ポルトガルのマデイラは、同じくポルトガルのポート、スペインのシェリーと並んで世界三大酒精強化ワインの一つと数えられています。
中でもとりわけ特殊な製法で造られるマデイラは不滅に近いほど長寿で、数百年前のマデイラが現在も数多く残っており、それらは今でも美味しく飲むことができます。
なんともロマンのあるお酒ですね。一度は古いマデイラを飲んでみたいと思いませんか?
そこで今回は、大西洋上の楽園マデイラ島で造られる銘酒「マデイラ」を詳しく解説したいと思います。
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目次
マデイラとは
マデイラとは、ポルトガルの首都リスボンから南西に1000km、モロッコのカサブランカから西へ545kmの北大西洋の沖に浮かぶマデイラ諸島で造られる酒精強化ワインです。
ブドウ果汁の発酵途中または発酵後にアルコール度数96%のブランデーを添加して造られる保存性に優れたワインで、出来上がったマデイラのアルコール度数は17〜22度と決められています。
マデイラの原料となる主なブドウ品種は白ブドウがセルシアル、ヴェルデーリョ、ボアル、マルヴァジア、テランテス、黒ブドウはティンタ・ネグラで、個々のブドウ品種の個性を生かすために辛口から甘口まで数多くのスタイルのマデイラが造られています。
マデイラの最大の特徴はアルコールを強化した後に加熱を行うこと。この製法により独特の香ばしい風味が生まれます。
これは大航海時代の17世紀、アメリカ新大陸の航路上に位置したマデイラ島で積み込まれたワインが、赤道を横切る暑くて長い航海を終えると特有のフレーヴァーを呈していたことに由来する製法です。本来、ワインにとって大敵なはずの酸化が、偶然にもマデイラワインを特徴付ける独特の風味をもたらしました。
一方で、マデイラワインの酒精強化(アルコール度数の強化)が始まったのは18世紀以降となります。紛争によって船団がマデイラ島を経由しなくなりマデイラワインが市場を失ってしまったことがきっかけです。
小さな島での貯蔵効率を上げ保存性を高めるため、ワインの一部を蒸留し残りのワインに加えた結果、ことのほかワインの味わいが深くなっていました。それ以降、酒精強化はマデイラに欠かせないプロセスとなったのです。
マデイラ島について
マデイラ島と聞くと馴染みのない場所に感じるかもしれませんが、実は、あの世界最高峰のサッカー選手の一人、クリスティアーノ・ロナウドの出身地。
温暖な気候に青い海と輝く太陽、美しい街並み、年中咲き乱れるカラフルな花々やトロピカルフルーツなど南国情緒あふれる島で、「大西洋の真珠」とも称されるヨーロッパ屈指のリゾートアイランドです。
マデイラ島の面積は741㎢で日本の奄美大島とほぼ同じ大きさ。年間平均気温は20度前後の亜熱低気候ですが、島の南北、高低で気候が微妙に異なります。
具体的には島の南部は晴天が多く温暖、北部は雨が多く冷涼で、標高の高い場所や山頂では雪が降ることもあります。
マデイラ島の海岸線は切り立った断崖で、ここを段々畑に開墾してブドウ栽培が行われており、水は山からの灌漑用水路によって確保しています。
島の大半の地域がメキシコ湾の中で最も暖かい海流の影響を受け温暖で湿度が高く、多くのブドウは伝統的な棚仕立てによって栽培されています。
急な斜面に拡がるブドウ畑はいずれも小さく、農作業の機械化は困難で、今なお人力に頼る部分が多くあります。
マデイラの製法
マデイラはブドウ果汁を発酵させるところまでは通常のワインと同じように製造されます。そして発酵が始まると酒精強化が行われますが、そのタイミングはブドウ品種によって異なります。
酒精強化後、一定期間落ち着かせた後、温めて熟成されます。この加熱熟成がマデイラを特徴付ける重要な工程で、「Canteiro(カンテイロ)」と呼ばれる太陽熱を使用した天然の加熱熟成法と「Estufa(エストゥファ)」と呼ばれる人工的な加熱装置を用いる方法の二つがあります。
Canteiro(カンテイロ)
倉庫のガラス窓のある屋根裏部屋や屋根の薄い専用倉庫に樽を並べ、天然の太陽熱を庫内に取り込み、室内を高温にしてワインを熟成させる方法。夏には庫内が50℃近くに及ぶこともあります。
単一収穫年が表示されたヴィンテージワインや10年、15年など熟成期間が表記されるマデイラで行われます。
Estufa(エストゥファ)
タンクの内部または外周に通した管の中に湯を循環させてタンク内のワインを温める方法。50℃前後で最低3ヶ月間加熱させます。
簡単で比較的早く加熱熟成の効果が得られるため、ティンタ・ネグラ・モーレ種を使用した3年熟成などのスタンダードクラスのマデイラで使用されます。
加熱処理が終わると熟成期間に入ります。マデイラの熟成には主に古樽が用いられます。
カンテイロの場合はすでに樽に入っているのでそのまま常温で熟成が行われ、エストゥファで加熱されたワインは樽へ移し替えて、やはり常温で熟成が行われます。
マデイラの分類
マデイラにはいくつもの分類があります。覚えておきたいのはブドウ品種による違いと、製法と熟成による違いです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
ブドウ品種による違い
マデイラは原料となるブドウ品種によって味わいが異なります。また、品種表示には当該品種を85%以上使用していなければなりません。
ブドウ | 色 | 味わい |
---|---|---|
セルシアル | トパーズのようなゴールド | 華やかな香りのある辛口 |
ヴェルデーリョ | オレンジがかった黄金色 | しっかりとしたスモークのニュアンスがある中辛口 |
ボアル | 琥珀色 | 芳醇な中甘口 |
マルヴァジア | 濃褐色 | リッチで濃縮感のある甘口 |
ティンタ・ネグラ・モーレ | 辛口から甘口まで幅広くブレンドに使われる |
・セルシアル
標高600〜700mの冷涼な地域で栽培されている白ブドウ品種。他の4品種の中では島の最も高い場所で栽培されており、収穫期も遅めです。
ブドウジュースの発酵終了直前にグレープスピリッツの添加、つまり酒精強化が行われます。
酒質はライトで芳香に富み、キレの良い酸味を持った辛口のマデイラとなります。
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・ヴェルデーリョ
標高400〜600mの比較的涼しい島の北部地域で栽培されることが多い白ブドウ品種。
酒精強化は発酵後半に行われます。
微かな蜂蜜風味、しっかりとしたスモークのニュアンスがある中辛口のマデイラとなります。
・ボアル
標高300〜400mの温暖な島の南部地域で栽培されることが多い白ブドウ品種。
酒精強化は発酵中、ブドウの糖度が半分程度残っているうちに行われます。芳醇でバランスの良い中甘口のマデイラとなります。
・マルヴァジア
海岸沿いの暑い地域で栽培されることが多い白ブドウ品種。
酒精強化は発酵の初期に行われます。
濃褐色の甘口で濃縮感のあるリッチな味わいのマデイラを生みます。
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・ティンタ・ネグラ・モーレ
島のほとんどの地域で栽培され、収穫量も全体の80%近くと最も多い黒ブドウ品種。3年熟成タイプに多く使われ、多品種とのブレンドに用いられることも多いです。
辛口から甘口まで幅広い味わいに造られます。
製法と熟成による違い
マデイラは3年以上の熟成が義務付けられていますが、熟成年数によってさらに規程があります。
・フラスケイラ / ガラフェイラ
単一品種、単一収穫年のいわゆるヴィンテージマデイラのこと。最低20年の樽熟成、2年の瓶熟成が必要で、表示される品種を100%使用していなければなりません。
・コリェイタ
単一収穫年のヴィンテージマデイラではあるものの、ブドウの品種に規定はありません。ですから収穫年の表示はありますがブドウ品種の表示はありません。
また、樽熟成は5年以上必要ですが瓶熟成は不要です。
・レゼルヴァ
熟成期間が15年のものをエクストラ・レゼルヴァ、10年はスペシャル・レゼルヴァまたはオールド・レゼルヴァ、5年はレゼルヴァと言います。
なお、熟成期間が20年、30年など長期熟成タイプもあります。
マデイラの美味しい飲み方
一般的に辛口のセルシアルとヴェルデーリョは食前酒に、甘口のボアル、マルヴァジアは食後酒におすすめです。
アルコール度数が高くドライで酸のしっかりしたマデイラは適度に胃を刺激して食欲を増進させますし、カラメル、ナッツ、ドライフルーツ、シナモンなどの複雑なニュアンスを持つ芳醇な甘口のマデイラは、ソフトな舌触りながら濃厚で粘性があり、豪華なディナーの締めくくりに最適です。
とは言っても普段から優雅に食前、食後酒を楽しむ習慣がない人も多いでしょう。そんな人にはマデイラのソーダ割が気軽でおすすめです。
辛口でも甘口でも適度な酸味が爽やかでとても飲みやすく、ハイボール感覚で唐揚げや焼き魚など身近な家庭料理と合わせて楽しめます。
また、氷を浮かべてロックでマデイラをゆっくりと飲むのも良いでしょう。映画鑑賞や読書のお供に、チーズやナッツなどのおつまみもあれば最高です。
良質なマデイラなら開栓後1ヶ月程度は十分美味しく楽しめますから、慌てて飲み切る必要はありません。
まとめ
大昔、海底火山の活動によって形成されたマデイラ島。小さな島ながら肥沃で多様なテロワールと、人々の生業が歴史に名を残す銘酒を生み出しました。
改めてマデイラが壮大な歴史とロマンを持つお酒であることがお分かりいただけたかと思います。
特別な日には、古いマデイラで乾杯してみてはいかがでしょうか?
参考: 日本ソムリエ協会 教本 2020
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