【バイヤーが語る】継承されるムルソー、マトロの魅力

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公開日 : 2020.8.7
更新日 : 2023.7.12
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親から子へ、子から孫へ……。神に祝福された土地ブルゴーニュのワイン造りは、何世代にも渡り脈々と受け継がれてきました。そして今、新たな世代交代の波が来ています。

ジャン・グリヴォやアルヌー・ラショー、そして今回ご紹介するマトロなど、多くの生産者が新世代へとバトンを渡し始めているのです。

今回は、新世代へと継承されたばかりのムルソーの老舗ドメーヌ、マトロについてブルゴーニュ担当バイヤー堤に語ってもらいました。

【プロフィール】堤俊豪

資格:調理師免許、WSET Level3 Award Wines and Spirits
商品部所属、ブルゴーニュ購買担当。入社後7年間は、北京、上海、香港、台湾にてエノテカの国際事業に携わる。海外勤務をきっかけに、現地の食材を使った料理とワインと楽しむことが趣味に。週末はワインを楽しみながら、合わせる一品を作ることに試行錯誤している。

目次

エノテカのムルソー=マトロ

―早速ですが、今回ご紹介するマトロはどんな生産者ですか?読者にわかりやすく、お願いします!

マトロは1914年創業のムルソーを拠点とする老舗ドメーヌです。今で7世代目、2016年からアデルとエルサの姉妹が当主を継いでいます。赤も造っていますが、やはりムルソーということもあって、メインは白ワインの生産者です。

20年ほどと付き合いも長いので、エノテカのムルソーというとマトロのイメージもあるのではないでしょうか。

―そんなに長い付き合いなんですね。堤バイヤー的にはマトロのイメージは?

優しくて素朴なムルソーです。

ブルゴーニュを訪問した際に、アデルさんとエリサさんのお父さん、前当主のティエリー・マトロさんにも何度かお会いしたんですが、いつお会いしても笑顔で、すごく温厚な方なんですよね。

これは自論なんですが、ブルゴーニュではよく「テロワール」という言葉が出てくるけれど、それを除いた場合に何がワインに残るのかと考えると、やっぱり「人」だと、私は思うんです。

ブルゴーニュという土地に根差している人たちが、半生をかけて、汗水垂らして畑を耕してブドウを作っている。それがワインに染み出ていると感じます。

マトロのイメージもティエリーさんの人柄そのもので、ワインの味わいは派手ではなく、素朴な優しさを感じます。でも、あえて新樽を使わないというこだわりもあって、ブドウ本来の旨味をじっくり味わえる。職人気質で、エノテカらしい生産者だと思います。

同じ仕事しかできないなら、自分たちがやる意味はない

―そんなティエリーさんが引退して、姉妹にバトンタッチされたそうですが、何か変わりましたか?

基本的なスタイルは変わりませんが、もちろん全てが同じというわけでもありません。例えば2017年の収穫では、親子間で意見の衝突があったと聞きしました。

生産者が色々な畑を所有するブルゴーニュでは、収穫する畑の順番を決めることは、出来上がるワインの品質につながる大きな決断になります。

マトロでは収穫期は2日に1回ブドウをテイスティングして、種まで熟しているかなどを確認して決めていますが、ティエリーさんは今でも畑仕事は手伝っているので、2017年は「ピノ・ノワールのこの畑から収穫した方が良い!」と主張したそうです。でも姉妹の意見は違って、「こっちのシャルドネの畑からだ!」と。

結局、ティエリーさんが折れてシャルドネから収穫したそうですが、30年以上ワイン造りを行ってきたのによく折れたなと思いました。その後のヴィンテージからは、もう完全に姉妹の決定に任せているということですし。

そんな風に、ブドウからワインになるまでの小さな決断の積み重ねが少しずつ違うので、最終的なワインはやっぱり変わってくるんじゃないかなと思います。

「親子でも同じ人間ではないから、違う決断があっても良い。同じ仕事しかできないなら、自分たちがやる意味はないし、それは哀しいことだ」と彼女たちは言っていました。

ブドウの味を引き出したいから新樽は使わないなど、父親の基本的なスタイルは引き継いでいますが、ワイン造りをする上での小さな決断が違ってもいいと考えているんです。

今は彼女たちなりのワイン造りを試行錯誤している段階で、今後、もしかしたらすごく変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。どんな方向性になっていくのか、楽しみにしています。

隠れた名品、ムルソーで造られる赤ワイン

―ところで、マトロでは赤ワインも結構造っていますよね。ムルソーの赤って珍しいですけど、何か想いがあるんですか?

理由は二つあって、一つはアメリカ市場でピノ・ノワールの需要があるので、もっと赤を造ってほしいと頼まれたからだそうです。比較的早くから楽しめるブルゴーニュ・ルージュなどが、これに当たります。

もう一つは、昔から代々赤を造っていた畑を持っていたということ。ブラニー1級のピエス・スー・ル・ボワやムルソー・ルージュのことですね。特にムルソー・ルージュは、たった二つの畑からしか造れないレアなワインなんです。

わざわざムルソーでピノ・ノワールを植えているのにはこだわりがあって、その畑にはピノ・ノワールの方が、シャルドネより合っていると信じているから。二人もピノ・ノワールのクオリティに自信を持っているし、満足しているそうです。

―ブラニー1級のピエス・スー・ル・ボワもシャルドネならムルソー1級なんですよね?ムルソーという名前をわざわざ捨ててまで造っている赤ってどうなんですか?

先週、改めて2013年のピエス・スー・ル・ボワを飲んだんですけど、ヴォルネイやポマールなどのコート・ド・ボーヌの銘醸赤ワインかと思う品質でした。複雑さとパワフルさがあって、どっしりとした飲み応えがあります。

ちょっとクセがあって、テロワールの個性も感じられて。ピエス・スー・ル・ボワってこんなところなんだ、今後熟成させたらどうなるんだろう、という楽しみを感じさせてくれました。

今回のインタビューにあたって、エノテカとブルゴーニュの生産者を繋いでくれているパイプ役のポール・ヴァランさんにもマトロの話をしたのですが、ちょうど最近1990年のピエス・スー・ル・ボワを飲んだそうで、今飲んでもとてもフレッシュで美味しいよって。彼は毎年1本買っているそうです(笑)

コート・ド・ニュイのピノ・ノワールはもちろん魅力的ですが、食事と合わせるなら断然こっち。熟成させることも出来ますし、昨今のニュイの値上がりを考えると、彼らの赤はお買い得感があるなと改めて思いましたね。

―それでは最後に、バイヤー堤おすすめの1本を教えてください。

悩みますね。初めて飲んだアリゴテも思い入れのワインなんですけど……。でも、最初に浮かんだのはピエス・スー・ル・ボワです。安くはないですが、一度は飲む価値があると思います。

正直、こういう風に取り上げてもらう機会がなかったら、ムルソーの赤を1本試す機会はあまりなかったのですが、今はヴィンテージ違いを買ってキープしておきたいと思っているくらいです。

新世代の二人が色々と試行錯誤しているので、今後、彼女たちが造るとどうなるのか楽しみでもあります。マトロとしても思い入れのある1本ですからね。


ブルゴーニュワイン好きの方には、ご存じの方も多いマトロ。新世代になって今後どうなるのか、目が離せない存在ですね。

堤バイヤー、ありがとうございました!

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