イタリア半島中部、アドリア海に臨む自然豊かなアブルッツォ州。イタリア屈指のワイン生産量を誇り、日本でも気軽に楽しめるイタリアワインの代表格として人気です。
アブルッツォ州のワインはそのコストパフォーマンスの高さが最大の魅力ですが、最近は有機栽培のブドウから質の高いワインを造るなど、新しい動きが見られるようになってきました。
今回はアブルッツォ州のワインについて解説します。
アブルッツォってどんなところ?
アブルッツォ州はイタリア半島中部に位置し、東はアドリア海、西はラツィオ州、南はモリーゼ州、北はマルケ州に接しています。
州の西側にはイタリア半島を南北に走るアペニン山脈の標高の高い山々が連なっており、最高峰のグランサッソ山塊のコルノ・グランデ(2,912m)があります。州の65%が山岳地帯で、アドリア海とアペニン山脈の間には丘陵地帯があり、平地はわずか1%しかありません。
アブルッツォ州は中央イタリアに位置していますが、1860年にイタリア王国に統一されるまではナポリ王国の領土であったため、歴史的にも文化的にもイタリア南部に近いと言えます。山岳が多いこともあり人口密度が低く、他の南イタリアの州同様経済は遅れており、戦前まではイタリアで最も貧しい州の一つでした。
1960年代以降は、首都ローマとアブルッツォを結ぶ高速道路の完成を契機に工業化が進みました。
アブルッツォ州のブドウ畑は海と山に挟まれた丘陵地帯に広がっています。基本的に夏は暑く乾燥し、冬は温暖で雨が多い地中海性気候ですが、内陸部の標高の高いエリアは冷涼です。
ただ、アドリア海から内陸に入るとすぐに丘陵地帯で、30〜50kmで山岳地帯となるため、ほとんどのブドウ畑は海と山の両方の影響を受けます。
アブルッツォ州はもともとブドウ栽培に適したテロワールのため、それほど努力しなくても良いブドウが栽培できました。多くはバルクワインとして州外に売りに出され、長年にわたり質より量を重視したブドウ栽培が行われてきたのです。
しかし近年は、自ら瓶詰めするドメーヌ型ワイナリーが増え、豊かな自然を背景に、テロワールを全面に打ち出したワインが造られるようになってきました。
アブルッツォで造られるワイン
アブルッツォ州を代表する2種のワインを紹介します。
モンテプルチァーノ・ダブルッツォ
中部イタリアで最も重要な黒ブドウ品種モンテプルチャーノ種から造られる赤ワイン。アブルッツォ州のほぼ全域で大量に生産され、シンプルでフルーティーな早飲みのワインから、長期熟成能力をもつ複雑なワインまで様々なタイプが存在します。
モンテプルチャーノはイタリア全土でサンジョヴェーゼに次いで多く栽培されているブドウ品種で、アブルッツォ州の他、マルケ州、ウンブリア州、プーリア州でも栽培されています。成熟が遅く、果皮にタンニンを多く含むため、マセレーション(浸漬)次第でしっかりとした果実味を持つ濃厚なワインとなります。サンジョヴェーゼのワインに比べると酸が控えめなことも特徴として挙げられます。
特にテラモ丘陵で栽培されている良質なモンテプルチャーノから、凝縮感のある力強いスタイルで長期熟成可能なワインが造られおり、その優位性から2003年に「モンテプルチアーノ・ダブルッツォ・コッリーネ・テラマーネ」として、アブルッツォ州唯一のD.O.C.G.に昇格しました。
ちなみに、トスカーナ州のD.O.C.G.ワインに「ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチァーノ」というワインがありますが、この「モンテプルチァーノ」は村の名前であり、ブドウの名前ではありません。サンジョヴェーゼから造られるワインです。
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トレッビアーノ・ダブルッツォ
トレッビアーノ種から造られるフレッシュで爽やかな辛口白ワイン。生産地はモンテプルチアーノ・ダブルッツォと同じで、アブルッツォ州の全域で造られています。
トレッビアーノはその亜種も含めるとイタリアで最も生産量の多い品種で、イタリア中部をはじめ全土で栽培されています。トレッビアーノ・ダブルッツォの原料となるトレッビアーノは、トレッビアーノ・アブルッツェーゼとトレッビアーノ・トスカーナの2種で、ブレンドもしくはどちらかの単一品種で造られます。
トレッビアーノは晩熟で、比較的育てやすい品種です。樹勢が強く容易に高い収量を得られる分、酸が強く、個性やエキス、アルコールが低いワインになりやすいため、栽培時はグリーンハーベスト(間引き)などの工夫が必要です。
フランスではユニ・ブランと言い、ブランデーのコニャックやアルマニャックの原料として使われており、フランス最大の栽培面積を誇る白ブドウです。
トレッビアーノ・ダブルッツォは生産者によって清涼感のあるものからボリューム感のあるものまで多様ですが、爽やかな酸味と果実味を持ち合わせた比較的シンプルな味わいのものが多いため、どんな料理にも合わせやすいのが魅力です。
アドリア海に面して長い海岸線を持つアブルッツォ州は海の幸も豊富ですから、地元ではよくシーフード料理と合わせて楽しまれています。
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アブルッツォワインのトピックス
アブルッツォ州のブドウ栽培面積のおよそ8割をモンテプルチャーノ種とトレッビアーノ種の2種が占めていますが、最近はペコリーノやパッセリーナといった固有品種の栽培が増えつつあり、それらから造られる単一品種のワインが注目されています。
ペコリーノもパッセリーナもマルケ州とアブルッツォ州で栽培されている土着の白ブドウで、ペコリーノは酸が堅固な力強いワインを、パッセリーナは柑橘類やトロピカルフルーツを感じさせる華やかな香りとフレッシュな飲み口を持つ白ワインを生みます。
土着品種への取り組みだけでなく、アブルッツォ州では近年、栽培・醸造技術の進歩が目覚しく、質より量のワイン造りから高品質なワイン造りへと転換する生産者が増えています。
まとめ
日本でも人気のモンテプルチャーノ・ダブルッツォやトレッビアーノ・ダブルッツォ。これまで以上にクオリティが高くなっているとは嬉しいですね。
あわよくば、コストパフォーマンスの高さはそのままに、今後も気軽に私たちの食卓を豊かにしてくれるワインであってほしいと思います。
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2020
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