ボルドー、ブルゴーニュと並んでフランスを代表するワイン産地ローヌ地方。そのローヌ地方で造られている、とりわけ個性的なワインがシャトーヌフ・デュ・パプです。
アペラシオンごとに厳しい規制があり、原料ブドウ品種まで細かく指定されているフランスワインを多少なりとも学べば、シャトーヌフ・デュ・パプのようなユニークなワインが造られていることに必ずと言ってよいほど驚きます。
今回は奥深きシャトーヌフ・デュ・パプの世界を紹介します!
シャトーヌフ・デュ・パプとは?
スイスアルプスを発しフランス南東部を500kmを超えて流れ下り地中海へ注ぎ出るローヌ川。そのローヌ川流域に広がる、北はヴィエンヌから南のニームまでの南北250kmにわたるワイン産地がローヌ地方です。
ちょうどブルゴーニュ地方とプロヴァンス地方の間にあるワイン産地と言うとわかりやすいでしょうか。
南北に細長いローヌ地方は、多くのブドウ畑が急斜面にありシラー主体のワインが生産されている北部と、よりなだらかな平地や丘陵地でグルナッシュなど多くのブドウ品種が栽培されている南部とに分けられます。
シャトーヌフ・デュ・パプはローヌ地方南部を代表するA.O.C.であり、フランスで最初にA.O.C.に認定されたワインでもあります。
粗悪なワインの流通や産地偽装などの不正が横行した20世紀前半、シャトーヌフ・デュ・パプの生産者であり法律家であったバロン・ル・ロワ氏がジロンド県の国会議員とともに運動を起こし、A.O.C.を管理するI.N.A.O.(国立原産地および品質機関)の前身が設立されたことによります。
シャトーヌフ・デュ・パプのブドウ畑はアヴィニヨン市のすぐ北のローヌ川左岸に広がっています。この地域のワイン造りは14世紀に法王庁がアヴィニヨンに移転されたのを機に発展しました。
シャトーヌフ・デュ・パプというA.O.C.名は、「教皇の新しい城」という意味合いで、時の教皇ヨハネス22世が築いた夏の居城の廃墟が残る村の名前にちなんで付けられました。
現在もシャトーヌフ・デュ・パプのボトルの多くに法王の紋章が浮き彫りされているのも、この様な史実に由来しています。
A.O.C.シャトーヌフ・デュ・パプは赤ワインと白ワインがありますが、生産量の大半は赤ワインとなっています。原料となるブドウ品種は黒ブドウ、白ブドウ合わせてなんと13品種も認可されています(これについては後述します)。
そのため、品種構成やテロワールの違いにより、滑らかな口当たりのエレガントなタイプから、フルボディの力強いタイプまで様々なスタイルのシャトーヌフ・デュ・パプが生産されています。
テロワールの多様性
南ローヌ地方の気候は地中海性気候の影響で夏と冬は乾燥し、特に夏は気温も高く7〜8月の平均最高気温は30度に達します。
また、ローヌ渓谷から地中海に向かって吹き抜けるミストラルという強風が畑を乾燥させ、カビなどの病害からブドウを守っています。
また、シャトーヌフ・デュ・パプと言えば赤い粘土の上に拳ほどの大きさの石がゴロゴロところがったギャレと呼ばれる土壌が有名です。この玉石は古代ローヌ川によって運ばれました。
石で埋め尽くされたブドウ畑は一見すると乾燥して荒れた土地に見えますが、ギャレは通気性と水捌けに優れ、日中の太陽の熱を蓄えて夜間も土壌が保温されるため、凝縮したブドウが実ります。
ただ、シャトーヌフ・デュ・パプの土壌はギャレだけではありません。白亜紀の石灰質層を覆う砂質の土壌、赤い粘土の土壌など多岐にわたります。
このように多様性に富んだテロワールが、個性豊かなシャトーヌフ・デュ・パプを生み出す一因となっているのです。
品種の多様性
シャトーヌフ・デュ・パプに使用できるブドウ品種は下記の黒・白18種類で、最も多くのブドウ品種が認可されたA.O.C.ワインとなります。
黒ブドウ:グルナッシュ(=グルナッシュ・ノワール)、シラー、ムールヴェードル、サンソー、 クレレット・ローズ、ヴァカレーズ、クノワーズ、ミュスカルダン、テレ・ノワール、ピクプール・ノワール
白ブドウ:グルナッシュ・ブラン、グルナッシュ・グリ、クレレット(=クレレット・ブラン)、ルーサンヌ、ブールブーラン、ピクプール(=ピクプール・ブラン)、ピクプール・グリ、ピカルダン
この原料ブドウ品種の多さがシャトーヌフ・デュ・パプの魅力であり、おもしろさでもあります。
最も重要な品種はローヌ地方南部を代表する黒ブドウ品種、グルナッシュでしょう。色は淡いですがアルコールが高く、ワインに力強いボディを与えます。よって長期熟成にも耐えうるワインを生みます。
シラーは骨格と気品、そしてワインにスパイシーなニュアンスを与え、ムールヴェードルは色の濃さやタンニンをもたらすと同時にジビエや皮革などの複雑な風味を与えます。
サンソーはローヌ南部のワインに柔らかみを与える目的でブレンドされることが多い品種です。
その他の黒ブドウ、ヴァカレーズ、クノワーズ、ミュスカルダン、テレ・ノワールはいずれもフランス国内においても生産量が非常に少なく、シャトーヌフ・デュ・パプ以外ではなかなかお目にかからない品種です。
また、クレレットはローヌ地方南部からプロヴァンス地方にかけて広く栽培されている白ブドウ品種です。アルコール度数が高めで酸味は少なく、グルナッシュ・ブランとともにシャトーヌフ・デュ・パプ・ブランの原料としてよく使用されています。
ルーサンヌは、ローヌ北部ではマルサンヌとセットで用いられますが、シャトーヌフ・デュ・パプでは単体で用いられます(マルサンヌはシャトーヌフ・デュ・パプの原料ブドウに認められていません)。ハーブティーのようなアロマと比較的強い酸味が特徴です。
舌を刺すという意味のピクプールもまた、その名の通り強い酸が特徴でラングドック地方を中心に栽培されている品種です。ブールブーランもピカルダンも南仏で主に栽培されている白ブドウですね。
シャトーヌフ・デュ・パプは品種の使用比率に関する規定はないため、それぞれ個性の異なる品種18種類をいかにブレンドするか、これは生産者のアイデンティティにかかわっています。
一般的にはグルナッシュを主体に3~4品種をブレンドして造られることが多いようですが、1品種のみで造る生産者もいれば、全13品種を使用する生産者もいます。
いずれにせよ、生産者によって使用するブドウ品種はもちろん、そのブレンド比率は千差万別なのですから、多様なスタイルのシャトーヌフ・デュ・パプが生まれるのは当然のことなのです。
まとめ
テロワールと品種構成、そこに生産者の個性が重なればシャトーヌフ・デュ・パプのスタイルは無限です。一つの銘柄でこれほど多様性のあるワインは他には見当たりません。
一般的にシャトーヌフ・デュ・パプと言えば色が濃くて凝縮感のある力強いワインをイメージする人が多いかと思いますが、中には驚くほどエレガントな味わいのワインを造る生産者もいます。
是非、生産者毎に飲み比べて好みのシャトーヌフ・デュ・パプを見つけて下さい。
参考: 日本ソムリエ協会 教本 2020
シャトーヌフ・デュ・パプ