2018年ヴィンテージのブルゴーニュワインが今、日本に続々と入荷している。
すでにご存じのとおり、2018年と2019年は、1989年と1990年、あるいは2009年と2010年のペアのように、連続した偉大なヴィンテージ(2020年も含めて三つ子のヴィンテージ)となりそうだ。
そこで今回は2018年ヴィンテージについて振り返ってみることにしよう。
ブルゴーニュ訪問記録
手帳を確認すると、この年は7月と10月の2回、ブルゴーニュを訪問している。7月はクロ・デ・ランブレイの100年ヴァーティカルテイスティングに参加するため。10月はワイン専門誌「ワイナート」のブルゴーニュ特集の取材だった。
7月の渡仏で思い出すのは、この頃、フランス国鉄SNCFが大規模なストの真っ最中で、フランス新幹線TGVを使ったパリ・ディジョン間の往復が心許なく、予備に路線バスの予約も取って現地入りしたこと。幸運にも路線バスに頼ることなく済んだけれど、帰りのTGVはまさかの遅延。あわや成田行きの飛行機に乗り遅れるところだった。
往路は時間どおり正午過ぎにディジョンに到着。翌日の夜に行われるクロ・デ・ランブレイでのイベントまで、いくつか造り手を訪ねる予定を立てていた。7月初旬のブルゴーニュは日中暑かったが空気は乾燥しているので、建物の中ではそれほど暑さを感じなかった。
ジュヴレ・シャンベルタンのジェローム・ガレイランという造り手を訪ねた時のことだ。取材の段取りを話すとまずブドウ畑を見に行かないかと彼が言う。
というのもその日の朝、ニュイ・サン・ジョルジュに雹が降ったので、彼がプルモー・プリセに所有するコート・ド・ニュイ・ヴィラージュの畑が心配でならないらしい。それで蔵での挨拶もそこそこ畑に着くと、案の定、雹が当たって葉に穴が空いたり、傷の付いた房が見られた。ただ短時間だったらしく、大きな被害には至らなかった。日本でもそうだが、暑い日が続くと突然積乱雲が発生し、雹をともなう雷雨がブドウ畑を襲う。
10月の取材では残念ながら、18年ヴィンテージのワインはマロラクティック発酵の途中のため、まだ試飲することができなかった。
「この時点で品質を語るのは時期尚早」と口を揃えて言っていたけれど、造り手の表情からは満足そうな様子が見てとれた。唯一の不安があるとすれば、とくに白ワインにおけるマロラクティック発酵後の総酸量だろう。
2018年のブルゴーニュの天候
さて、前置きが長くなったが、2018年は天候的にどういう年だったのか。ブルゴーニュ委員会がその年の9月28日に発表したコミュニケを見てみることにしよう。
2018年は驚きの年だった。1月と3月に大量の雨が降り、ブドウの樹は水分を蓄えることができた。この特殊な気候条件により、萌芽は4月中旬まで遅れたものの一気に進んだ。4月中旬から素晴らしい天候となり、ブドウの樹は遅れを取り戻し、むしろ速度を早めて一貫したリズムで成長した。病気はその発生に好都合な天候にもかかわらず、ほとんど見られなかった。
6月になって天気は180度変わり、暑く乾燥した日が9月まで絶え間なく続いた。ブドウの樹はすごい速さで生育が進み、開花は例年と比べて早かった。開花中盤の段階に入ったのは、地区にもよるものおおむね5月29日から6月3日。1994年から2017年までの平均と比べて10日ほど早い(2007年、2011年に次ぎ3番目に早かった)。
夏はとても暑く、ブドウの樹は地中深くの水源から水分を吸い上げるほかなかった。水不足によりヴェレゾンの速度が遅れたが、この天候のおかげでブドウの樹は素晴らしく健全な状態を保つことができた。
良好な衛生状態と夏の天候のおかげで、最適になるまで成熟を待つことができた。収穫は8月末から9月の第3週までほぼ一ヶ月にわたって繰り広げられた。
2018年は質量ともに期待に応えるヴィンテージとなった。発酵が始まったばかりだが、良好なバランスだ。赤は色付き良く、抽出具合も良い。白はミネラル感がありフレッシュさが感じられる。
生産者の見解
ヴォーヌ・ロマネのミシェル・グロは、2018年についてこのように述べている。
「春と夏の雨不足が私たちのブドウ畑に大きな問題をもたらすことはありませんでした。冬の間にたくさん降った雨のおかげでしょう。ただ残念なことに、7月3日と15日の雷雨で雹害に遭い、オート・コート・ド・ニュイとニュイ・サン・ジョルジュの一部の区画で大きな被害がありました」。
オート・コート・ド・ニュイでは収穫の半分を失い、ニュイ・サン・ジョルジュのシャリオという区画では30%の収穫を失ったと言う。
「2018年は太陽の年です。魅惑的でピュア、タンニンのストラクチャーはありますがシルキーで、美しい酸をともなうワインに仕上がりました。辛抱強く待てる愛好家ほど、その恩恵に預かれるでしょう。2018年ヴィンテージは2003年や2009年に似ています」。
今世紀に入って温暖化が加速し、2003年の酷暑を経験してからというもの、ブルゴーニュで8月中の収穫開始はけっして珍しいことではなくなった。栽培農家もそうした気候への対応、心構えがすでにできている。
また改めて思うのは、ブルゴーニュの粘土石灰質土壌というテロワールの素晴らしさだ。この土壌が冬の間に降った雨を溜め込み、まさに貯水池として旱魃の夏に活躍する。ブドウの樹はその地下水脈から水分を得て、生育を進めることができる。
ということは、当然、ブドウの根が地中深く伸びていることが重要になる。若木よりも古木が有利なことは言うまでもないが、それに加えて栽培方法も大いに関係する。化学肥料を与えている畑や、畝間を鋤きこまない畑では、根は表層を横にばかり張りがちで、地中の水源から水分を得ることは難しい。しっかり畑仕事をしている造り手ほど、こうした年に成功しているはずだ。
2018年ヴィンテージの味わいは?
2018年のブルゴーニュをいくつか試した経験から言うと、白ワインはシャブリですら、黄色い果実のニュアンスが感じられるエキゾチックさだが、適切な栽培方法と収穫時期の判断のおかげでフレッシュネスは保たれている。むしろシャープな酸が苦手な人にとっては、この寛大な包容力は歓迎すべきところだろう。またシリアスに造っている生産者に限られるが、すこぶる出来の良いアリゴテに出会える確率も高い。
赤ワインはサヴィニー・レ・ボーヌをいくつか試したが、肉付き良く、緻密なタンニンが骨格を形作っていた。ボーヌに近い砂混じりのクリマでも、しっかりした構造なのには驚いた。タンニンは豊富だが、豊かな果実味に溶け込んでいるので、若いうちからアプローチしやすい。もちろん、クリマによってはミシェル・グロの言うとおり、長期熟成によって真価を発揮するものもあるだろう。早くから楽しめ、長期熟成にも耐えるという点では、たしかに2009年とよく似ている。
太陽の恵みの恩恵でマルサネやフィサン、モンテリーといったマイナーな村名アペラシオンでもしっかりしたボディと骨格を備え、オート・コートのような涼しく、なかなか完熟が難しいエリアでも充実した果実味を持っている。
価格高騰が著しい昨今のブルゴーニュ。こういうヴィンテージこそ普段は躊躇しがちな、あまり知られていないアペラシオンに挑戦してみてはいかがだろう。
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