アルザスにピノ・ノワールのグラン・クリュ!?

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公開日 : 2022.7.27
更新日 : 2023.7.12
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アルザスにピノ・ノワールのグラン・クリュ!?

今から5年前(2017年頃)、ワイン専門誌「Winart」の取材でフランス・アルザスを訪問した際のこと。若手醸造家を集めた試飲座談会で、日本とはまだ取引のないとある生産者がピノ・ノワールから造られた赤ワインを持参した。


それは麗しいアロマに肉付きの良さ、しなやかで上品なテクスチャーは上質のブルゴーニュに比肩する出来栄えだった。


聞けば、グラン・クリュのヘングストに植えられているピノ・ノワールの赤ワインという。規定によりアルザス・グラン・クリュ・ヘングストは名乗れず、ラベルには村名のヴィンツェナイムと、登記簿上の区画番号が記されていた。


政令がまだ発布されていないが、遅くとも2022年内にはアルザス・グラン・クリュのブドウ品種にピノ・ノワールが認められる見込みである。


今回はそんなアルザスのピノ・ノワールのグラン・クリュについて語ることにしたい。

目次

グラン・クリュ認定の背景

アルザスのピノ・ノワール

ワインエキスパート資格を所有している方や目指している方ならご存じのとおり、アルザス・グラン・クリュに認められているブドウ品種は、伝統的にリースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカの四つ。


ただし、例外もある。ベルガイム村のアルテンベルグ・ド・ベルガイムでは2005年以前から植樹されていることを条件に、10%の範囲でピノ・ブラン、ピノ・ノワール、シャスラの混醸が許されているし、ミッテルベルガイム村のゾッツェンベルグでは2005年にシルヴァネールが認められた。


そして、ピノ・ノワールから造られた赤ワインにも、ようやくグラン・クリュのステータスが与えられる。そのグラン・クリュは二つ。ヴィンツェナイム村のヘングストとバール村のキルシュベルグ・ド・バールだ。


数年前から特定のグラン・クリュに限ってピノ・ノワールの赤ワインを認めようという動きがあり、その候補にはヘングストとキルシュベルグ・ド・バールに加え、ルファック村とヴェスタルテン村にまたがるフォルブールの名前も挙がっていた。


フォルブールの南斜面にはドメーヌ・ミュレのモノポール畑クロ・サン・ランドランがあり、そこでも秀逸な赤ワインが造られている。しかし、ドメーヌ・ミュレ以外に優れたピノ・ノワールの造り手が見当たらないうえ、INAO(国立原産地名称研究所)への提出書類の不備もあり、今回、フォルブールは見送られることになったそうだ。


ヘングスト、キルシュベルグ・ド・バール、それにフォルブールに共通しているのは、いずれも土壌が粘土石灰質ないし泥灰質土壌ということ。


実際にヘングストの畑を歩くと、「ここはジュヴレ・シャンベルタン?」と見紛うほど、赤褐色をした粘土質の表土に覆われ、いかにもボディ豊かなピノ・ノワールができそうだ。

品質が向上した理由

では、なぜこれまでアルザスのピノ・ノワールは顧みられることがなかったのか。


多くの人は、近年の地球温暖化のおかげでピノ・ノワールが完熟するようになり、品質が向上したからだと考えるだろう。


それも理由の一つには違いないが、アルザスはもともと一般的に考えられているほど冷涼な気候ではない。夏の日中はしばしば35度を超えるし、西に控えるヴォージュ山脈のおかげでフランスで最も乾燥した気候をもつ。


でなければ、あれだけボリュームたっぷりのピノ・グリやゲヴュルツトラミネールができるはずがない。


本当の理由はまず第一に、これまで正しい土地にピノ・ノワールを植えてこなかったからだ。


アルザスの土壌はまさにモザイクという表現がぴったりなほど多様で、沖積土壌もあれば火山性土壌もあり、花崗岩土壌もあれば粘土石灰質土壌もある。


単なるAOCアルザスに多い平野部の沖積土壌では、薄っぺらいピノ・ノワールしかできないのは道理。花崗岩質土壌はリュー・ディ・サンティポリットのようになかなか上質のピノ・ノワールを生み出す例もあるが、基本的に砂質のせいか、どうも味わいの後半でストンと落ちてしまう感が否めない。


やはりピノ・ノワールを植えるなら、粘土石灰質や泥灰質土壌の土地である。


もう一つは赤ワイン造りの経験不足だ。なにしろ生産量の90%以上が白ワインのアルザスである。ロゼが8.5%で赤ワインは1.2%にすぎない。


造っても高くは売れないからピノ・ノワールの醸造法を真剣に学ぼうとする人も少なく、赤を造ってもロゼワインのように薄っぺらいか、反対に無理に抽出しすぎてガチガチなワインの両極端だった。


しかし、最近の若手醸造家はブルゴーニュやニュージーランドなど、積極的にアルザスの外に出て正しいピノ・ノワールの造り方を学んでいる。そのようにピノ・ノワールの本場で学んできた若者たちがアルザスでの赤ワイン造りに自らの知見をフィードバックし、まだ限られた数ではあるもののアルザスでも優れた赤ワインができるようになってきているのだ。

アルザスのピノ・ノワールの将来性

赤ワイングラス

CIVA(アルザスワイン委員会)のティエリー・フリッチ氏によれば、「官僚仕事」のためヘングストとキルシュルベルグ・ド・バールの認定品種にピノ・ノワールが加わる政令の発布が遅れているが、すでにアルザスにおけるピノ・ノワールの将来性を有望視する声は高い。


1982年にはアルザスの全耕作面積のうちわずか5.9%にすぎなかったピノ・ノワールの作付け比率は、2019年に11%まで伸びている。


ヘングストやキルシュベルグ・ド・バールのピノ・ノワールがグラン・クリュを名乗れるようになれば、アルザスの赤ワインにも注目が集まるようになるだろう。エギサイム村のアイシュベルグやフェルシグベルグなど、粘土石灰質や泥灰質の土壌をもつグラン・クリュはほかにもある。


これまでフランスのピノ・ノワールはブルゴーニュのひとり勝ちだったが、近い将来、ブルゴーニュを脅かすとんでもないピノ・ノワールの赤ワインがアルザスに現れるかもしれない。

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