数多あるお酒の中で、ワインが魅力的なのは「長期熟成」という素晴らしい特徴があることではないでしょうか?
寝かすことで香りに深みが増し、若かった頃には感じられなかった馥郁さを楽しむことができます。
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熟成年と香りに「正の相関性」はない!?
しかし、熟成の年月の割には香りがそれほど感じられなかったという残念な経験はないでしょうか。
筆者がこの現象に何度か出くわしたのはリースリングです。リースリングというとアロマティックブドウ品種の一つに数えられ華やかなイメージがあるもの。
しかし瓶詰されて2~3年のものを開けると、なぜか香りが抑制されており本来のポテンシャルが十分に発揮されてないことが多いのです。
一般的には熟成年と香りのボリュームには「正の相関性」がありそうなもの。それなのに何故このような現象が起きのでしょうか?
AWRIが解明した香りの秘密
このことについて長年研究をしているのがオーストラリアのワイン専門リサーチ機関のAWRI(The Australian Wine Research Institute)です。
AWRIによると香りには二つのタイプがあります。一つは「揮発しやすい」ものと、そしてもう一つは「揮発しにくい」ものです。
特にフルーツや、花の香りは発散しやすく、ワインが若い頃に豊かに香ります。それに対して、土、ミネラル、スパイス、ハチミツの香りは発散しにくく、支配的に香るようになるには歳月を要します。
ここで一つポイントとなるのは香りのタイプによってそのピークが異なるということです。
香りが「閉じている」とは?
次に下記のグラフ(注1)をご覧ください。
バナナとバラの香りは瓶詰めして1年未満が香りのピークです。それに対して、トーストや石油の香りは瓶詰めして3年前後が香りのボリュームが最も強くなっています。
(注1)引用:The_AWRI“The flavour of bottle-aged Riesling – predicting and controlling future chemistry” Youtube.<https://www.youtube.com/watch?time_continue=811&v=W4zfeNhel28&feature=emb_title>(参照日2020年4月1日)
注目すべきは瓶詰めして2~3年目です。バナナ・バラの香りが降下しているにも関わらず、トースト・石油の香りがさほど増加していない期間があるのです。
このタームで四つの香りを足し合わせると他の瓶熟成期間と比べてすっぽりと穴が開いたように香りのボリュームが低くなることがわかります。2~3年経ったリースリングを開けると、香りが抑制されているように感じるのはこのためなのです。
このようにワインの香りがいったん控えめになる期間や状態を香りが「閉じている」といいます。(英語では「closed」、仏語では「fermé」と表現されます)
品種・産地ごとに異なるクローズド期間
上述の通りAWRIは「リースリングに関しては瓶詰めして2~3年が一番香りは閉じやすい」と解き明かしています。
次に気になるのはブドウ品種によって香りが閉じるタイミングや期間が異なるのかという点です。
以下、ジャンシス・ロビンソンMWの『Purple Page』からテイスティングコメントを引用し見てみましょう。まずはプルノットのバローロ・ブッシア2015年を2019年に試飲したときのコメントです。
Developing mid ruby with orange tinges. A little stalky, and balsamic and a little bit closed in terms of the fruit.
熟成を感じる外観。中程度のオレンジがかったルビー色。かすかに茎っぽさや、バルサミコのような香り。フルーツに関してはわずかに閉じている。
次はシャトー・パルメ1989年を2009年に試飲したときのコメントです。
Deep garnet. Initially more closed than the 1985 and the 1986 but opens out to great complexity. Fresh cedary spice and tobacco on the nose.
深いガーネット色。最初は1985年、1986年ヴィンテージより閉じていたが、あとから非常に複雑性が増してきた。清涼感のあるシダのようなスパイス、タバコの香りを感じる。
このコメントからバローロなら瓶詰めから4年経っても閉じた状態だったということが分かります。何より興味深いのはボルドーのカベルネ・ソーヴィニヨンならば瓶詰めから20年経っても最初は香りが閉じているように感じたとコメントしていることです。
どうやら香りが閉じている期間は品種と産地の組み合せによって異なり、一様には言えないようです。
香りが閉じていた時の対処法
「今が飲み頃」と思って抜栓しても、香りが開いておらず裏切られたような気持ちになるのは、ワインはある意味生き物のようで、その香りの揮発のスピードには品種や産地、あるいは保管環境によって個体差があるからではないでしょうか。
もし香りが閉じたワインに出会ったときの対象法をお教えします。
ポイントはワインを空気に触れ合わせることです。そうすることで香りが揮発しやすくなります。
レストランならソムリエにデキャンティングをお願いしてもいいでしょう。家飲みなら抜栓した日は1、2杯だけ楽しんで、翌日にとっておくというのもおすすめです。
ワインはQue Será, Será(ケ・セラ・セラ)で楽しむ
ワインは瓶詰めされてからも刻一刻と変化しています。命を与えられた特別な飲み物と言っても過言ではないでしょう。どこで開けるかによって異なる香りを楽しむことができるのもある意味ワインの醍醐味なのです。
「香りが開いていなかったらどうしよう」と思い悩むよりも、Que Será, Será(あれこれ気を揉んでもしかたない)と楽しみたいものです。