを取りながら、トライ&エラーを繰り返して、
成長していく姿を見て、応援せずにはいられません。
醸造所で飲ましていただいた、2018年のピノ・ノワールは本当に美味しかったですし、世界に通用すると言っても過言ではない逸品でした。今からリリースされるのが待ち遠しいほどです。
そんな世界に通用するキスヴィン・ワイナリーの美味しさを、エノテカを通じて出会い、それぞれのライフスタイルに彩りが生まれたら、これほど嬉しいことはありません。
また、ワインをつくる人たちには、こんなに熱いエピソードを持っている方がたくさんいます。だからこそ、美味しいワインがどうやってつくられているのか?を伝えたいですし、それぞれの好きやこだわりを今後も届けていきたいと思います。
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