イタリア・トスカーナ州の銘醸地ボルゲリは、言わずと知れたサッシカイアのセンセーショナルなデビュー以降、世界的な評価を獲得する数々のワインを生み出し、イタリアのボルドーとして広く認知されています。
今回はその中でも、サッシカイアと並び称されるイタリア最高の生産者「ガヤ」がボルゲリに構えるワイナリー、カ・マルカンダについてブランドマネージャーの笠原バイヤーに語ってもらいました。
【プロフィール】笠原亮
JSA認定ソムリエ / WSET level3。エノテカ国際事業部にて中国に5年間駐在し、現地事業の立ち上げを経験。現在はブランドマネージャーとして生産者の想いを伝える伝道師を目指して奮闘している。WSET Diploma受験中。
触れることさえ出来なかった存在
―笠原バイヤーはいつからガヤという生産者のことを知っていたのですか?
実は、大学生時代にアルバイトしていたイタリアンレストランで飲んだバローロに感動して、ピエモンテに行ったことがあります。生意気にもアルバイトなのに、レストランの社員の方に現地のソムリエを紹介してもらって、貯めたお金を握りしめて。
そのバローロはガヤではないのですが、その時にガヤという有名なワイナリーがあることを知りました。
それでせっかくピエモンテまで来たので、有名なガヤも見学したいと思い、ワイナリーまで行ったのですが当時の僕は入れるわけもなく、ガヤのワイナリーの門を背景に自撮りをして帰りました。これ本当の話ですからね(笑)
―疑っていません(笑)確かガヤは一般見学お断りで、慈善団体に寄付しないと入れないのですよね。
そうです。けれど、当時の僕はそれすら知らなかった。
ガヤファミリーとの格差というか、触れることすらできなかった存在でした。
―それが今、ブランドマネージャーをやっているって素敵ですね。改めてガヤとカ・マルカンダのことを紹介してもらえますか。
ガヤはイタリア・ピエモンテ州バルバレスコを拠点とし、何十年も前から世界的な評価を得ているイタリア屈指の生産者です。
圧倒的な自信と熱量をもつ職人気質のファミリーで、ワイナリーを訪問するとオーナーであるガヤファミリーが誰よりもよく働いています。それが、自らが造るワインに対する自信に繋がっているのかもしれません。
加えて、気候やマーケットの嗜好などワインを取り巻く環境変化にも敏感で、より良いものをつくり上げるためにリスクを恐れず変化できる強みも持っています。
そんなガヤが、サッシカイアで知られる銘醸地ボルゲリで、カベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランなどの国際品種に挑戦しているのがカ・マルカンダです。
土地の所有者と18回に及ぶ長い交渉の末、やっと取得できた畑なので、カ・マルカンダ(望みのない交渉)という変わったワイナリー名が付けられています。
望みのない交渉の末に
談笑するエノテカ廣瀬会長(左)とガヤ4代目当主アンジェロ・ガヤ氏(右)
―ガヤとエノテカの付き合いはどうやって始まったんでしょうか?
エノテカの創業直後、まずはボルドーからということでボルドーワインをメインに取り扱っていましたが、イタリアのどこのトップレストランにいってもガヤとサッシカイアが置いてあって、当時から廣瀬会長はいつかこの生産者を取り扱いたいという想いを持ち続けていたそうです。
それでようやく2004年ごろから、エノテカもイタリアワインの拡充をするとなってアプローチを始めたようです。しかし、すでに他の輸入業者もついていたので、すぐにということにはなりませんでした。
何年もアプローチをしてダメだと言われ続けてきた中で、チャンスが訪れたのがガヤの当主アンジェロ・ガヤ氏が来日した時のこと。東京だと目立つので大阪で話をしようと言われ、アンジェロ氏と廣瀬会長の2人だけで大阪城の周りを歩きながら色々な話をしたみたいです。
その廣瀬会長の熱意が伝わったのか、結局5年がかりの長い交渉の末にまとまって、エノテカでの取り扱いが始まったのは2009年からになります。
エノテカが販売できていることがありがたいくらいの偉大な生産者ですし、ガヤの素晴らしさを日本の消費者にちゃんと伝えていかなきゃいけないと思っています。
―エノテカとガヤの関係も、最初は「望みのない交渉」だったのですね。笠原バイヤーはエノテカがガヤを取り扱っていると知っていて入社したのですか?
実は、僕も2009年入社なのでちょうど同じ社歴です。
でもエノテカがガヤの取り扱いを始めたなんてことは知らずに入社しました。入社1年目でショップで勤務していたのですが、ボトルを見て「あっ、あのガヤじゃん!」となりました(笑)
―それまで飲んだことはありましたか?
ガヤの存在を知ったのは大学生の時ですが、学生でお金もなかったので飲んだことはありませんでした。入社した年に初めてガヤのバルバレスコを飲みましたが、よく分からなかったっていうのが正直な感想です。
凝縮感があってなんだか凄い、偉大なワインだということは分かりましたが、当時の自分の舌では、チリやカリフォルニアのカベルネの方が分かりやすく美味しく感じました。
今は当時よりは理解しているつもりですが……。
ガヤのワインは、ブルゴーニュの生産者も古文書を読み解いているような難しいワインだと言うくらい、複雑で難解なワインですけど、世界的に凄く評価が高い。
ブランドマネージャーとしては全てを理解していなければならないのですが、もしかしたら、まだ読み解いている途中なのかも知れません。偉大で懐が深く、ワインの難しさと愉しさを教えてくれます。
ガヤの偉大さを体感できるこれ以上ないワイン
ボルゲリの海岸線
―アンジェロ氏のインタビューでも、ネッビオーロは内向的で難しいというコメントを見たことがあります。だから国際品種にも手を伸ばしたそうですが、カ・マルカンダはどんなワインですか?
カ・マルカンダはもう少し外交的で分かりやすくなります。カベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランを使っているということもあるし、ボルゲリの太陽の温かさを感じる果実味があるので親しみやすい。
一方で、ガヤの奥深さや複雑さもしっかり感じられる、両側面をもった精巧な味わいです。
ピエモンテからボルゲリまで車で5~6時間ですが、景色が変わるんですよ。ピエモンテは寒いし、ガヤのラベルみたいに色がない。
ボルゲリは色んな植物が生えていてカラフル。ワインも同じです。
―凄くイメージしやすいですね!ではカ・マルカンダの中では、どのワインがおすすめでしょうか?
ヴィンテージ指定で申し訳ないのですが、2017年のマガーリです。
初めてテイスティングした時、2017年のあの夏(※)を乗り越えて、どうやったらこんなエレガントなワインになるのかと驚きました。
※2017年のイタリアは、1880年以降で最も暑いと言われる夏を迎え、最高気温は45度を越えた。
2017年の夏の暑さを知らなければ、ただ単にそういうワインだと思われてしまうかも知れませんが、僕はガヤの実力を見た気がしました。
あまりに驚いたので、どう造ったらこんなワインになるのか聞いてみたのですが、自分たちが醸造で造っているのではなくて、ブドウが作っていると言います。
ガヤではブドウ栽培や醸造のコンサルタントは雇わないのですが、畑の環境バランスを整えるにはどうしたら良いか聞くために、植物、昆虫、土壌、遺伝子など、多角的な生物学の専門家をコンサルタントに雇い、健全で理想的な味になるバランスを保ったブドウを実らせるためにどうするか、ということに取り組んでいるんです。
―オーガニック栽培ということですか?
これだけオーガニックやビオディナミの認証が注目されているのでよく聞かれます。でも、ガヤはマーケティング的な側面もあるオーガニック認証っていうのは気にしていません。
認証があろうがなかろうが、ガヤにとって持続可能で、ガヤにとって自然なバランスが取れていれば良いという考えなので認証は取っていないのです。そんなガヤ流のブドウ栽培は、実はオーガニックやビオディナミよりもお金がかかっていますけどね。
話は戻りますが、そうやって畑の自然環境バランスを整えるところから造られた緻密さと、ボルゲリの気候を反映したオープンさが感じられる2017年のマガーリは凄いですよ。
マガーリって「こうだったら良いのに」っていうイタリア語なんですけど、彼らにとっての理想が描かれたヴィンテージが2017年のマガーリなのかも知れません。
ガヤの偉大さを体感してもらうワインとしては、これ以上ないワインだと思っています。
ガヤとただならぬ縁を持つ笠原バイヤー、イタリアの帝王ガヤの偉大さとカ・マルカンダの魅力を熱く語ってくれました。どうもありがとうございました!
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