ボルドーワインの醍醐味の一つにアッサンブラージュが挙げられます。一般的にボルドーのワインは、赤ワインであればカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロを主体に複数のブドウ品種をブレンドして造られます。
これらの主要品種は世界的にも人気のブドウ品種のため注目されがちですが、忘れてならないのが補助品種です。
主要な品種だけでなく補助品種をどのようにブレンドするかは各シャトーのセンスに関わっているといっても過言ではありません。
そこで今回はボルドーワインの魅力をブドウ品種のアッサンブラージュという視点から紐解いてみましょう。
目次
単一ワインとブレンドワインの違い
一般的にボルドーのワインは赤ワインも白ワインも複数のブドウをアッサンブラージュ(=ブレンド)して造られます。ボルドーの双璧とされるフランスのもう一つの銘醸地ブルゴーニュのワインが単一品種から造られるのと対照的です。
ボルドーワインのように複数のブドウ品種をブレンドして造られるワインは、各品種がそれぞれの特徴を補完し合うことによってバランスがもたらされ、安定して高品質なワインを造ることができるのと同時に、天候によるリスクを分散させる意味合いもあります。
また、ヴィンテージによってブレンド比率を変えることもできるので、生産者の意向に合わせたワイン造りが可能です。
一方、単一品種で造られるワインは使用するブドウ品種の味わいがストレートに表現されます。そのため、テロワールやヴィンテージの個性、生産者の哲学が飲み手にわかりやすいというメリットもあります。
どうしてアッサンブラージュするの?
アッサンブラージュはボルドーワインの最大の特色と言えます。広いボルドー地域の中で各地区によって使用する主要品種は異なり、さらに同じ地区内でもシャトーによってブレンド比率も違えばブレンドするタイミングも異なります。
例えばボルドー市の北、ジロンド川の左岸に広がるメドック地区は、砂や砂利の多い砂礫質土壌でカベルネ・ソーヴィニヨンの生育に適しており、力強く骨格のしっかりした長期熟成に耐えうるワインが生まれます。
しかし、カベルネ・ソーヴィニヨンはやや晩熟で湿気に弱いことから、収穫期の天候が不安定なボルドーで毎年安定した品質のブドウを収穫するのは困難です。
そのため、カベルネ・ソーヴィニヨンより早熟なメルロやカベルネ・フランを同時に栽培しブレンドすることで不作のリスクを回避し、味わいのバランスをとっています。
また、最近は長熟型のボルドーワインでさえその多くがリリースから10年程で消費されているというレポートもあります。そのため、補助品種は飲み頃を調整する役割も果たしているのです。
赤ワイン用品種と特徴
ボルドーワインに使用される主なブドウ品種について具体的に解説します。まずは赤ワイン用品種からです。
カベルネ・ソーヴィニヨン
ご存知の通り、ボルドーの赤ワインを代表するブドウ品種です。
カベルネ・ソーヴィニヨンは果粒が小さく、果肉に対して種子が大きく、さらに果皮が黒く厚いブドウなので、豊かなタンニンと深い色調を生みます。また、その豊かなタンニンがワインとなった時に長期熟成を可能にします。
比較的温暖な気候で水捌けの良い土地でよく生育するため、ボルドーでは砂利質土壌のメドック地区でカベルネ・ソーヴィニヨンを主体としたワインが造られています。ただ、発芽と成熟が遅いやや晩熟型のブドウのため、収穫の早いメルロやカベルネ・フランとブレンドすることで収穫期のリスクを回避しています。
また、カベルネ・ソーヴィニヨンから造られるワインは非常にはっきりとした個性を持っており、若いうちは特にカシスやブルーベリーのような果実の香りと、ピーマンや杉のような青っぽい香りが特徴的ですが、メルロ等とブレンドし熟成させることで香りや味わいにより複雑性が生まれ、ボリューム感のあるふくよかな味わいとなります。
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メルロ
メルロはボルドーで最も広い栽培面積を持つブドウ品種で、カベルネ・ソーヴィニヨン同様ボルドーの赤ワインを代表するブドウ品種です。
メルロは果皮が薄く果粒が大きいブドウなので、一般的にはタンニンが少なく、ふくよかで若いうちから飲みやすいワインになります。
また、生育においてはカベルネ・ソーヴィニヨンより冷たい土壌を好むため、粘土質土壌のサンテミリオンやポムロールなど主にボルドー右岸の地域でメルロ主体のワインが造られています。カベルネ・ソーヴィニヨンより成熟させるのが容易な上に早熟で多産のため、ボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨンと混植することでバランスをとっています。
メルロは赤ワインの深い色合いを出すうえで欠かせない存在であり、プラムのようなフルーティな香りとやわらかいタンニン、ロースト香が飲みやすさを演出します。熟成させるとイチジクのような香りを感じさせる鮮やかな変化もメルロの醍醐味と言えるでしょう。
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カベルネ・フラン
カベルネ・フランは、房が小さく青みを帯びた黒い果粒で、ブドウの外見はカベルネ・ソーヴィニヨンによく似ていますが、カベルネ・ソーヴィニヨンに比べるとブドウの発芽、成熟ともに1週間程度早く、涼しい環境下でも完熟させることが容易なブドウです。
カベルネ・フランから造られるワインは、おおむねカベルネ・ソーヴィニヨンから造られるワインよりも色調が薄く、香りも控えめでタンニンも少ないのが特徴です。よって、カベルネ・ソーヴィニヨンのワインより幾分早く熟成するため、ブレンドすることで飲み頃を調整する役割も果たしています。
カベルネ・フランはボルドーではメインとして使われることは少ないものの、木苺やすみれの花のような可憐な香りや、滑らかで程良い酸味のある上品な味わいに整えるなど、個性の強い品種同士をブレンドする際の優秀なまとめ役を担っているのです。
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マルベック
マルベックは果粒が小さく果皮が厚いため、タンニンが豊富で非常に濃い色合いのワインを生みます。
マルベックの最大の特徴はやはり濃厚な色合いです。そのため、ブレンドすることでワインの色合いを調整しています。
また、ブルーベリーやプラムといった果実の香りとともに、スミレやバラのような花の香りや、杉やインク、皮のような香りなど複雑なアロマを生みます。
20世紀半ば頃まではボルドーでも人気の品種でしたが、もともと花ぶるいの被害を受けやすい上に、霜、ベト病、腐敗にも冒されやすいブドウ品種のため、1956年にフランスを襲った冷害で大きな被害を受け、ボルドーをはじめフランスでの栽培量が激減しました。
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プティ・ヴェルド
プティ・ヴェルドは年によってはほとんど収穫できないこともあるほど熟すのが遅い品種です。
しかしながら、十分に熟したプティ・ヴェルドは黒紫のような濃い色合いが特徴の、豊富なタンニンとしっかりとした骨格を持つワインを生みます。また、このブドウ特有のコーヒーやカカオ、ブラックペッパーなどスパイスのニュアンスをワインに与えます。
フランスでの栽培地域はほぼボルドーに限られ、中でもメドックが主要な栽培地となっています。一般的にはカベルネ・ソーヴィニヨン主体のワインに骨格を与える目的で少量ブレンドされます。
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白ワイン用品種と特徴
ここからはボルドーワインに使用される代表的な白ワイン用ブドウを解説します。
セミヨン
セミヨンは中甘口と甘口ワインでは主要品種として、また辛口ワインでは一般的にソーヴィニヨン・ブランを補助する目的でブレンドされます。
セミヨンから造られるワインは熟成に耐えうるしっかりとしたボディになりますが、若いうちはあまり特徴がなく香りも乏しいため、強いアロマと高い酸を持つソーヴィニヨン・ブランとブレンドしてバランスを保っています。また、ソーヴィニヨン・ブランを使用した辛口白ワインにブレンドすることで、味わいにボディを補う役目も果たしています。
そして、セミヨンと言えばボルドーの世界最高峰の甘口ワイン、ソーテルヌに使用されている品種で、皮が薄く、貴腐菌がつきやすいという特徴があります。セミヨンは熟成した甘口ワインでその真価を最大限に発揮し、ドライフルーツや蜂蜜など無類の素晴らしいブーケと華やかさをワインに与えます。
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ソーヴィニヨン・ブラン
ボルドーの辛口ワインでは欠かすことのできない品種がソーヴィニョン・ブランです。
ソーヴィニヨン・ブランから造られるワインは一般的に青みがかった淡い黄色で、豊富な酸を持ち、柑橘類の香りとグリーンやハーブのニュアンスを漂わせた清涼感に溢れた味わいとなります。
ソーヴィニヨン・ブラン単体では比較的早めに飲むタイプのワインとして造られることが多いのですが、ボルドーではセミヨンとブレンドすることで、骨格のしっかりとしたワインとなり、特に甘口に仕上げられた場合は長期熟成も可能なワインとなります。
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ミュスカデル
ボルドーの白ワインにおいて補助的な役割で使われることの多い品種です。
晩熟で病害のリスクが高いため育てにくいのですが、ジャスミンのような花の香りと麝香(ムスク)のような香りが重宝され、10%以下の割合でブレンドされます。
辛口と甘口どちらのワインにも使える汎用性の高さも人気の秘密です。
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新品種の導入
これまでボルドーおよびボルドー・シュペリュールのAOC規定では下記の六つの赤ワイン用品種と、七つの白ワイン用品種が認められていました。
赤ワイン用品種
- カベルネ・ソーヴィニヨン
- カベルネ・フラン
- メルロ
- マルベック
- カルメネール
- プティ・ヴェルド
白ワイン用品種
- セミヨン
- ソーヴィニヨン・ブラン
- ソーヴィニヨン・グリ
- ミュスカデル
- コロンバール
- ユニ・ブラン
- メルロ・ブラン
2019年、温暖化対策としてAOCボルドーおよびボルドー・シュペリュール生産者組合は、新たに赤ワイン用品種にトウリガ・ナチョナル、アリナルノア、マルスラン、カステ、白ワイン用品種にアルバリーニョ、プティ・マンサン、リロリーナを補助品種として認定しました。
そして、2021年1月に国立原産地名称研究所(INAO)は、プティ・マンサンを除く6品種の使用を正式に承認しました。これらの新たな6品種の植え付けは地方全植栽面積の5%が上限とされており、赤ワインでも白ワインでも10%がブレンドに占める割合の上限となっています。
この度の決定は、現代のブドウ栽培における最大の問題である気候変動対応策の一環ですが、ボルドーにおける対策はブドウ品種の選択にとどまらず、夜間に収穫することや植樹間隔を広げることなど、ブドウの栽培から醸造にいたるまで生産者達は思考錯誤しながら不断の努力を重ねています。
ボルドーワインの継続的な発展のために、まずは広域AOCで新たな品種を導入してブドウ畑の変化を把握する意図もあると考えられます。
まとめ
ボルドーにおける新しい補助品種の導入は、生産者達が新たな品種の生産を試みながら栽培品種をさらに多様化させ、長い歴史の中で培ってきたワインのブレンド技術をさらに発展させることができるチャンスとも捉えることができます。
近い将来、ボルドーワインのアッサンブラージュは、今とは違う補助品種が使用されるようになるかもしれませんね。フランス国内にとどまらず世界中のワインを牽引する産地ボルドーの動きは今後も要注目です。
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2020 ・ボルドーワイン委員会HP https://www.bordeaux-wines.jp/