ワインのペアリングの基本の一つが、産地を合わせること。
ワインはその土地のテロワールが表現されるお酒です。そのため、その土地で古くから親しまれている食材や料理とその土地で造られるワインの相性はおのずと良くなります。
チーズもワインと同じ農作物。テロワールが表現される食材です。
そんなワインとチーズの同郷のペアリングを楽しんでみませんか?
今回はナチュラルチーズ専門店「フェルミエ」の山田さんと一緒に、ワイン産地で作られるチーズ「シャヴィニョル」のペアリングを試してみました。
【プロフィール】山田かおるさん
右も左も分からず飛び込んだチーズの世界でしたが、フランスをはじめ色々な国のナチュラルチーズに触れ、熟成の違いにより味わいが全く違ったりその時々で表情を変えたりするチーズの魅力に、今も驚きを感じながら毎日働いています。
CPA認定チーズプロフェッショナル、JSA認定ソムリエ、JSA認定SAKE DIPLOMAなど、チーズを美味しく食べるために資格を取得。
シャヴィニョルってどんなチーズ?
―今回ご紹介いただくチーズについて教えてください。
フランスのロワール地方で作られるシェーヴル(山羊)のチーズでクロタン・ド・シャヴィニョルとも言います。
このチーズが作られるサントル地方は特にシェーヴルチーズが有名で、中でもよく食べられる代表的なものがこのシャヴィニョルです。
作り方が独特で、チーズとなる生地を布で濾して水分を抜かし、ギュッと固めて凝縮させます。ここからさらに型詰めして水分を抜き、上下反転させて1日置き、型から外して加塩、おにぎりを握るようにお塩をつけてギュッギュッギュッと作っていくんです。
シェーヴルチーズと言えばねっとりとした食感ですが、シャヴィニョルはこの製法によって若くてもほくほくとした食感のチーズに仕上がります。
昔は形成する段階でこのような陶器に入れていました。
シャヴィニョルが作られる地域の周りには陶器を作る土がたくさんあったそうです。地元で作られる陶器を使ってシャヴィニョルは作られていました。
今はこの陶器はもう使われていないのですが、この陶器がランプ(Crot)に見えることから「クロタン」と名前が付いたとも言われています。
ちなみにクロタン・ド・シャヴィニョルの使用に認められているのは、アルピーノ種と言われる茶色の毛をした山羊から搾乳されるミルクのみです。
―シャヴィニョルの魅力は何ですか?
何と言っても熟成です。様々な熟成段階があって熟成度合いによって味わいの変化を楽しむことができます。
本当にシャヴィニョルの熟成って面白くて、違った顔を見せてくれます。
―どのように変化するんでしょうか?
熟成するとより水分が抜けていき、どんどん小さくなっていきます。
若いうちはクリーム感があった内側も、熟成が進むと固くなりハードチーズのようにほろほろとしたチーズになるんです。
味わいもより山羊の風味が増して、複雑味も帯びていきます。
―熟成すると全く違うチーズのようになるんですね。
そうなんです。フランスには熟成士という専門家もいて、じっくりと熟成を見極めて段階ごとに販売しています。
地元の人はその熟成段階によって使い分けて楽しんでいるそうです。
日本ではまだまだそういった楽しみ方が定着していませんが、一度この熟成の違いを知ったらチーズの楽しみが広がるんじゃないかなと思います。
同郷のワインとの相性
―ロワールと言えばサンセールのワインが有名ですが、ワインとの相性はいかがでしょうか?
もちろん、地元のサンセールと相性抜群です!
実は、シャヴィニョルはワインとの関わりがとても深いチーズなんです。
サンセールのブドウ畑がある丘の麓にシャヴィニョル村があって、ワイン産地のお膝元で作られています。
この周辺のチーズ生産者は元を辿ればワイン生産者という方も多いそうです。
―サンセールと同じテロワールを感じられるチーズなんですね!
そうなんです。味わいの部分でもよく似ていると思います。
サンセールってソーヴィニョン・ブランですよね。ソーヴィニョン・ブランってグリーンなニュアンスがあると言われることがあると思うんですが、シャヴィニョルにもグリーンなニュアンスが含まれているので、よく合います。
―熟成によって合わせるワインも変わってきますかね?実際に合わせてみましょう!
左から
サンセール・ルージュ / パスカル・ジョリヴェ
サンセール / パスカル・ジョリヴェ
―いかがですか?
若いシャヴィニョルにはやっぱり白のサンセールが合いますね。チーズの酸味ともよくマッチしています。
―シャヴィニョルもサンセールもどちらも美味しくなる組み合わせですね!赤ワインを合わせると少し物足りなさを感じます。
そうですね……赤のサンセールには熟成したシャヴィニョルが良いですね!
熟成して水分が飛んだ状態のことを“セック”と言って、ワインの甘辛度を表す言葉でもありますが、「ドライ」という意味です。
熟成して水分が飛んだシェーヴルを食べることにより、口の中の水分が乾いているように感じる状態を意味します。
そんな水分が持って行かれた口内を赤ワインが補完してくれる印象がありますね。
―本当に味も食感も別物ですね!熟成して出てきた複雑味とサンセール・ルージュのスパイスのニュアンスや複雑さとよく合います。白ワインとは風味の部分でギャップが出てきますね。
シェーヴルには白ワインと合わせる、という固定概念のようなものがあるかもしれませんが、ぜひ熟成の度合いに合わせてワインも変えてみるとより美味しく楽しめますね。
地元のものって合うんだなという道理を感じさせられるペアリングですね。
本場のおしゃれアレンジ
―最後にシャヴィニョルのアレンジを教えてください。
パリのカフェで定番のメニューでもあるサラダアレンジです。
シャヴィニョルをバケットの上にのせて焼き、お好みの野菜でサラダを作りビネガーの効いたドレッシングをかければ完成です。
簡単なのに一気に食卓がおしゃれになりますよね!
山羊のチーズって独特の風味があるので日本人にとって受け入れにくいチーズかもしれませんが、そんな苦手意識を持っている人にもおすすめです。
シャヴィニョルは焼くことで風味がまろやかになるので、そのまま食べるより気軽に楽しめるかなと思います。
シャヴィニョルの熟成による変化、とても面白かったです。香りも食感も味わいも全く別物のチーズになりました。
熟成違いのシャヴィニョルと同郷の白ワイン、赤ワインを合わせれば、これであなたも“チーズ通”です!
山田さん、ありがとうございました!
今回取材したお店はこちら
フェルミエ愛宕店
住所:東京都港区愛宕1-5-3 愛宕ASビル1F
TEL:03-5776-7720
営業時間:月~金12:00~19:00、土11:00~18:00
定休日:日曜日・祝日・年末年始及び夏季休業日
※場合によって日・祝営業あり