水の都ベネチアを有し、街並みの美しさから観光客が絶えないイタリア ヴェネト州。
ヴェネト州の北東部に位置するヴァルポリチェッラ・クラシコ地区は、赤ワインの銘醸地として世界的に有名です。
この地で、16世紀初頭からワイン造りを行い、現在イタリアを代表する生産者の一つとしての名声を築き上げているのが「アレグリーニ」です。世界最高峰と呼び声高いアマローネをはじめ、魅力的なワインを数多く生み出しています。
このアレグリーニを語るうえで欠かせないのが、これまでの長い歴史の中でおこなってきた革新的な取り組みの数々。今回はアレグリーニがイタリア最高の生産者と呼ばれるようになった所以をご紹介します。
ヴァルポリチェッラにクリュの概念を導入
革新的な取り組みの一つ目は、なんといってもヴァルポリチェッラに“クリュ”の概念を導入したことでしょう。
フランス・ブルゴーニュで「グラン・クリュ」「プルミエ・クリュ」といった畑を指す言葉を聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。クリュとはフランス語で「畑」や「級」を意味し、ワインの世界では特定のワインを生み出す畑、またはそこで収穫されたブドウから造られたワインのことを指します。
1970年代頃、まだこの単一畑でワインを造るという概念がこのヴァルポリチェッラ地区には存在しませんでした。
それをこの地で初めて導入したのが、現当主マリアーザ女史の父にあたる5代目当主ジョヴァンニ・アレグリーニ氏です。
ジョヴァンニ氏は非常に情熱的な人でした。「もっと質の高いワインを造りたい」そんな思いから、より良い環境を求め、日当たりの良い丘の上の畑たちに着目します。
そして1978年には「パラッツォ・デッラ・トーレ」の畑を、1983年に「ラ・グローラ」、「ラ・ポヤ」の畑を購入。それぞれの畑の特徴を表現したワインを造ることを決意しました。
その中でも、標高320mの丘の頂上に位置する僅か2.65haの小さな畑「ラ・ポヤ」は特に成功をおさめています。ジョヴァンニ氏はこの畑にコルヴィーナ・ヴェロネーゼ種を植樹するところからワイン造りを開始。今ではアレグリーニ渾身のトップキュヴェを生み出す畑となったのです。
現在では、単一畑でワインを造る生産者も多くなりましたが、ジョヴァンニ氏のこの試みがあってこそ。ヴァルポリチェッラ地区の畑がもつ個性を表現する大きな一歩と言えるものだったのです。
垣根仕立てへの変換
ジョヴァンニ氏の革新的取り組みは栽培方法にも。
ヴァルポリチェッラではブドウの収量を重視する生産者が多く、長年棚仕立てでブドウを造るのが一般的でした。しかし、ジョヴァンニ氏はこの収量重視のスタイルから、ブドウの品質重視にシフトするべく、1979年に垣根仕立てへ栽培方法を変換します。
垣根仕立てとはブドウの枝を下から上に伸ばし、その枝が平行に並んだ樹形で、ボルドーやブルゴーニュをはじめ、有名産地で見られる代表的な栽培方法です。
棚仕立てと比較すると収量は少なくなりますが、ブドウ一粒一粒の凝縮度を高めることできるのがメリットで、造られるブドウの品質は向上したと言います。
栽培方法を変更するということは決して楽な作業ではなかったはず。しかし、それを厭わない思い切った判断が、今のアレグリーニの品質の高さ、味わい深さに繋がっているのかもしれません。
こだわりの陰干し製法
ヴァルポリチェッラ地区を代表する高級赤ワイン「アマローネ」。
完熟したブドウをアパッシメント(ブドウを3~4ヵ月陰干ししエキスを凝縮させる)し、40~45%ほど水分を取り除いて糖度が上がった陰干しブドウを使用して造られる、イタリア最高峰のD.O.C.G.赤ワインです。
このアマローネを語る上で欠かせないのが、陰干しブドウを造るためのアパッシメント作業です。
他の生産者では、アレーレと呼ばれる葦で作られた棚や木箱にブドウを積み重ねていく方法や、天井からブドウを紐でぶら下げるといった陰干し方法が多く採用されていますが、これらの方法にはブドウの衛生状態が悪くなるデメリットが。
棚や木箱にワインを重ねすぎると、湿気でカビが生えてしまったり、果実に傷がつき果汁が出た部分から腐敗が始まってしまうことがあります。
そこでアレグリーニでは、1998年からブドウの陰干し専用設備「テッレ・ディ・フマーネ」を導入しています。
この設備は、専用の籠を用いてブドウを収穫した後、それをそのまま施設の中に積み上げて陰干しできるという最新鋭のもの。
籠の中でブドウが重ねられるということはなく、施設内も空調がしっかりと整えられており、籠と籠の間には空気を循環させるためのスペースが設けられています。
この最新の設備のもと、アレグリーニでは約4か月アパッシメントをしていきます。ブドウは少しずつ水分が減っていき、最終的には約40~45%失われた状態まで凝縮させ、質の高い陰干しブドウを作り出しています。
まとめ
長年に渡る一族の情熱と挑戦が飛躍的な革新をもたらし、ヴァルポリチェッラ地区で造られるワインの品質を大きく向上させてきました。
こういった取り組みが認められ、アレグリーニはイタリアの権威あるワイン評価誌「ガンベロ・ロッソ」の2016年版にて「ワイナリー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。
最高賞トレ・ビッキエリを通算37回獲得し世界に名を轟かせることで、このヴァルポリチェッラのワイン造りを牽引しているのです。
現在、アレグリーニはこのヴァルポリチェッラ地区以外にもボルゲリ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノにもワイナリーを展開しており、その精力的な取り組みは留まることを知りません。
ますます躍進を続けるアレグリーニ。次は一体どんな革新で、生み出すワインに磨きをかけていくのでしょうか。
アレグリーニのワイン一覧