ワインのラベルとして、大流行しているデザインが二つあります。一つは、「アーティスト・ラベル」で、毎年、違う芸術家にラベルを描いてもらう趣向です。
このコラムでも取り上げたように、これを最初に始めたのがシャトー・ムートン・ロスチャイルドで、1945年のことでした。(正確には、最初のアーティスト・ラベルは1924年で、継続的にラベルのデザインを変えたのが1945年からです)今では、世界中の高級ワイン生産者が取り入れています。
もう一つ、流行しているラベルが、ハートのデザインです。老舗の名門生産者として、ラベルにハートを大きく配したのはボルドーのシャトー・カロン・セギュールが最初です。
今回は、メドックの格付けで3級の名門シャトー、カロン・セギュールがラベルにハートを入れた感動的な物語や、カロン・セギュールを意中の人にプレゼントする場合の「特別な演出法」を解説します。
目次
カロン・セギュールの歴史
紀元前のローマ時代、サンテステフ村は、「サンテステフ・ド・カロンヌ(St-Estèphe de Calones)」という名前でした。「カロンヌ(calone)」は、ジロンド河を航行する船のことで、水上交通を一手に担っていました。海のように広いガロンヌ河を行き来するのは大変だったでしょう。
サンテステフ村から対岸(現在、対岸にはブレイエ原子力発電所があります)まで、6kmもあり、気分としては、神奈川県の三浦半島の久里浜から、連絡船で千葉の房総半島の浜金谷まで行く感じですね。
サンテステフ村を含むメドック一帯の大地主が、代々のセギュール公です。18世紀、ニコラ=アレクサンドル・ド・セギュール侯爵(1695年―1755年)が、1716年にラフィットとラトゥールを相続し、1718年にはムートンとカロン・セギュールを買収し、シャトーの名称をカロン・セギュールにしました。
(一時、ポンテ・カネとダルマイヤックも所有していたことから、セギュール公は「ワインのプリンス」と呼ばれていました。後のメドックの格付けシャトーの10%も所有していたので、当然ですね)
ちなみに、100年後の1825年には所有する森林部分の土地を売却し、そこがブドウ畑になって、後のシャトー・モンローズとなりました。
ハートの由来
セギュール公は、100年後に1級格付けとなるラトゥール、ラフィット、ムートンを所有しており、当時のワインの価格は、当然、カロン・セギュールよりも、ラトゥール、ラフィット、ムートンの方が高価です。
セギュール公が没後100年の1855年のメドックの格付けでは、1樽当たりの価格だけを考慮して、5,000のシャトーの中から57シャトーを選び、1級から5級に分類しました(現在は61シャトーです)。
セギュール公が存命の頃と、格付けの頃の価格が同じとすると、1樽当たりの価格は以下のようになります。
1級格付け(1樽あたり2,700フラン~3,000フラン)
高価な順に、ラフィット、マルゴー、ラトゥール、オー・ブリオンです。図1に、格付けの「公式原簿」を示します。「Premiers Crus」が1級格付けで、価格の順に並んでいます。
2級格付け(1樽あたり2,500フラン~2,700フラン)
図1の原簿で、「Seconds Crus」が2級格付けです。価格の順に並べたこの序列の筆頭がムートンで、1樽あたり2,700フランと思われます。1級のオー・ブリオンとは僅差の写真判定で、ムートンは1級へ入れなかったようです。
3級格付け(1樽あたり2,100フラン~2,400フラン)
カロン・セギュールは、この格付けの12番目で、ざっくり予測すると、1樽あたり、2,200フランぐらいでしょうか?図2の「Troisièmes Crus(3級格付け)」の12番目にある「Calon」がカロン・セギュールです。
図1 1855年のメドックの格付けの原簿の公文書(1級と2級の一部)
図2 1855年のメドックの格付けの原簿の公文書(3級)下から3番目の「Calon」がカロン・セギュール
当時の人々が、セギュール公に聞きました。「素晴らしいシャトーを四つも持っていらっしゃいますが、最も好きなシャトーはどれですか?」。そう聞いた人は、「ラフィットかラトゥールのどちらかだろう」と思いましたが、セギュール公は、予想外の答えをします。
「ラフィットやラトゥールでワインを造っているが、我が心はカロン・セギュールにある」。この有名な話が由来となり、ラベルに大きなハートを入れました。
カロン・セギュールの熟成庫の壁には、これに由来したハートのマークがあり、そこには、「Premier cru de Saint-Estèphe」と彫ってあります。これは、1800年代に入れたもので、「サンテステフ村で最初のシャトーである」ことを意味しています。
熟成庫の壁にあるハートのマーク
今、スマートフォンでのメールのやり取りで、ハートの絵文字をよく見かけますが、カロン・セギュールのラベルのハートは、そんな薄っぺらいものではなく、300年近い前のセギュール公の熱い想いがこもっているのです。
カロン・セギュールのお薦めのプレゼント法
「我が愛はカロン・セギュールにあり」という有名な言葉から、バレンタイン・デーのプレゼントや、プロポーズの時の定番的なワインがカロン・セギュールです。花束とカロン・セギュールをプレゼントするのもいいのですが、以下のように、意外にスゴイ組合せがあります。
カロン・セギュールとチーズ
ノルマンディー地方の白カビ系チーズに、クール・ド・ヌーシャテルというハート型のチーズがあります。今から600年前、英仏間の百年戦争(1337年―1453年)で、イギリスがノルマンディー地方を占領していた時のこと、フランス側のヌーシャテル・アン・ブレイ村でチーズを造っていた女性が、イギリス軍の兵士と恋に落ち、ハートの形をしたチーズを作ってプレゼントしたそうです。
600年前から作るハート型のチーズと、300年の歴史があるハートのワインは絶妙の組合せ。また、白カビ系チーズとボルドーの赤ワインは最高の相性であり、マリアージュです。お二人の相性も同じですね。
カロン・セギュールとクロ・デュ・ヴァルのジンファンデル
クロ・デュ・ヴァルは、1976年、無名のカリフォルニア・ワインが、フランスの一流どころを撃破した「パリスの審判」に出場した六つのワイナリーの一つです。1986年のリターン・マッチでは1位になりました。その名門生産者がジンファンデルで造った赤と、カロン・セギュール。
両方のボトルには、同じ位置に、同じ大きさのハートが違ったデザインで描いてあります。二つのワインは、ボルドーとカリフォルニアと、生れ育った場所は違いますが、ハートがピッタリ合っていますね。。
この2本を結婚記念日に二人でコルクを抜いて飲んだり、結婚する二人に送ったり、結婚25年の銀婚式で開けたり、いろいろなシチュエーションで、物凄く喜んでもらえそうです。
サンテステフ村のワインは、他のメドックの村のワインに比べると長期熟成型で、年月を重ねるにしたがって、ゆっくりと、そして、確実に熟成します。愛でしっかり結びついた二人には、理想的なプレゼントだと思います。
カロン・セギュール三兄弟
左から長男のカロン・セギュール、次男のル・マルキ・ド・カロン・セギュール、サンテステフ・ド・カロン・セギュール
カロン・セギュールがあるサンテステフ村は、メドック地区の最も北にあります。さらに、61の格付けシャトーの中で、最も北に位置するのがカロン・セギュールです。他のメドックの村に比べ、重厚で、長期熟成に耐えるサンテステフ村の特徴で、カロン・セギュールは、典型的なサンテステフといえます。
カロン・セギュールには、セカンド・ラベルだけでなく、サード・ラベルまであります。サード・ラベルまであるということは、看板のカロン・セギュールだけでなく、セカンド・ラベルにもたっぷり力を注いでいるのです。
セカンド・ラベルである「次男」が、ル・マルキ・ド・カロン・セギュールで、看板のカロン・セギュールの雰囲気を備えています。三男が、2013年生まれのサンテステフ・ド・カロン・セギュールで、若い木から造り、若いうちから飲めます。
3つとも、大きなハートのマークが入っていますので、予算に合わせて、プレゼントとして選べるのが嬉しいですね。
カロン・セギュールのウェブサイトへGO!
世界の名門シャトーや老舗生産者は、ウェブサイトを立ち上げて情報を発信し、シャトーの魅力を大々的に宣伝しています。ウェブサイトの言語は、通常、その生産者の母国語と英語の2か国語ですが、カロン・セギュールには、フランス語と英語だけでなく、日本語もサポートしています。とてもよく出来たウェブサイトなので、是非、訪問してください。
カロン・セギュールのサイト
中央にある「メニュー」をクリックすると以下の画面が出てきますので、後は自由にブラウジングしてください。
カロン・セギュールのウェブサイトの日本語の入り口
ウェブサイトにある「カロン♥セギュール」のハートマークには、300年前のセギュール侯爵の熱い想いがこもっています。
愛する人に対し、「私の心はあなたにあります」と熱い想いを寄せ、二人の愛がより強く結びついてほしいと願う時は、セギュール侯爵の力を借り、二人でカロン・セギュールを飲むといいでしょう。
カロン・セギュールの商品一覧