世界のワイン産地の中で最も北に位置し、その冷涼な気候から世界一美しい酸と繊細な芳香を備えるワインを生み出すと言われるドイツ。
ひと昔前まで甘口のイメージが強かったドイツワインですが、現在は食事に合わせて楽しめる辛口ワインの生産が主流となっています。そのため、これまで収穫時の果汁糖度を基準に格付けしていたドイツのワイン法も2021年に改正されました。
そこで今回はドイツの新しいワイン法において最上級とされる辛口ワイン「グローセス・ゲヴェックス」について紹介したいと思います。
これまでのワイン法
1971年に施行されたドイツのワイン法は、収穫時の糖度を基準とし、甘口ワインに特化したものでした。
というのも、当時は冷涼な気候だったためブドウが完熟するのは稀で、糖度の高いブドウを得ることは非常に困難だったからです。ですから最も糖度の高いブドウから造られた甘口ワインが最高位の肩書きとなりました。
もちろん辛口ワインも生産されていましたが、果汁に含まれる糖分は発酵によりアルコールに転換されるので、いずれの肩書きでも辛口や中辛口になることはあり得ます。そのため、辛口ワインもあくまで糖度を基準とした肩書きで「trocken(辛口)」とラベルに表記されているのみでした。
このようなワイン法が制定された背景には第二次世界大戦後の甘口ワインブームがあり、このワイン法はどんな栽培条件のブドウ畑でも適した品種を栽培すれば肩書き付きで売れることを制度的に支援したものでした。
そのため、困難な急斜面でのブドウ栽培も機械化の容易な平地でのブドウ栽培も市場では同等の扱いとなり、そのワインのクオリティについてはどこにも判断する基準がなかったのです。
ドイツ版グラン・クリュ「VDP.グローセ・ラーゲ」
1990年代前半までは甘口の白ワインの輸出が主流だったドイツワインも、1990年代後半からの世界的な赤ワインブームで赤ワイン用ブドウの生産が増加しました。と同時に、食事と楽しめる辛口・中辛口のワインの需要も高まりました。
また、地球温暖化の影響で最近のドイツでは晩熟品種のリースリングですら完熟するのが容易となり、糖度を基準とするワイン法は意味をなさなくなりました。
そして2009年8月にドイツを含むEU全域で地理的呼称制度が施行されたのを機に、ドイツにも地理的呼称による格付けが導入されたのです。当時、表記は任意であったものの独自に地理的呼称範囲による品質区分を行う生産者団体もありました。
①生産者団体VDPの登場
VDPとはプレディカーツワイン醸造所連盟のことで、ドイツのブドウ畑の格付けを推進している生産者団体です。
1897年にラインガウ、1908年にファルツ、1910年にモーゼル・ザール・ルーヴァーとラインヘッセンで生産者団体が結成され、今日ではドイツ全13のワイン生産地域にVDPがあります。
1984年、当時のドイツワイン業界にはびこる量産体制と品質低下に危機感を抱いたラインガウの一部の生産者は、高品質な辛口ワインの復興を掲げてカルタ同盟を設立しました。好条件が揃ったブドウ畑のブドウから規格に従って醸造し、官能検査をクリアしたリースリングとシュペートブルグンダーの辛口ワインをエアステス・ゲヴェックスと称することとし、1999年にドイツワイン法のヘッセン州条例として施行されました。
他の生産地でもVDP加盟醸造所を中心にブドウ畑を格付けするプロジェクトが進み、紆余曲折はあったものの2006年にはようやく全国13のワイン生産地域が品質基準制定に向けて足並みを揃えることになりました。
2012年にVDPが制定した品質基準のヒエラルキーは4段階で、下位からグーツヴァイン(醸造所名入りワイン)、オルツ・ヴァイン(村名入りワイン)、エアステ・ラーゲ(プルミエ・クリュ)、グローセ・ラーゲ(グラン・クリュ)と称しました。
ただし、この格付けはVDP独自のもので、生産地域によっては導入に差異もあり、ヘッセン州を除いて国の法的規制はありませんでした。
②辛口ワイン「グローセス・ゲヴェックス」
上記のヒエラルキー最高峰VDP.グローセ・ラーゲはブルゴーニュの格付けで言えばグラン・クリュに相当し、最上の区画を意味します。それぞれの産地で伝統的に栽培されている規定の品種を使用し、手作業による選別と収穫、ヘクタールあたりの収穫量は50hl/ha以下と、他にも細かな規定がありました。
VDP.グローセ・ラーゲの辛口ワインはグローセス・ゲヴェックスと称し、GGと書かれたグローセス・ゲヴェックスのロゴのレリーフがある特製ボトルに瓶詰めされるか、表ラベルに記載されることになりました。
そのため難解なドイツワインのラベルを理解できなくても、GGと表記されたワインは上質な辛口ワインであることがわかるようになり、近年、高品質なブドウを生み出す畑に改めて注目が集まるようになりました。
ついにドイツワイン法改定
こうした経緯を経て、ついに2021年1月ドイツワイン法が改正され施行されました。新しいワイン法は2026年ヴィンテージから適応されます。
新しいワイン法では、品質基準が従来の「収穫時の果汁の糖度」から「地理的呼称範囲」に変更されました。
まず、ドイツワインの格付けは下位から「地理的表示のないワイン」(=ドイチャーヴァイン)、次に「地理的表示付きワイン(g.g.A.)」(=ラントヴァイン)、その上位に「原産地呼称ワイン(g.U.)」(クヴァリテーツヴァイン)の大きく三つの階級に分けられます。
「原産地呼称ワイン(g.U.)」(クヴァリテーツヴァイン)は、生産地域名(g.U.)→集合畑 / ベライヒ名→市町村名→単一畑名と、ブルゴーニュでよく知られている地理的呼称範囲が狭くなるほど品質が高くなるヒエラルキーシステムを導入しました。
さらに、最高峰格付けである単一畑名入りのワインは、下位から単一畑のアインツェルラーゲ→一級畑のエアステス・ゲヴェックス→特級畑のグローセス・ゲヴェックスの三つの階級に分けられることになりました。
つまり、グローセス・ゲヴェックスは国が認定した正真正銘のドイツ版グラン・クリュ・ワインとなったのです。
まとめ
現段階ではドイツワインの格付けは少々複雑ですが、新しいワイン法が適応される2026年ヴィンテージからは分かりやすくなりそうですね。
とにかく今、ドイツの辛口ワイン、とりわけリースリングから造られるグローセス・ゲヴェックスが世界から注目されています。
美味しい辛口リースリングを飲みたいと思ったら、是非「GG」のマークのワインを試してみて下さい。
参考文献:日本ソムリエ協会 教本 2021