ペアリングで重要な要素となる風味付け、前回は加熱方法による違いを掘り下げました。
今回は調味料について取り上げたいと思います。同じ食材でも、加熱方法、調味料により、フレンチにも、イタリアンにも、スパニッシュにも料理は姿を変えてゆきます。
料理に大きな影響を与える調味料には調理するときの「油脂」も見逃せません。
調理に使われる油脂
乳製品系:バター、クリームなど
植物系:オリーブオイル、菜種油など
ナッツ系:クルミ、ピーナッツなど
動物系:ラード、鴨脂など
この油脂は地域性があらわれます。フランス(ワイン産地)を例に取ると、
ブルゴーニュ、ロワール下流:バター
ロワール上陸:菜種油
シャンパーニュ:クルミオイル
南仏:オリーブオイル
シュッドウエスト:鴨脂(=Graisse de Canard 鴨のフォワグラをとる際に出てくる脂。ガチョウの場合はGraisse d’Oieになります。)
このように分かれてゆきます。大雑把に言うと、例えば、鶏肉をブルゴーニュに合わせるならバターでソテー。南仏に合わせるならオリーブオイルといった具合です。
ロワールの料理でトマトのファルシがあります。トマトにシェーヴルチーズを詰めて、菜種油をかけます。それがオリーブオイルをかけるとプロヴァンス、ニースの郷土料理となります。
鶏肉のバスク風という、日本のビストロでも大変人気の料理があります。多くの場合、ピーマンとともにトマトで煮込んだ料理と認識されていますが、重要なのは鴨脂で調理することです。実際に試したことがあるのですが、鴨脂を使うとバスクのワイン、イルーレギーが最高によく合います。ブドウ品種はタナとカベルネ・フランです。
同じタナを使ったワインでも力強く、凝縮感があるマディランも合わせてみました。一見、ワインのほうがはるかに強く、料理を負かしてしまう心配がありましが、鴨脂が見事にマディランの豊富なタンニンと溶け合い、料理全体とワインが調和していました。
これをオリーブオイルやサラダ油で調理すると接点がまったくとまではいいませんが、なくなってしまうのです。
「同じ地方の料理とワインのペアリングは当たり前過ぎてつまらない」というソムリエは少なくありませんが、やはり地域性というのはそれぞれのルーツですから、深い繋がりがあるのです。
調理に使われる調味料
それでは調味料を見てゆきましょう。
スパイス:スイート、パンジェント、ベイキング、エスニック
ハーブ:フレッシュ、セイヴォリー、ドライ
ヴィネガー:穀物系、フルーツ系、ワイン系
アルコール:ワイン、シェリー、ヴェルモット、日本酒、みりん、紹興酒など
発酵調味料:醤油、味噌、魚醤、塩麹など
スパイス
ワインのテイスティングコメントでスパイスは頻繁に出てきます。ここではそのテイスティングでのスパイスの分類別にみてゆきたいと思います。
スイート・スパイス
リコリス、ヴァニラ、シナモンなど文字通り、甘やかな風味を与えるスパイスです。
ガメイやカベルネ・フランなど果実味が全面に出ている、甘みも感じるまろやかな味わいのワインがよいでしょう。
パンジェント・スパイス
辛味のあるスパイスです。胡椒や山椒、生姜、チリペッパー、唐辛子などです。
カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーなど凝縮感があって、タンニンの豊富なワインがよく合います。南アフリカのピノタージュやカリフォルニアのジンファンデルもいいですね。
ベイキング・スパイス
クローヴ、ナツメグ、カルダモン、コリンアンダー、スターアニス、キャラウェイシードなどで、パンジェント・スパイスのカテゴリーと重なっています。
品種個性に加えて、木樽(特に新樽)からの風味が際立った洗練されたスタイルのワインに感じられます。カベルネやサンジョベーゼ、ピノ・ノワールなど、いわゆる高貴品種によるワインです。
エスニック・スパイス
クミン、ターメリック、カレースパイス、フェンネルシード、タマリンドなど文字通り、エスニック料理の定番スパイスです。
ゲヴュルツトラミナーやグリュナー・フェルトリナー、アリアニコやモンテプルチャーノなどの主に土着品種、またジョージアのクヴェヴリで醸造したアンバーワインにも感じられる香りです。
フェヌグリークはギリシャのクシノマヴロ、スペインのテンプラニーリョなどのワインのコメントでよく登場します。
パクチーはフレッシュな葉と茎ですからハーブですが、エスニック・スパイスとして紹介されていることが多いです。ソーヴィニヨン・ブラン、ヴェルデホは大変よく合います。
ハーブ
ハーブもスパイス同様にワインのテイスティングコメントに共通する分類でみてゆきたいと思います。
フレッシュハーブ
パセリ、バジル、レモングラス、パクチーなど爽やかさ、青々しさを加えます。
ソーヴィニヨン・ブラン、ヴェルデホといった芳香(チオール系)豊かなブドウ品種のものがよく合います。
セイヴォリー
セージ、オレガノ、マジョラム、バジルなど、料理に豊かな風味を与えるハーブです。
ワインも風味豊かで深みのあるタイプ。南仏のグルナッシュやムールヴェドル、サンジョベーゼやネロ・ダヴォラ、ビオやナチュラルでサンソーやトゥルソーを使った赤ワインもよいです。
ドライ
すべてのハーブはドライにもなるわけですが、ローズマリー、タイム、ローリエなど地中海系のミックスハーブ、エルブ・ドゥ・プロヴァンスが代表です。
やはりワインは地中海系、グルナッシュ、カリニャンなど。イタリア カンパーニャのアリアニコ、ギリシャのアギオルギティコもよいですね。
今月のペアリング
熟度が高く、開いていて、深みがあり、発展的な印象です。潰したブラックチェリーにセイヴォリー・ハーブ、チリペッパーやパプリカなどのスパイス、熟成肉や土っぽい香りと複雑ですが、全体としては生き生きとしています。
味わいはスムースなエントリー、口中では厚みのあるボディ、酸味・アルコールのがっしりとしたストラクチュア、ボディを引き締める際立った酸味が余韻でパウダリーな渋みと溶け合い、味わいをリフレッシュしてくれます。
テンプラニーリョ、特にリオハは凝縮感とストラクチュアの強さが特徴で、セイヴォリー・ハーブとチリ系スパイスが特徴的です。
唐辛子とクミンシードやコリアンダーシードなどのミックススパイス、アリッサ(ハリッサ)を使ったモロッコ料理のケフタ(ミートボール)、羊のクスクス。またペキージョという赤ピーマンを使った料理、リオハのお隣、ナヴァーラの名物です。バカラオを呼ばれる塩タラを詰めた料理も大変よく合うでしょう。
リオハを開ける日にはぜひ、セイヴォリー・ハーブとチリペッパーをご用意ください。
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