ピレネー山脈の西側、スペイン北東部とフランス南西部の国境を挟んでひろがるバスク地方。スペインのサン・セバスチャンはバスク地方屈指のリゾート地であり、美食の街としても有名で世界中から観光客が訪れるそうです。
そんなバスク地方で古くから親しまれてきたワインが「チャコリ」。
地元で消費されこれまでほとんど輸出されることのなかった「チャコリ」は世界的なバスク人気に伴い、最近は日本でも見かけるようになりました。
「チャコリ」とは一体どんなワインなのでしょうか?
チャコリとは
スペイン北部、ピレネー山脈の西に位置するバスク州で造られるチャコリは、アルコール度数が低く、フレッシュで爽やかな酸味とミネラル感が特徴のワインです。
生産量は圧倒的に白ワインが多いこともあり、一般的にチャコリと言えば白ワインをイメージしますが、赤とロゼも造られています。
主な原料ブドウは白ブドウのオンダラビ・スリ、黒ブドウのオンダラビ・ベルツァ。いずれもこの地方でのみ栽培されている土着品種です。
チャコリの注ぎ方
チャコリを現地のバルでオーダーすると、店員さんはグラスの20センチほど上から注いでくれます。観光客向けのパフォーマンスも兼ねているようですが、チャコリを注ぎながらボトルをグラスからどんどん離していき、数十センチの高さから注いでくれることもあります。
チャコリのこのような注ぎ方を「エスカンシア」と言います。
この独特な注ぎ方は、チャコリの香りを開かせ、酸を和らげるため、適度に泡を立たせるためと言われています。
長年チャコリは地元で消費されることを前提に造られてきました。生産から消費までのサイクルがとても早く、フレッシュな味わいを楽しむワインであり、基本的に樽や瓶内で熟成させるような造り方はしていません。
フレッシュであるが故に酸味が強く、ピチピチと軽く発泡しており抜栓後早い段階で泡は消えてしまいます。そのため、酸味を和らげたり、消えかけた泡を再び立たせたりするために、「エスカンシア」をしているのです。
かつて、降雨量の多いバスク地方でブドウを完熟させることは難しく、チャコリの品質は決して高いものではありませんでした。しかし今では、生産技術が格段に向上し高品質なチャコリが造られるようになり、アメリカをはじめ日本へも輸出されるようになりました。
チャコリにピッタリな料理
チャコリの生産地は海に近いため、シーフードとの相性が抜群です。現地では白身の魚や甲殻類とチャコリを合わせることが多いようですが、よく冷えたチャコリに新鮮なシーフード料理を合わせれば失敗はありません。
世界的にチャコリの人気が高まっているのは、バスク地方の食文化が世界に注目されるようになったからです。バスク地方を訪れたことのない方でも、バルのカウンターにピンチョスやタパスといったワインに合いそうなおつまみが所狭しと並んでいるのをご覧になったことがあるのではないでしょうか?
ピンチョスは串(ピンチョ)の意で、もともとは串や楊枝を刺した料理のことを指します。現在では串や楊枝は使わずに、スライスしたバゲットに生ハムやサラミ、オイルサーディン、オリーブ、ポテト、ドライトマトや青とうがらし、チーズなど2〜3種組み合わせてのせるだけの簡単おつまみもピンチョスと呼ぶようになりました。
タパスは小皿料理のことを言いますが、例えばエビやタコのアヒージョ、野菜入りオムレツなど、要するに洋風のおばんざいです。
ピンチョスもタパスもレシピに決まりはありませんから、是非、自宅で自由に作ってチャコリと合わせてみて下さい。
また、チャコリは和食ともよく合います。刺身や唐揚げ、冷奴や茹でたての枝豆、ポテトサラダなど、生ビールをチャコリに差し替えるイメージです。
チャコリの魅力は汎用性の高さと気軽さですから、フレッシュなワインが飲みたい!と思ったら迷わずコルクを抜けば良いのです!
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まとめ
バスク人は独自のルーツと言語を持ち、スペインともフランスとも異なる文化を育んできました。その一つが今、観光資源となっている食です。
実は、バスクの食文化に欠かせないチャコリは、フィロキセラ禍や農村からの人口流出など苦難の歴史を乗り越え、1980年代頃から少しずつ復活しました。今でも生産量は決して多くはありません。
いつか本場のバルでチャコリとピンチョスを味わってみたいと思いますが、日本でも美味しいチャコリが手に入るようになったのは嬉しいですね。
参考: 日本ソムリエ協会 教本 2020