南北に分けられるブルゴーニュの黄金の丘。北部のコート・ド・ニュイではジュヴレ・シャンベルタンやシャンボール・ミュジニーといった赤ワインが、南部のコート・ド・ボーヌではムルソーやピュリニー・モンラッシェといった白ワインが知られています。
しかし近年、これらの綺羅星の如しワインの価格高騰は留まるところを知らず、徐々に手の届かない価格になってきました。
そこでブルゴーニュ愛好家におすすめしたいのが、忘れられがちなコート・ド・ボーヌの赤ワイン、ポマールとヴォルネイです。
今回は中世から名高い、赤ワインの銘醸地ポマールとヴォルネイを改めてご紹介します。
隣接しているのに対称的な味わい
ジュヴレ・シャンベルタンならわかるけど、ポマールやヴォルネイと言われてもわからない、という方も多いのではないでしょうか。
ポマールとヴォルネイは、モンラッシェを筆頭として白ワインの印象が強いコート・ド・ボーヌでは珍しく、赤ワインだけが認められた村。
どちらもブルゴーニュの首都、ボーヌの街から数kmほど南に下った所にあり、街に近い北側がポマール、南側がヴォルネイと隣り合っています。
そして、この隣り合った両村で産出される対称的な個性を持った赤ワインは、中世より時代の流行に合わせて交互に持て囃されてきました。
分かり易くコート・ド・ニュイに例えると、ポマールがジュヴレ・シャンベルタンのように力強く男性的な味わいに対して、ヴォルネイはシャンボール・ミュジニーのように繊細で女性的な味わいと言われています。
力強く男性的なポマール
ポマールは日本ではあまり馴染みがありませんが、そのしっかりとした骨太な味わいと英語圏での発音のし易さから輸出市場で人気を博し、AOC法制定以前はかなりの数の偽物が出回っていたと言われるほどメジャーなワインでした。
ポマール村の中央には、東西方向にデューヌ川が流れる谷があり、ブドウ畑は川が形成した南北の丘陵に分かれています。
このため、偉大な畑は斜面の中腹にあるという「ブルゴーニュの法則」通りにはいかず、川が押し流した土が堆積している斜面下部にも畑があるのが特徴的です。
土壌は粘土質が強く、鉄分を多く含むため、ポマールのワインは色が濃くタンニンが豊富。
特にポマール最上と言われる1級畑リュジアンは、フランス語の「Rouge=赤」を語源としており、ジュヴレ・シャンベルタンでも見られる酸化鉄を多く含んだ赤みの強い土壌から、長期熟成に向く骨格のしっかりとしたワインを生み出します。リュジアンは特級昇格へ向けた動きがあるので、手に入れるなら今のうちかも知れません。
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繊細で女性的なヴォルネイ
由緒正しいヴォルネイは、ブルゴーニュ公が11世紀はじめに城を築き、その周りにブドウ畑を開墾したのが始まり。
コート・ド・ニュイのワインが名を馳せる以前の中世では、ブルゴーニュ最高のワインとされており、ブルゴーニュ公国がフランス王国に編入された際にルイ11世がヴォルネイのワインを独占するなど、いかに重宝されていたかわかるエピソードが数多く残されています。
ヴォルネイのブドウ畑はポマールと対称的に斜面上部にあり、土壌は粘土質をほとんど含まない石灰質のため、淡い色調と繊細さ、エレガンスを身上としたワインとなります。
南に続くムルソーやシャサーニュ・モンラッシェと同じ地層が走っており、白ワイン生産に向いた土壌と言えることからも、そのキャラクターが想像できるのではないでしょうか。
評価の高い畑はカイユレ、クロ・デ・デュック、クロ・デ・シェーヌなどがありますが、村そのものが小さいため日照条件や土壌が一貫して優れていると言われています。
「ブルゴーニュワインのことを全く知らず、造り手も作柄もぶどう畑も見当がつかなければ、コート・ドールのどの村のものよりもヴォルネを買うのが最も手がたい選択である」(マット・クレイマー)[1]
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まとめ
近年ポマールとヴォルネイは、雹害を受けて生産量が極端に少なくなってしまう年も多く、苦しんでいます。しかし、それでもコート・ド・ニュイと比べるとまだまだ控えめな価格のワインが多い状況です。
また、隣接しているにも関わらず驚くほど異なる味わいは、まさにブルゴーニュの醍醐味を楽しめる産地とも言えます。
あなたはどちら派でしょうか?あまり目を向けたことがなかったブルゴーニュ愛好家の方はぜひ試してみてください。
1.マット・クレイマー, 2000, 阿部秀司訳, ブルゴーニュワインがわかる, 白水社, p.252