世界のトレンド!クール・クライメイト・シラーの誕生

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公開日 : 2020.11.13
更新日 : 2022.5.23
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シラーは美味しい。黒系果実にスミレ、タイム、皮革なによりも黒コショウの香りが魅力的です。

しかし時には、そのチャームポイントのスパイシーさが見つからないことはないでしょうか。

実はこのスパイスの香りの研究が進んでおり、なかでも暑すぎない産地が注目されているのをご存知でしょうか。

目次

シラーの適地

シラーは小粒で果皮が厚い黒ブドウ品種です。そのため完熟するには生育期間の平均気温が16.5~21度が適地とされています。

世界的に有名なワインの教育機関WSET®は、平均気温が16.5~18.5度から産出されたシラーは新鮮な黒系果実の風味(ブラックチェリー、ブラックベリー)、ハーブ、黒コショウの香りを持つミディアムボディのワインに、18.5~21度の平均気温はフルボディでアルコール度数が高く、調理された黒系果実と甘草の熟した風味を持つと説明しています。

この記述の通り、同一の品種でも栽培適地には幅があり、その気温によって全く異なるスタイルになることが分かるのです。

黒コショウの香りはどこからくるのか

シラーの特徴として語られる「黒コショウ」。この香り成分について近年急速に研究が進められています。

きっかけは「自分のワインには黒コショウっぽい香りを感じるが、その理由は何か」というオーストラリア生産者の疑問でした。この謎を明かすため、2003年にAWRIで研究が始められました。

その結果、2008年にその原因物質が果皮に含まれる「ロタンドン」であるということが明らかになったのです。

このロタンドンはローズマリーやマジョラム、そして黒コショウにも含まれており、先人たちが感覚的にシラーのことを「スパイシー」と表現していたことがあとから裏付けられる形となりました。

ロタンドンが生まれる条件

研究はさらに進み、現在ではロタンドンのコントロールについても突き止められています。

フランス人研究者オリヴィエ・ジェフロワ氏は「ロタンドンは醸造過程で抑えることはできても、増やすことはできない。その一方で栽培過程ではロタンドンを増やすことができる」と発表したのです。(※)

さらにこの研究では気温が25度を超えるとロタンドンの蓄積に芳しくない影響を与えることも明らかにしました。

簡単にいうならば、暑すぎない場所でシラーを栽培することが黒コショウ香るワインを造る秘訣ということです。

※IVES Technical review vine&wine/Key facts about rotundone and practical ways to pepper your wine with this fascinating aroma compound

シラー北限のコート・ロティ

フランスのコート・ロティは黒コショウ香る典型的なワイン産地でしょう。

その秘密はずばり北緯45度に位置すること。同緯度は日本ならば北海道の宗谷岬にあたり、北半球でシラーが植わる北限とも言える場所なのです。

ともすれば、果皮の厚いシラーが適熟に達するにはやや涼しすぎるとも思われるロケーション。しかしこのコート・ロティはローヌ川渓谷沿いの急斜面の南もしくは南東向き斜面に位置していること、また固い片岩質土壌で形成されており、そういった諸条件が日照量と熱を集め寒さを和らげているのです。

こうしてコート・ロティはロタンドンが蓄積されやすい最高のテロワールとなっています。

一世を風靡した濃厚シラーズ

一方、新世界のシラーはこれまで温暖な場所に植えられてきました。例えば、オーストラリアのバロッサ、マクラーレン・ヴェール、カリフォルニアのパソ・ロブレスがその代表例です。

そのためこれらの産地ではブドウの熟度が高く、ブラックプラムやクレーム・ド・カシスのような濃厚な香りに、フルボディでアルコール度数が高いしっかりとしたスタイルになります。

シラーの特徴とも言えるスパイスの香りは、コート・ロティのような黒コショウが姿を消し、ふわりと漂う甘草へと変化します。これはロタンドン蓄積条件の気温を上回っているからでしょう。

特にワイン評論家ロバート・パーカーが世界を席巻した1980~2000年は「パワフルなワインがよし」とされたため、生産者も競うように温暖産地にシラーを植え、そのうえ過熟したブドウからワインを仕込んでいました。

その結果、黒コショウの香りのほとんどない濃厚シラーが一世を風靡したのです。

クール・クライメイト・シラー/シラーズの誕生

パーカーの引退を目前にし、ワインの評価軸はダイナミックに変わりました。時代は「パワー」から「エレガンス」に。

シラーにおいても過熟気味なブラックプラムと甘草よりも、適熟した黒コショウ香る華やかなものが求められるようになったのです。

このような中、前述のロタンドンの研究は、生産者たちに大きな刺激と創造力を与えることとなりました。特に新世界の生産者たちは「クール・クライメイト・シラー/シラーズ」を合言葉に、生育期間の気温が25度を上回らないような産地開拓に余念がありません。

ここで一つポイントとなるのは、新世界はおおむね温暖なため、冷却効果をうける場所を目利きする必要があったことです。

例えば標高の高い畑、寒流の影響で朝方霧が立ち、日中から午後にかけて海風が吹くような沿岸部が理想的でしょう。そのような中、台頭してきた産地がオーストラリアのヤラ・ヴァレー、オレンジ、カリフォルニアのサンタ・バーバラ、南アフリカのエルギンなのです。

まとめ

パーカーの全盛期に一世を風靡した濃厚シラー。もちろんそれは一つの個性として楽しむべきでしょう。

しかし料理との相性や、飲み疲れしないという観点では「クール・クライメイト・シラー/シラーズ」は嬉しいものです。黒コショウがアクセントに香るワインはどこか清楚でエレガントな気分になれるでしょう。

今度、売り場でシラーを手に取ることがあれば、どんな産地で造られたのかぜひ着目してみてください。

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