貴腐ワインと並ぶ甘口ワインの最高峰、アイスワイン。その優雅で甘美な味わいは、普段辛口ワインしか飲まないワイン愛好家をも虜にするほど魅惑的です。
凍ったブドウから造られることから「アイスワイン」と言いますが、偶然が重なって生まれたことで奇跡のワインとも呼ばれます。
今回はそんなアイスワインについて解説します。
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アイスワインとは
アイスワインとは、ブドウが樹上で凍結した状態の時に収穫し、凍ったまま圧搾して造る甘口のデザートワインで、主にドイツ、オーストリア、カナダで生産されています。
アイスワインの製造に関しては生産国ごとに厳しい規定があり、例えばドイツの場合は外気温マイナス7℃以下、カナダではマイナス8℃以下の状況でブドウを収穫しなければアイスワインとみなされません。
規定の気温で凍結したブドウを圧搾すると、ブドウ果粒内の水分は凍っていますが、その他のエキス分は凍っていないため、非常に凝縮した糖度の高いマスト(ブドウジュース)が得られます。
ただ、ブドウ一房から得られるマストはわずかスプーン1杯程度と極めて少量。そもそも、熟したブドウを収穫せずにおくことは霜による冷害や鳥などの野生動物の被害に合うなど大きなリスクが伴う上に、収穫を遅らせても収穫時に規定の気温まで下がるかどうかもわかりません。そのため、アイスワインは非常に希少価値が高く、高価になるのです。
アイスワインの製造には氷点下の環境でも結実した房が落ちない物理的に頑健な品種が向いており、その最たるものがリースリングと言われています。
アイスワインと貴腐ワインとの違い
アイスワインと並んで希少なデザートワインに貴腐ワインがあります。
貴腐ワインは樹上でブドウに貴腐菌がつき、そこから水分が蒸発するため果汁が凝縮します。そのため、貴腐菌の影響で香りも味わいも複雑になります。
一方、アイスワインは凍結によって果汁が濃縮され、貴腐菌の影響を受けないため、搾汁したマストにはピュアな果実の風味と高い酸が残ります。
結果として出来上がるアイスワインは甘みと酸味のバランスが優れており、甘口ながらスッキリとした味わいになるのです。
アイスワインの歴史
アイスワインは今から200年以上前の1974年、ドイツのフランコニア地方で生まれたと言われています。
その年の冬のある日、フランコニア地方のブドウ畑が予想外の霜に襲われ、収穫前の完熟したブドウが凍ってしまいました。本来なら処分しなければならなかったのですが、もったいないからという理由でその凍結したブドウでワインを造ってみたところ、芳醇な香りのする極甘口のワインができたのです。
アイスワインの誕生は偶然の産物であったわけですが、その後評判となり、希少な高級品として意図的に製造されるようになりました。
そしてアイスワインの本格的な産業化は第二次世界大戦後の1960年代以降となります。
1960年代から70年代の高度経済成長期に起こった甘口ワインブームに伴ってアイスワインの生産量も増え、さらに、ドイツの生産者がより安定した生産を目指してカナダへ移住し、1980年以降はカナダでもアイスワインの生産が始まりました。
アイスワインの生産国
アイスワインの生産国はドイツとその隣国のオーストリア、そして世界一の生産量を誇るカナダとなります。
カナダ
現在、アイスワインの国際市場の中心はカナダです。ただ、世界一の生産量とは言え希少価値は高く、もちろん品質も優れたものが多いので価格も高価となっています。
主な産地は、カナダ南東部、アメリカ合衆国との国境にあるナイアガラの滝で有名なオンタリオ州。カナダ東部は寒冷な気候ですが、オンタリオ州のエリー湖やオンタリオ湖等の大きな湖が大陸性気候による夏の暑さや冬の厳しい寒さを和らげ、また湖からの風の流れでブドウが霜害から守られるため、ブドウ栽培には好条件が揃っています。
オンタリオ湖とエリー湖の間を区切る位置にあるナイアガラ・ペニンシュラ地区が州内最大のブドウ産地であり、アイスワインの産地としても知られています。1983年にカナダで初めてアイスワインが造られたのもこの地域で、その初めて造られたアイスワインが世界的に評価を得たのをきっかけに、カナダでのアイスワイン造りの気運が高まりました。
カナダ産アイスワインの原料ブドウの主流はヴィダルです。ヴィダルはユニ・ブランとセイベル4986の交配種で、厚い皮を持ち、高い酸度や果実味を有するとともに、茎が強く耐寒性があるためアイスワインを造る品種として非常に適しています。
アイスワイン用のブドウの収穫は例年12月中旬から1月初旬になることが多いのですが、その年の気候によっては2月から3月にずれ込むこともあります。最近はリースリングやカベルネ・フランからもアイスワインが造られています。
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ドイツ
ドイツは昔からブドウ栽培の最北の地と言われており(※1)、その寒冷な気候がアイスワインを生みました。
今でもドイツワインと言えば甘口というイメージを持たれている方も多いと思いますが、それは1971年に制定されたドイツワイン法でドイツワインの格付けが収穫時の果汁糖度により格が上がるシステムになったためで、上位格付けとなったアイスワインは、希少で高級なデザートワインとして世界に知れ渡るようになりました。
しかしながら、2000年以降の世界的な辛口ワイン志向に伴い、ドイツ国内でも甘口ワインから辛口ワインにシフトする生産者が増え、製造に大きなリスクを伴うアイスワインの生産量は年々減少しています。
ドイツのアイスワインの主力ブドウ品種は、国内最大の栽培面積を誇るリースリングです。耐寒性に優れたリースリングから造られるアイスワインは、華やかな香りと甘みを引き締める豊かな酸、そして凛としたミネラル感があり、なんとも優雅な甘口ワインとなります。
また、ドイツのアイスワインは最低アルコール度数5.5%となっており、他国に比べてアルコール度数が低いのも特徴です。
なお、ドイツと気候風土が似ている隣国オーストリアでも長年アイスワインが造られてきましたが、ドイツの事情と同様でアイスワインの生産量は減少しています。
※1 温暖化が進んだ現在、ヨーロッパにおけるブドウ栽培の北限はイギリスです。
美味しい飲み方
まず、アイスワインはよく冷やすことが大事です。温度が高いと甘みと酸味がぼやけ、重たい口当たりになってしまいます。
香水のような華やかな香りを十分に楽しめるよう大振りのグラスに少量注ぎ、まずスワリングをしながら香りを存分に楽しみましょう。そうしているうちにアイスワインの温度が上がり、香りがさらに広がります。そして甘いワインを少しずつ口に含み、ゆっくりと味わうのがおすすめです。
アイスワインはそれだけで素晴らしいデザートとなり得ますが、おつまみがあればより優雅な気分に浸れます。1番のおすすめはフルーツやフルーツを使ったお菓子です。
フレッシュフルーツなら洋梨やアプリコット、イチジク、シャインマスカットなど。フルーツを使ったお菓子はタルトなどの焼き菓子も良いですが、フルーツのソルベやアイスクリームなどの冷たいスイーツも良いでしょう。
また、柔らかい白カビチーズやおだやかなブルーチーズとも相性が良いので是非合わせてみてください。白カビチーズには干しブドウなどのドライフルーツ、ブルーチーズにはフルーツのジャムや蜂蜜を添えると、より複雑なペアリングを楽しめます。
まとめ
ドイツやオーストリアでアイスワインの生産が減少している理由には、地球温暖化も挙げられます。
ドイツでは2019年の冬は過去2番目の暖かさだったため、アイスワインの生産はほんの数軒に留まりました。2019年だけでなく、ドイツではここ数年温暖化の影響でアイスワインの生産は困難な状況が続いています。そういった理由からも、アイスワインは年々希少性が高まっているのです。
アイスワインを飲む機会があれば、極寒の地のブドウ畑と生産者に想いを馳せ、是非ゆっくりとグラスを傾けてみてください。
参考: 日本ソムリエ協会 教本 2020
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