優れたワインの生産地が生産エリアの拡大を続け、大量生産のワインに成り下がるのは珍しくないことです。良くも悪くもイタリアで最も有名なワイン、キャンティもそんな憂き目に遭いました。
そうした中で多くの高品質なワイン生産者は、その安価なイメージから脱却するためキャンティという名を捨て、去っていきました。
しかし今回は、頑固一徹「キャンティ」の看板を掲げ続けた、カステッロ・ディ・アマの魅力を担当バイヤー笠原に語ってもらいました。
【プロフィール】笠原亮
JSA認定ソムリエ / WSET level3。エノテカ国際事業部にて中国に5年間駐在し、現地事業の立ち上げを経験。現在はブランドマネージャーとして生産者の想いを伝える伝道師を目指して奮闘している。WSET Diploma受験中。
カステッロ・ディ・アマとは?
―まずはカステッロ・ディ・アマについて簡単に説明してもらえますか?
はい。カステッロ・ディ・アマ(以下アマ)は、イタリア・トスカーナ州キャンティ・クラシコを代表する生産者です。
オーナー醸造家のマルコ・パランティさんは、長年キャンティ・クラシコ協会の会長も務めるなど、自他ともに認めるキャンティの顔でもあります。
ワイナリーの歴史は古く18世紀には、トスカーナ大公が「カステッロ・ディ・アマ周辺はとても手入れの行き届いた土地であり、キャンティ・クラシコの中では最も優れたブドウが育つ場所である」と賞賛するほど、優れたワインが生み出される土地として知られていました。
そんな偉大な土地を所有していたセバスティ家に醸造家のマルコさんが婿入りし、瞬く間に世界的な生産者の仲間入りを果たします。
マルコさんは、ボルドー大学でシャトー・ムートン・ロスチャイルドの元醸造責任者パトリック・レオン氏などから最先端のワイン造りを学び、アマのレベルを引き上げたんです。
―そんなアマとエノテカが出会ったきっかけってなんですか?
出会いというか、当時既にアマは有名な生産者になっていたので、もともと知っていたそうです。実際に買い付けに行って、数あるキャンティを試飲しても一番美味しかった。ブルゴーニュ的でテロワールを表現するアマのスタイルは一線を画しています。
だからエノテカとしてはすぐに取引を始めたかったのですが、すでに日本のインポーターがいたので、契約を結ぶまで何年間もかかりました。毎年イタリアに行くたびに口説いていたみたいです。
そんな膠着状態が崩れたのが、オーナー兼ワインメーカーであるマルコさんの来日。直接エノテカのショップを見てもらい、改めてエノテカの哲学を話せたことで、アマの哲学と重なる部分をマルコさんが感じてくれたので話が進んだそうです。
カステッロ・ディ・アマの哲学
―初歩的ですが、アマのスタイルってどんなスタイルでしょうか?
マルコさんの言葉を借りると、ワインには3種類あるそうなんです。①醸造家が前面にでているワイン、②ブドウが前面に出ているワイン、③テロワールが前面に出ているワインです。
マルコさんは3つ目のテロワールが前面に出ているワインを目指していて、「良いワインを造る為に、技術が勝ってはいけない。ワインの後ろに自分がいて、テロワールとブドウを表現したい」と言っています。
―少し難しいですね。具体的にテロワールはワインのどんな所に感じられますか?
一言でいうとバランスの取れたエレガントさですかね。アマのワインは、熟した果実味と滑らかなタンニンを感じられる一方で、しっかりとした酸が1本通っているのでバランスが良い。これはアマの畑に由来する個性なんです。
通常のキャンティに比べて標高が高いキャンティ・クラシコは200-500mに広がっていますが、アマの畑は最も高くて冷涼な500m付近のエリアにあります。だからブドウが完熟するまで待ってもフレッシュな酸が保たれる。土壌はガレストロと呼ばれる石灰質が豊富な土壌でミネラル感も備わる。
これらに由来する果実味・酸味・ミネラル感のバランスが、ワインに感じられるテロワールだと思っています。
職人気質の頑固親父
―話が変わりますが、キャンティといえば安価なイメージを捨てるために離反した生産者が多い生産地ですが、アマはずっとキャンティですよね。
マルコさんとしては、どんな考えでやってるんですか?
そうなんです。一時期は廣瀬会長も「キャンティを辞めた方が良いのでは?」と提案していたみたいです(笑)
だけどトスカーナ生まれのマルコさんは、地元の酒とブドウであるキャンティとサンジョヴェーゼへの拘りが凄くて、その点に関しては頑固親父みたいなんです。
もともとアマが世界的に有名になったのは、1992年スイスのブラインドテイスティング品評会でラッパリータ(※)がペトリュスを破って優勝したのがきっかけ。当然ラッパリータが有名になったので、色々なワイン評論家からサンジョヴェーゼを抜いて、メルロを植えた方が良いと言われたようですが、マルコさんはこの地はサンジョヴェーゼの土地だと頑なに断ったそうです。
(※)メルロ100%で仕立てられたキュヴェ
「あの時、メルロを植えていればもっとお金持ちになっていたかもしれないけど、おれは魂を売らなかった」とマルコさんは今でも言っています(笑)
だから未だにラッパリータの畑は1985年のリリース当時と同じ大きさのまま、生産本数も少ないんです。
日本の職人さんに似たところを感じるんですよね。物事の本質を掴むのが上手で、意思が固くて、その本質をひたすら磨き上げているイメージ。そのせいか割烹やお寿司屋さんに行くと、板前さんと意気投合することも多いです。
―磨き上げると言えば、キャンティ・クラシコの最上級格付けグラン・セレツィオーネはマルコさんが尽力して制定されたんですよね?
そうです。マルコさんは長年キャンティ・クラシコ協会の会長を務めていましたが、その間に彼が尽力したのがグラン・セレツィオーネの制定です。
良くも悪くもキャンティというのは有名で、他のワインより生産量もあって、安価なワインというイメージが定着している。でも高品質なワインを造りたい生産者はそういった括りから出たくて、キャンティという名前を捨てる生産者も多いじゃないですか。
アマも高品質なワインを造る生産者ですが、マルコさんは自分のワイナリーだけでなく、キャンティ全体として世界に理解されたいという想いがあるみたいです。
そのためにグラン・セレツィオーネという格付けを導入することで、「幅広い品質のワインが存在するキャンティの中でも一定の高い品質を保証できる表現になるんじゃないか?
そして将来的には、キャンティという名前を捨てた生産者も戻って来てくれるんじゃないか?」と期待していると語っていました。
本当に職人気質で、キャンティとサンジョヴェーゼに誇りをもっている人なんです。だからこそエノテカとして、アマの素晴らしさを日本の人達に伝えたいと思っています。
わかる人にはわかるワイン
―それでは最後に、笠原さん的にこれは絶対に飲んでみてほしい!というワインを教えてください。
やっぱりキャンティ・クラシコ グラン・セレツィオーネ サン・ロレンツォですね。
アマのワインは、派手ではなくてキャッチーな味ではないんですけど、わかる人にはわかるワインだと思っています。それが一番伝わるのが、このワインです。
結構な価格なので「キャンティなのに高い」と思われがちですが、そうじゃなくて「ボルドーの格付けシャトーや、ブルゴーニュの1級畑に匹敵する品質なのに安い」と思います。
実は昨年、自分の結婚式でも最後の赤ワインとして2013年を出しました。もちろんエノテカのスタッフも多かったんですが、大満足というコメントをもらえましたよ(笑)
わかる人にはわかるワインというのも、マルコさんの職人気質な人柄そのものですね。改めてワインは、造り手や土地を映し出すお酒だと強く感じさせられたインタビューでした。
カステッロ・ディ・アマの伝道師、笠原バイヤー、どうもありがとうございました!
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