ルーマニアはブドウの栽培に適した気候と土壌を持ち、ワイン造りにおいて古い歴史と伝統のある東欧の国です。
ワインの生産量は東欧諸国内で1、2位を争う重要なワイン産出国でありながら、残念ながら日本ではあまり知られていません。
それはルーマニアが戦後しばらく世界のワイン市場から姿を消したこと、また、生産量の大半が自国で消費されてきたことが関係しています。
しかし、近年は土着品種から造られる高品質なルーマニアのワインがヨーロッパで注目を浴びています。
今回はそんなルーマニアのワインについて詳しく解説致します。
目次
ルーマニアってどんなところ?
ルーマニアはヨーロッパの南東に位置し、南西にセルビア、北西にハンガリー、北にウクライナ、北東にモルドバ、南にブルガリアと国境を接し、東は黒海に面しています。国土の面積は23.8万㎢で日本の本州とほぼ同じ大きさです。
国の中央をほぼ逆L字のようにカルパチア山脈が通り、欧州大陸を貫く大河ドナウ川が南部のブルガリアとの国境沿いを流れ、最後は黒海に注いでいます。
ルーマニアにとってドナウ川は河川交通、黒海交通の要衝であり、河口に広がる欧州最大のドナウデルタ(三角州)は世界自然遺産にも指定されています。
国土の3分の2は山と森林ですが多くは肥沃な大地で、歴史的にも農業が大きな役割を占めてきました。そのためブドウ栽培にも適した土地で、東欧では重要なワイン産地です。
ルーマニアは南フランスとほぼ同じ北緯44〜48度の範囲に位置し、気候は温帯大陸性気候で、地方により冬の気温がマイナス20度を下回ることもあるなど、厳しい冬となります。
ただ、黒海の影響を受ける地域は比較的温暖な冬が見られるなど、国土の中央に走るカルパチア山脈を境に、山岳部と平原部で気候が大きく異なり、それぞれのワイン産地の特殊な微気候があります。
ルーマニアはワラキア公国とモルドバ公国西部が1895年に合併して成立した国ですが、二度の世界大戦中は近隣諸国と国土の併合、割譲を繰り返してきました。
戦後は社会主義政権が樹立、その後、長きにわたる独裁政権と1989年のルーマニア革命による民主化は記憶に新しい方も多いのではないでしょうか?
2007年1月のEU加盟後は、共産主義時代の経済的な低迷から徐々に復活。ワイン産業においても改善が進み、ワイン法も見直されました。
現在は設備投資が活発化し、ブドウ栽培と醸造技術が急速に向上しています。
ルーマニアのワイン造りの歴史
ルーマニアのワイン造りの歴史は古く、キリスト教以前の紀元前4000年頃に遡ります。
紀元前、ルーマニアの位置する地域はダキアと呼ばれていましたが、ダキアの王ストラボは、編史『地理学』で、ダキア人にとってワインは水よりも大事であると記しており、その頃からワインが飲まれていたことが分かります。
中世には修道院や教会がワイン造りに携わっており、ルーマニアの中でもコトナリ地方は当時すでにワインの銘醸地として名声を得ていました。特にコトナリ地方の白ワインは中世のヨーロッパの皇帝・国王たちが愛飲していたと言われています。
1880年にはルーマニアの西部でフィロキセラが発見され、全国に広がりました。また、この頃から、シャルドネやピノ・グリ、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨンといったフランス系ブドウ品種を導入。1889年に開催されたパリ博覧会でルーマニアワインが高い評価を得たことから、パリで大ブームとなりました。
しかし、第二次世界大戦後は社会主義国家となり、西欧諸国との交流が閉ざされたことで、ルーマニアワインは市場から姿を消します。
ルーマニアの農地は集団農場化され、ワイン造りも国営となりました。さらに、質より量を重視した政権によりルーマニアワインの品質は著しく低下しました。
1989年の民主化後、ワイン製造を独占していた国営の協同組合は廃止され、農地は生産者に返却されましたが混乱はしばらく続きました。2001年頃にはようやく国内の8割程度のブドウ畑が個人所有となりました。
さらに、EUへの加盟をきっかけに、再びルーマニアワインが市場で紹介され注目されるようになったのです。
近年は質の良いクローンが導入されると同時に、世界のワイン産地で経験を積んだワインメーカーが醸造に携わるなど、小規模生産者による高品質なワインの製造にシフトしています。
ルーマニアのワイン産地
ルーマニアではほぼ全土でワインが造られており、ドナウ川沿いに点在する産地を除いて7つの地域に区分されています。また、ワイン法はEUの基準に準じており、現在33件のDOC(原産地呼称保護)と12件のIGP(地理的表示保護)が登録されています。
ここでは、白ワインの産地として有名なコトナリと、赤ワインの産地として有名なムルファトラールを紹介します。
コトナリ
ルーマニアの北東部、カルパチア山脈の東側に位置するモルドヴァ地方はルーマニアのワイン産地としては一番広く、また歴史の古いブドウ栽培地域です。
地勢の大部分は平原で、中北部ヤシ県コトナリは古くから白ワインの銘醸地として知られてきました。1889年のパリ博覧会で、最高賞を得たのもコトナリのワインでした。
この地域は石灰岩の土壌と温暖な気候によりブドウの糖度が上がるため、甘口の白ワインの生産に理想的な環境とされています。
とりわけ、貴腐菌がついたグラサ・デ・コトナリという品種から造られる甘口ワインは、歴史的にもトカイと並び称され、「モルドヴァの真珠」とも言われています。
最近では、グラサ・デ・コトナリから辛口ワインも造られるようになり、評価されています。
ムルファトラール
ルーマニア東部のワイン産地ムルファトラールは、ドナウ川と黒海の間に位置するドブロジャ地方に位置します。
黒海から近く、年間の日照時間が長く比較的温暖な地域で、ドブロジャ地方の有名なブドウ畑はムルファトラールに集中しています。
土壌は黄土がほとんどで、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワールなどの国際品種とともに、土着品種のフェテアスカ・ネアグラも栽培されています。
近年、赤ワインの評価が以前に増して上昇しつつある地域です。
変わった名前の土着品種
ルーマニアで栽培されている国際品種は、栽培面積の多い順にメルロ、ヴェルシュ・リースリング、アリゴテと続きますが、これらの品種とともに古代から栽培され続けている土着品種も数多く存在し、100種類以上が確認されています。
個性的なネーミングが多いのも特徴です。そんな変わった名前の土着品種を紹介します。
フェテアスカ・アルバ
ルーマニア語で「白い乙女」という意味の白ブドウ。
モルドバ公国時代から栽培されており、ルーマニアとモルドバ両国の土着品種として知られている古代品種です。
芳香のあるブドウ品種で、リンデンのような白い花の甘い香りを思わせるエレガントなワインを生みます。
フェテアスカ・レガーラ
ルーマニア語で「高貴な乙女」という意味の白ブドウ。
最近のDNA鑑定では、フェテアスカ・アルバとモルドヴァ地方のフランクシャとの交配品種と判明されました。霜やカビにも耐性があり、フェテアスカ・アルバより栽培しやすい品種です。
ボディがしっかりしており、ブレープフルーツや白胡椒のニュアンスが特徴。白ブドウには珍しく、果皮にタンニンを多く含んでいます。
ルーマニアでは2017年の時点で最も多く栽培されているブドウ品種で、国内消費用として主に多少残糖のあるワインが造られています。
フェテアスカ・ネアグラ
ルーマニア語で「黒い乙女」という意味の黒ブドウ。
果実は大きめで、円柱から円錐型の房を付けます。粒は丸く高密度で、果皮は黒みがかった赤みのある紫色をしています。樹勢が強く、霜や干ばつ、腐敗に強い品種です。
しっかりとした酸もあり、高品質なワインに向いているとして近年多くの生産者の間で注目されています。栽培量は2006年の1270haから2017年には2665haに倍増しました。
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まとめ
今でこそワインの主要生産国はイタリア、フランス、スペインなどの西欧諸国ですが、これはローマ軍がもともと黒海周辺で造られていたワインの製造技術を西に広げていったことによります。
今、私たちが愛飲するワインという飲み物が、ルーマニア(が位置する地域)で6000年以上も昔から造られていたことを想像すれば、改めてワイン文化の壮大な歴史とロマンに感動を覚えずにはいられません。
最近は土着品種から造られる高品質なルーマニアのワインを日本でも見かけるようになってきました。是非一度お試しください。
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2020
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