夏にピッタリの映画とワイン

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公開日 : 2022.8.11
更新日 : 2023.7.12
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夏にピッタリの映画とワイン

猛暑日が続く夏。そんな夏を涼しく過ごせるよう、フランス、日本、アメリカを代表する3本の名作映画と、それにピッタリのワインをご紹介します。


映画はテイストが全く異なる3本。主人公の切ない気持ちに感情移入しながら、よく冷えたワインを飲み、極上の涼しい時間をお過ごしください。

目次

『太陽がいっぱい』~地中海サスペンスとロゼワイン~

アメリカの大統領がジョン・F・ケネディで、マリリン・モンローが『お熱いのがお好き』で主演女優賞を受賞し、ヘビー級のチャンピオンがカシアス・クレイ(後にムハメッド・アリに改名)で、自動車が巡洋艦のように大きく堂々としていた1960年。フランス映画『太陽がいっぱい』に主演したアラン・ドロンが世界中で大きな話題になりました。


日本でのアラン・ドロンの人気はすさまじく、私の年代のオネエサマ方が熱狂して、今でも「20世紀最高の美男子」はアラン・ドロンと言われます。


『太陽がいっぱい』は、貧乏なアメリカ人、トム(アラン・ドロン)、同じくアメリカ人の友人で大富豪の息子、フィリップ(モーリス・ロネ)、フィリップのフィアンセ、マルジュ(マリー・ラフォレ)の3人を軸に、話が展開します。


トムはフィリップの親から、イタリアで放蕩三昧の息子をアメリカに連れて帰ってくれれば、5,000ドルやると依頼を受けます。


1960年は1ドルが360円の固定相場の時代。現在の貨幣価値に換算すると1,000万円に相当します。金に目がくらんだトムは、フィリップを帰米させようと奮闘するのですが……。


ローマでじゃぶじゃぶ大金を使い、超美人のマルジュと毎日、面白おかしく遊ぶフィリップ。贅沢なクルーズ船を所有していて、トムに操舵させ、甲板では許嫁の美女、マルジュといちゃいちゃします。欲情が高まったフィリップは、トムを救助用の小型ボートに乗せてロープで牽引し、トムのいない船でマルジュと情事に耽るのです。


トムのボートを曳航していたロープが何かの拍子に切れ、トムは地中海の真中で遭難します。太陽にジリジリ焼かれ、トムは死を覚悟したことでしょう。


情事のベッドから甲板に出たフィリップは、ロープが切れていることに気がつき、慌てて航路を遡ってトムを無事救出しますが、トムにはフィリップに対する強烈な殺意が芽生えます。大富豪に対する貧者のルサンチマンですね。


もともと小悪党のトムは、偽造詐欺の前科があり、フィリップの署名を真似て小切手を偽造し、大金を手に入れます。投影機でフィリップのパスポートの署名を拡大して壁に映し、トムがそれをなぞって署名偽造の練習をするシーンは日本でも大きな話題になりました。


サインの偽造がフィリップにバレたトムは、「死人に口なし」とフィリップを殺害し、遺骸を帆布に包んで重しをつけて地中海に破棄します。以降、フィリップになりすまし、マルジュも巧みに口説いて自分のものにしました。悪知恵で順風満帆(?)の偽物生活を手に入れます。


映画終了の3分前、サスペンスのお約束である「大どんでん返し」が待っています。


フィリップ(トム?)所有のクルーズ船の売却が成立し、マリーナでの買い主との立ち合いはマルジュに任せ、トムはビーチのチェアにゆったり座り、注文を取りに来たウェイトレスに言います。「気分は最高だよ。太陽が照っているからね。人生で最高の気分さ。最高の飲み物を持ってきてくれ」。得意満面の30秒後、トムの人生は破滅するのです。


日本ではこの映画は空前絶後の人気となり、テレビの名画劇場では、TBS、フジテレビ、日本テレビ、朝日放送だけでなく、テレビ東京までも、それぞれ別の声優を起用して吹き替え、放送するほどでした。


明るい地中海の風景と、トムのどす黒い凶悪犯罪の対比が見事で、さすが、名監督、ルネ・クレマンの映画だと感心します。


休日の午後、地中海を代表するワインの産地、プロヴァンス地方のロゼワインをキリっと冷やし、「20世紀を代表する美男子」、アラン・ドロンの出世作をご覧ください。


タイトル通り、太陽がいっぱいの地中海の美しい風景や陽気な人達の中で展開するドロドロした心理を描いた名作映画。60年前の古き良き時代へタイム・スリップします。

おすすめワイン

『太陽がいっぱい』に合うおすすめのプロヴァンス産のロゼは、ミラヴァルが造るステュディオ・バイ・ミラヴァル。


ミラヴァルは、ハリウッド・スターのブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの元カップルがプロヴァンスで立ち上げたワイナリーで、名手、ジャック・ペランが生産を担当。華やかで、しっかりしたロゼです。

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『言の葉の庭』~にわか雨と雷とブラン・ド・ブラン~

夏は、急に空が曇ってにわか雨が降り、雷が鳴る不安定な天候の季節です。


そんな激しい天気と、静謐でしっとりした恋愛を絶妙にブレンドしたのがこのアニメ。異才、新海誠監督の5作目(2013年)です。


靴職人を目指す高校3年生のタカオ(秋月孝雄)と、古文の教師、ユキノ(雪野百香里)の淡い出会いが発端となります。


背景では、「にわか雨」と「雷」と「柿本人麻呂」が完璧な正三角形を作っています。


雨の日は学校へ行かず、新宿御苑のベンチ(屋根のあるあずまや)で過ごすタカオ。ある雨の日、ベンチでユキノと出会います。見覚えがある気がして「どこかでお会いしませんでしたか?」とユキノに聞くと、「鳴る神の少し響(とよ)みてさし曇り、雨も降らぬか、君を留(とど)めむ」と謎の言葉を残してユキノは去っていきます。


この謎の言葉は、『万葉集』2513番歌、柿本人麻呂が作った和歌です。『万葉集』は日本最古の和歌集で、成立は759年から780年ごろとのこと。五千首ほど収めた中で、トップ3に入る有名な和歌がこれです。

『万葉集』は、ひらがな発明の前の歌集なので、ひらがなは一切出てこず、漢字と万葉仮名だけ。この和歌のオリジナルは、「雷神 小動 刺雲 雨零耶 君将留」です。

意味は、「雷が少し響いて空が曇り、雨も降らないだろうか。そうすれば、あなたはここに留ってくれるのですから」で、女性から男性に送ったラブレターです。


「鳴る神の」は、「雷」を導くための枕詞で、それ以外の意味はありません。「これから雷をテーマにした和歌を詠みますよ」と文字を優雅に(無駄に?)使い、前置きをしています。言葉の効率を求め、凝縮度の高い文章をよしとする現代とは正反対のゆったりした時代です。


この和歌に対する男性の返歌が、万葉集2514番歌の「雷神 小動 雖不零 吾将留 妹留者」で「鳴る神の、少し響みて、降らずとも、吾(わ)は留まらむ、妹(いも)し留(とど)めば」です。


意味は、「雷が少し響いて、雨が降らなくても、私は留りますよ、あなたが望むのであれば」。この和歌をタカオがユキノに返すのです。


『言の葉の庭』は40分の短編ながら、とにかく絵が細密で異常に美しくて驚きます。ポプラの葉から水滴が1粒落ちて池に波紋が広がる繊細な情景もきちんと描いています。


喧騒なビル街の真ん中にいても、このアニメを見ると静謐な森の中へスリップします。情景の80%は雨なので、しっとり感はさらに増量。そんな雰囲気の中、1,300年前の「鳴る神の……」の和歌でお互いの気持ちを伝え合っています。


スマートフォンから「ねえ、私達、付き合わない?」とメールを送り、衛星通信で3秒後に「うん、いいよ」と返事が来る現代とは正反対ですね。


8,000年前、人の移動や物を運搬する速度は時速4キロでしたが、今ではジェット旅客機や新幹線で大量・高速移動が可能になりました。


文明は8,000年間で大きく進歩しましたが、文化や恋愛感情は自分の年齢分しか進化しません。スマートフォンを使い、3秒で返事が来ても、漢字だけで和歌を詠んで牛車に乗せて相手に届け、返歌も3日かけて到来する昔も、男女の気持ち、トキメキや揺れは何も変わりません。


夏の夕方、遠くで雷が鳴って急ににわか雨が降ったら、白ブドウだけで造ったブラン・ド・ブランのシャンパーニュを開けましょう。


白と緑の色彩を基調にした『言の葉の庭』を見ながら、外の雨も眺め、ゆったりと飲んではいかがでしょうか? 1,300年前のしっとりした時代にタイムスリップできます。

おすすめワイン

『言の葉の庭』に合うおすすめのワインは、白ブドウだけのシャンパーニュ(ブラン・ド・ブラン)、ルー・ベアティトゥディネム ブリュット・ブラン・ド・ブラン ペガサスです。


ブルゴーニュの名手、仲田晃司氏とアニメの超名門、スタジオ・ジブリがコラボレーションして造ったシャンパーニュ。年間の生産量は1,800本と超稀少。スタジオ・ジブリの宮崎駿氏の息子で気鋭の版画家、宮崎敬介氏がラベルのデザインを担当しました。

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『七年目の浮気』~夏の暑い夜はシャンパーニュ風呂を~

人類がこれまで作った数百万本の映画の中で「最も有名シーン」のトップ3を選ぶなら、3位が『雨に唄えば』のジーン・ケリーの2分に及ぶタップダンス。


2位が『タイタニック』で、アメリカを目指すタイタニック号の船首で、絵描き志望のジャック(レオナルド・ディカプリオ)と貴族の娘、ローズ(ケイト・ウィンスレット)が「さあ、目を開けて」「飛んでる、ジャック」と叫ぶシーン。


そして、堂々の金メダルが、地下鉄の送風口の風でまくれる白いスカートを抑えるマリリン・モンローの場面でしょう。


モンローのシーンは、映画を封切りした1955年、アメリカの5歳から95歳までの男性が熱狂したそうです。


映画の設定はニューヨークの暑い夏。モンロー扮する金髪の女性(映画では名前はありません)が異常に暑がりであることが原因で、いろんな事件が起きるコメディーです。


出版社に勤務するリチャード・シャーマン(俳優はトム・イーウェル)は、結婚7年目の妻と息子が避暑に出かけた夏のバケーションでも一人でアパートに残っています。真上の階の住人が夏休みでニューヨークを離れている間、金髪の美女(マリリン・モンロー)が留守番でやってきて、それを見たリチャードがモンローとのロマンスを妄想するのです。


モンローの「超暑がり」の設定は、下着も冷蔵庫で冷やしてから身に着けるほど。モンローが誤って植木鉢を階下のリチャード宅のベランダへ落としたことから仲良くなり、二人で映画に出かけます。


その帰り道、地下鉄の送風口の上を通り、スカートが風であおられます。この有名なシーンの瞬間のモンローの言葉が「Delicious(あぁ、涼しい)」です。


モンローが、「おとといの誕生日は一人だったの」と言ってリチャードの部屋へシャンパーニュを持ってきて、リチャードと一緒にポテトチップスを食べるシーンも有名です。


夏の猛暑日の午後、バスタブへ入る前に下着を冷蔵庫へ入れ、代わりによく冷えたシャンパーニュを出します。


この映画をPCやタブレットなどで再生しながらバスタブの中でゆったりシャンパーニュを飲みましょう。


バスタブでシャンパーニュを飲むのが大好きだったモンローは、グラス1杯分のシャンパーニュをバスタブに入れ、シャンパーニュの香りがする風呂でシャンパーニュを飲みながら長湯をしたそうです。


70年前のモンローの気分を「リプレイ」してください。

おすすめワイン

『七年目の浮気』に合うおすすめのシャンパーニュがパイパー・エドシック・キュヴェ・ブリュット。モンローが愛したシャンパーニュであり、カンヌ映画祭の公式シャンパーニュ。


華やかなシーンにピッタリですね。モンローのように、濃密でセクシーでゴージャスなシャンパーニュをお飲みください。

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