ソムリエ / ワインエキスパート試験における最初の山場がフランスでしょう。
「フランスを制するものが受験を制す」とはよく言われたもので、10年ほど前まで試験の約25%がフランスからの出題でした。ところが現在では同国からの出題はその半分ぐらいまでに減っています。※
そうなると「フランスを丁寧に勉強する必要はないよ」という声も聞こえてきそうなものです。ところがそうはいかないのがワインの勉強です。
今回はそんなフランスの勉強法についてお伝えします。
※数字は独自調べ
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フランスをおろそかにしてはならない
世界中のワイン生産国は、どこかフランスのワイン造りをお手本としているところがあります。そのためフランスをしっかり理解して学んでおくことで、後々、他国を勉強したときに「しっくりくる」からです。
例えば、なぜシャンパーニュ地方では生産の約90%が発泡性ワインなのか、なぜブルゴーニュの主要黒ブドウ品種がピノ・ノワールなのか。
それが理解できれば、他国を勉強したときにも、すぐに暗記できるでしょう。
意味記憶とエピソード記憶
ここで記憶の種類についてご紹介します。「意味記憶」と「エピソード記憶」というのをご存じでしょうか。
意味記憶はじゅげむじゅげむの意味のないことを暗記することです。有名なものに九九の暗記があります。残念ながらこの記憶は10歳がピークで、それ以降は下降していくことが報告されています。
その逆に年齢とともに発達していくのがエピソード記憶です。これは経験や体験に伴う記憶です。長野のワイナリーに行って楽しかったとか、ワイン会で飲んだワインがおいしかったというのは忘れたくても忘れられないものです。
大人は子供よりも経験が豊富。そのため、こちらの記憶が得意なのです。フランスだけでなく、すべての学習範囲でこのことを頭において勉強されると良いでしょう。
格付け命のボルドー
フランス・ボルドーに関する問題のほとんどが格付けにまつわるものです。とくにメドックの格付けは昔から出題率が高いところです。
これは上述したじゅげむじゅげむの意味暗記で、残念ながら「力技」で覚えるしかないというのが本音です。書く、ゴロを使う、映像で覚えるなど、根気よく何度も繰り返して取り組む必要があります。
ここで「大人は意味記憶が苦手だから無理だ」と諦めないでください。たしかに大人は子供と比べるとじゅげむじゅげむの暗記は苦手です。
しかし子供の頃、初めて掛け算を覚えた時のことを思い出してください。繰り返しドリルを解いたり、復唱したり、壁に貼ったりと暗記のための努力をしていませんでしたか。つまり子供たちでさえも掛け算を覚えるのに、かなりの労力を費やしているのです。
「最近覚えられない」と言う人たちに限って、子供の頃の努力を忘れ、覚えられた結論だけが思い出に残っているので「記憶力が落ちた」と感じているだけではないでしょうか。
筆者は市販されているゴロ本を買ってきて、まずはそのゴロで覚えました。1度頭に入ったら、毎日勉強のスタートアップに格付けを書き出していました。いわば格付けの暗記を毎日のルーチンにしていたのです。
壁に貼るのも基本でしょう。子供の頃、日本地図、元素記号の一覧を壁に貼ったりしていませんでしたか。
最寄りのエノテカに足を運んでボルドーワインのラベルを眺めたりするのもありでしょう。もちろん機会があれば買って飲んでみましょう。きっと強烈なエピソード記憶になりますよ。
AOC命のブルゴーニュ
一方、ブルゴーニュはAOCの問題が半分を占めます。効率良くAOCごとの生産可能色を覚えたいところです。
ここでみなさんに紹介したい脳の性質に、大枠をとらえてから細かいものを覚えたほうが記憶に残りやすいというものがあります。つまり「木を見て森を見ず」というのはだめで、「森を見て木を見る」といった勉強法が暗記の近道なのです。
この性質を使わない手はありません。まず、ブルゴーニュの六つの地区を北から順番に覚えましょう。このとき白/赤ワインかその地域を代表する生産可能色とセットにして暗記します。
例えば、シャブリからボージョレまで、白⇒赤⇒白⇒赤⇒白⇒赤とラッキーなことに規則的に並んでいるのがわかります。
このときコート・シャロネーズは赤で有名だけど、白ワインの生産しか認められていない例外のAOCがあるということもセットで覚えましょう。それがブーズロンとモンタニーなのです。さらに普通は赤ならピノ・ノワール、白ならシャルドネがブルゴーニュでは認可されていますが、ブーズロンはアリゴテが認可品種です。
このやり方は、まさに大枠をおさえ、例外を細かくとらえるというやり方です。
余談ですが、ブーズロンがAOCに昇格できた背景にはDRCのオーナーのヴィレーヌが立ち上げたドメーヌ・ド・ヴィレーヌの存在があります。買って飲んでみると勉強が楽しくなりますよ。
白地図にまとめよう
残りの産地もAOCの暗記が基本になるでしょう。ブルゴーニュ同様、大枠を捉えてから、細かい産地を暗記していきましょう。
例えば、ローヌだったら北部はシラー、南部はグルナッシュ中心という具合です。白地図を使って、生産可能色ごとに色塗りをして、簡単にまとめることをおすすめします。
このときポイントが二つあります。一つは自分で作ること。人が作ったものを見ていても、なかなか覚えられないものです。二つ目は凝りすぎないことです。きれいにまとめシートを作ることが勉強ではありません。手を動かすことが勉強なのです。
白地図を色塗りしているうちに、なぜコート・ロティとエルミタージュが優良AOCといわれるのかもわかると思います。理由はAOCが川に対して斜面になっていて、しかもその斜面が南もしくは南東を向いているからです。
ロワールも同じです。ヴーヴレやサブ二エールがプレミアムなのは、川に対して南向きの斜面に位置しているからです。
高緯度に位置するフランスは日照量を集め、熱量アップするには、北向きよりも南向きの斜面が優位なのです。マンションが北向きよりも南向きが人気なのと同じですね。手を動かしていると、こんな風に暗記のヒントを発見することもできます。
まとめ
フランスはワインの勉強の土台となります。基礎を固め、理解を深めるという意味でも非常に重要です。
このときポイントなのは、なるべくエピソード記憶を意識すること、大枠をとらえる癖をつけること、自分で手を動かして簡単にまとめることです。
楽しくフランスをパスしてイタリア、スペイン、新世界へとジャンプしたいものです。