360年以上にわたるワイン造りの歴史を持つ南アフリカ共和国。1994年のアパルトヘイト撤廃後、ワイン市場は拡大の一途をたどり、現在は環境と人に配慮したワイン造りを行うニューワールドのリーディングカンパニーとして世界から注目されています。
南アフリカでは人気の高い国際品種の栽培が中心ですが、この国の固有品種であるピノタージュからも魅力的なワインが造られています。今回はそんなピノタージュについて解説いたします。
ピノタージュとは?
種類 | 黒ブドウ |
主な産地 | 南アフリカ共和国・西ケープ州 |
香り | プラム、ラズベリー、スモーキーな香り |
味わい | 豊富な酸味と果実味、なめらかなタンニン |
ピノタージュは南アフリカでピノ・ノワールとサンソーを人工交配種して生まれた黒ブドウで、南アフリカを代表するブドウ品種です。サンソーは南アフリカでエルミタージュと呼ばれていたことから、ピノ・ノワールのピノとエルミタージュのタージュをとってピノタージュと名付けられました。
ピノタージュは頑丈で病害にも強いため栽培しやすく、比較的容易に高い糖度が得られます。
最も有名な産地は南アフリカ・西ケープ州。穏やかな地中海性気候のこの地域では、春から夏に冷涼で乾燥した風が吹くため、防虫剤や防カビ剤の使用も最小限に抑えることができ、非常に良質なピノタージュが栽培されています。
ピノタージュの歴史
ピノタージュは1925年、ステレンボッシュ大学のブドウ栽培学の教授であったアブラハム・アイザック・ペロード教授がピノ・ノワールとサンソーを交配させ、大学内にあった自宅の庭に植えたのが始まりです。
ペロード教授はサンソーのように南アフリカでの栽培が容易で、かつ、ピノ・ノワールように繊細さと優雅さを兼ね備えた、品質の安定したブドウを作り出そうとしていました。その後、教授は大学を離れてしまいましたが、ピノタージュの苗木は農業大学へ移し管理され、1941年に商業的な植樹が行われるまでになりました。
世界で最初にピノタージュのワインがお披露目されたのは1959年。この年に行われたケープワインショーで、非常に高い評価を得ました。そして、1961年にランゼラック社から初めてピノタージュのワインが商品化されると、南アフリカでピノタージュの植樹が進みました。
しかし、1976年、南アフリカを訪れたイギリスのワイン専門家たちはピノタージュのワインにアセトン(除光液)のような不快な香りがすると酷評。それ以降、わずかな生産者を除いて、ピノタージュは畑から抜き去られ、新たに植樹されることはありませんでした。
その後、1987年に開催されたダイナースクラブが主催するワインメーカー・オブ・ザ・イヤー選定会で、再びピノタージュに注目が集まりました。さらに1990年初頭にはアパルトヘイトも撤廃され、南アフリカのワインが世界へ輸出されるようになると、ピノタージュのワインも知名度が上がり、南アフリカを代表するブドウ品種へと成長します。
現在、南アフリカにおける黒ブドウの栽培面積でピノタージュは、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーに次いで第3位。ピノタージュから造られるワインはしっかりと樽熟成させたフルボディタイプから、フルーティーでカジュアルなデイリータイプまで多様なスタイルが存在します。
また、10年ほど前から、ピノタージュを30〜70%使用し他の品種とブレンドして造られる「ケープブレンド」スタイルも確立されました。
ピノタージュのワインと合う料理
南アフリカにはインド、マレーシア、インドネシア系の移民が多く住んでおり、彼らの本国の香辛料を多用した料理がよく食べられていることから、ピノタージュはスパイシーな料理とよく合うと言われています。
例えば、コリアンダーやターメリックを効かせたカレー、スパイスに漬け込んだ肉を焼くバーベキュー、スイートチリソース(サンバル)やナンプラーで味付けするインドネシアの焼き飯や焼きそば(ナシゴレンやミーゴレン)です。
一般的にピノタージュのワインはサンソー種の持つスパイシーさとピノ・ノワール種の持つ華やかさやチャーミングな果実味を併せ持つため、スパイシーで甘辛い味付けの料理と相性が良いのです。
そのため韓国料理でよく使う甘辛い調味料コチュジャンともよく合います。豚バラ肉を焼いてコチュジャンを付けて食べるサムギョプサル、唐辛子やコチュジャンを効かせた、日本人にも人気の韓国料理スンドゥブとも合います。
日本の女性が審査員を務める国際的なワインコンペティション“サクラアワード”でも、韓国料理に合うベストワインとしてピノタージュのワインが選ばれたことがありました。
和食なら、サバの味噌煮や豚ロース肉の味噌漬け焼き、甘辛い醤油味の照り焼きチキンがピッタリです。スパイシーで甘いウスターソースやとんかつ系ソースをたっぷり使うお好み焼きや焼きそば、たこ焼きにも合いますよ。
デイリータイプのピノタージュのワインは、このような日常のカジュアルな食事と是非合わせてお楽しみ下さい。
まとめ
数千年とも言われる長いワイン造りの歴史の中で、ピノタージュは生まれてまだ100年も経たないブドウですから、ブドウの栽培においても醸造においても未だ過渡期と言えるでしょう。
残念ながら南アフリカでは現在、ピノタージュは世界的に人気の高いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーに植え替えが進んでいますが、ピノタージュが南アフリカのソウルグレープであることに変わりはありません。
ピノタージュにこだわってワインを造る志の高い生産者も増えているため、今後もピノタージュのワインには注目していきたいですね。
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