あたたかい春を迎え、花がたくさん咲く季節となりました。花の美しい見た目や色鮮やかな色彩、そして特有の華やかな香りは、私たちに癒しを与えてくれますね。
そんな「花の香り」はワインを表現する時にたびたび登場します。
一言に花の香りと言ってもワインのタイプや使われているブドウ品種によって様々な花の香りを感じることができるんです。
今回はそんなワインにまつわる花の香りについてお伝えします。どんなワインからどんな花の香りがするのでしょうか?
白ワインで表現される花の香り
花の香りでも白ワイン、赤ワインとで異なり、特に白ワインからは白い花の香りが感じ取れます。
この白い花の香りは、ブドウに含まれるモノテルペンという化合物に由来しています。
モノテルペンはブドウの品種によって含まれる量が違っているため、香りの強さは品種によって様々。
マスカット系の品種に最も多く含まれており、ワインにフローラルな香りを与えてくれます。
ハニーサックル(スイカズラ)
ハニーサックルの名前は花の蜜を吸うと甘いことに由来し、日本では「吸葛(スイカズラ)」とも呼ばれています。
4~5月頃に白い花を咲かせ、成長とともに黄色に変化するのが特徴で、蜜のような甘い香りを放ちます。
スイカズラの香りは樽で熟成されたシャルドネや、ボルドー地方のソーテルヌで造られる甘口の白ワインで表されます。
エルダーフラワー
エルダーフラワーは西洋ニワトコとも呼ばれる植物で、5月~6月頃になると小さな白い花を咲かせます。
その花の香りは、マスカットのような香りと野草のような清涼感のある香りを併せ持ちます。
エルダーフラワーは、他の白い花の香りに比べて繊細でやさしい香りのワインに表現されることが多く、ソーヴィニヨン・ブランで造られた辛口の白ワインがその香りに当てはまります。
ジャスミン
ジャスミンはアジアからアフリカの熱帯~亜熱帯原産の植物で、7~9月に白や淡い黄色の花を咲かせます。
その香りはモノテルペンの一種であるリナロールという成分に由来しており、甘く刺激的な香りから香水やジャスミン茶の原料としても使用されています。
ジャスミンは白ワインの中でもより華やかでエキゾチックな香りを表現するために使われており、ヴィオニエで造られた白ワインのようなアロマの強いワインから感じることができます。
赤ワインで表現される花の香り
では、赤ワインはどうでしょうか?ブルゴーニュ地方のピノ・ノワールを使った赤ワインが「花畑のような~」と表現されることもあるように、グラスいっぱいに広がる華やかな香りは花の香りそのもの。
赤ワインで表現される花は赤や紫色の花びらを持つものが多く、ワインの色合いからも花の種類を連想することができます。
スミレ
スミレは3~5月に深い紫色をした花を咲かせ、香水のような強い香りを表します。
その独特の香りは、β-イオノンという化学化合物が関係しており、ワインにもこの化合物が含まれています。
驚きなのが、この香りは25%~50%の人が香りを感じない成分だということ。
ピノ・ノワール、カベルネ・フラン、サンジョヴェーゼなどで造られた赤ワインに表現されますが、ピノ・ノワールは他の品種と比べてβ-イオノンが3倍も含まれているため、特にスミレの香りを感じやすいと言われています。
バラ
赤バラは5~6月頃に花を咲かせ、その美しいフォルムと甘く優雅な香りが特徴です。
この特徴的な香りには多くの化合物が関係していますが、ワインと共通する香りの化合物はシス型ローズオキシドやβ-ダマセノンが挙げられます。
シス型ローズオキシドはインパクト化合物と呼ばれ、少量でもワインに強い香りを与える成分として知られています。その名の通り、バラの花びらのような香りを放ちます。
β-ダマセノンはローズケトンとも呼ばれる揮発性化合物の一種です。バラやリンゴのコンポートなどの甘い香りを持ち、植物、果物などに含まれる成分です。
ネッビオーロやピノ・ノワールはバラに含まれるβ-ダマセノンの成分が多く含まれており、その香りは赤バラで表現されています。
ちなみにバラと聞けば真っ赤なバラを想像するかと思いますが、ゲヴュルツトラミネールで造られた白ワインはバラに含まれるシス型ローズオキシドが含まれているため、白バラの香りを感じ取ることができます。
まとめ
このようにワインと花の香り成分には共通点があることも多く、他にもワインからいろんな種類の花のアロマを感じることができます。
皆さんも花がたくさん咲いているこの時期に、外に出て香りのイメージを膨らませてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】 ジェイミーグッド.ワインの味の化学.2016