時代は巡り、流行は移ろいます。ワインもそれに漏れず、80年代後半から続いた濃厚で凝縮した重たいスタイルへの反発から、近年ではより抑制の効いた繊細なスタイルが評価される時代となりました。
そんな今、ニューノーマルとも言える新しいスタイルを確立させつつある品種、グルナッシュについてお話します。
グルナッシュのおさらい
まずはグルナッシュというブドウの品種特性と造られるワインのスタイルをおさらいしましょう。
グルナッシュは萌芽が早いにも関わらず晩熟で干ばつにも強いため、かなり温暖な地域での栽培に向いた品種。その一方で、しっかりとブドウの生理的成熟を待っていると潜在アルコール度数(糖度)が高くなりやすいので、ずっしりとした印象のワインになりがちです。
従来の味わいも、グルナッシュを主体に複数品種をブレンドすることが多いシャトーヌフ・デュ・パプの印象が強いことも手伝い、“色調が濃くスパイシーでずっしり”といったイメージなのではないでしょうか。
新しいスタイルの台頭
そんなグルナッシュの従来のイメージに対するアンチテーゼとして、近年、原産国スペインの生産者たちが新たなスタイルを生み出し、世界から称賛を得ています。
このムーブメントはマドリードの西、グレドス山脈周辺の標高の高いエリアに植わった高樹齢のグルナッシュで造られるワインによって引き起こされました。
従来のイメージを180度変える、淡い色調とバラや赤い果実を思わせるフローラルな香り、フレッシュな味わいがブルゴーニュの代替品となり得るワインとして注目されたのです。
なぜこのようにこれまでのスタイルとは対照的なワインを造ることができたのでしょうか?
それは、むしろこれまでのワインがグルナッシュ本来の味わいを表現するというよりも、時代に求められているスタイルに合わせていたからでした。グルナッシュ本来の色素は薄く、イチゴのような甘い赤系果実のアロマと優しい渋味が特徴。
旧来のイメージがスパイシーで濃い色調なのは、赤ワインに濃い色調を求められる時代だったため、シラーやムールヴェードルといった品種をブレンドしていることや人間が手を加えて強い抽出を行っていたからです。
ところが、時代が変わったことによってグルナッシュ本来の透き通るような淡い色調は、頼りない華奢な味わいといったネガティブなイメージから、繊細で上品な味わいを想起させるポジティブなイメージに代わりました。
グルナッシュ自体の特徴やフレッシュさを活かした、ピュアなスタイルが受け入れられるようになったのです。
ここでワインメーカーは気付きます。この流行のワインを構成する「標高の高さ」以外の要素は、グルナッシュが本来もっているものということに。
かくして、世界中のワインメーカーがこのトレンディなスタイルに挑戦し始めます。
気候変動に対応する品種として注目
ティム・アトキンMWの南アフリカワイン格付け1級に選ばれているデイヴィッド&ナディアは、グルナッシュのポテンシャルに惚れ込み、注力するために他の黒ブドウ栽培を諦めた生産者です。
南アフリカでも内陸部のスワートランドでブドウを非灌漑で育てている彼らは、酷い干ばつが続いた年にシラーの1/2ほどの水分しか必要とせず、熱波も楽々乗り越え、酸味を備えたワインを生み出すグルナッシュの可能性に着目したのです。
そんな彼らはグルナッシュのことを「貧乏人のピノ・ノワール」と表現し、驚くほど繊細で透明感のあるワインを造っています。
気候変動が叫ばれる昨今、これは他のワイン産地にも当てはまることです。南アフリカ以外にもオーストラリアやカリフォルニアといった干ばつが問題となっている生産地では、これまで安価なワインのブレンド用として無造作に栽培されていたグルナッシュの古樹が密かに脚光を浴びつつあります。
栽培の中心地、南ローヌの今は?
グルナッシュの栽培面積は原産地スペインが63,000hl、フランスが87,000hlとなっています。もう一つのグルナッシュの中心地、フランス南部ローヌの今はどうでしょうか。
最近では南部ローヌ地方でも、グルナッシュのことを「南ローヌのピノ・ノワール」と表現し、エレガントなスタイルを目指す生産者が増えているようです。
しかし、元々シャトーヌフ・デュ・パプはグルナッシュ単一品種のワインというわけではないことや、一時期は米国評論家の嗜好に流されていた影響もあり、もう少しどっしりとしたワインが主流かもしれません。
一方で、20世紀前半を代表する美食家キュルノンスキーに「日光にキスされたブルゴーニュワインのよう」と評されこともあるヴュー・テレグラフやシャトー・ラヤスのように、少数派ながらも一部の生産者は昔から繊細で上品なワインを生産し続けています。
ただし、当然ながら全てのシャトーヌフ・デュ・パプがそうではないため、選ぶ際には少しだけ注意が必要。生産者の哲学やグルナッシュの比率に注意してワインを選んでみてください。その多様性がシャトーヌフ・デュ・パプの醍醐味でもあります。
まとめ
今回はニューノーマルなグルナッシュをご紹介しました。「グルナッシュなんて暑苦しい味」と思っているピノ・ノワール党の方にこそ、飲んで頂きたいと思います。
またワインの味にも流行のスタイルがあって、時代によって評価が変わることもご理解いただけたでしょうか。特に日本人に好まれやすい軽やかなスタイルは、評論家の点数が低くなりがちです。点数に惑わされず、自分の感性でワインを楽しんでみてくださいね。
グルナッシュのワイン一覧