Instagramのトレンドハッシュタグ「#vegan」。
その投稿数は1.2億にものぼります(2022年8月現在)。これはY世代やZ世代が、ヴィーガンに高い関心を持っていることを示しています。
このような中、ヴィーガンワインにも注目が集まっているのです。
目次
ニューヨークやロンドンがトレンドセンター
ニューヨークやロンドンのレストランでは、「VE(Vegan)」とメニュー表示されているのを見かけるようになりました。
そればかりか、ここのところ大手ファーストフード店の動きも菜食主義者向けのメニュー開発も活発なのです。
アメリカのファーストフード店では、植物由来のパティを使ったヴィーガン・バーガーが、ロンドンではヴィーガン・サンドイッチ、宅配ピザチェーン店では肉不使用のペパロニピザが発売されています。
驚きなのは、ギャラップ社の調査によるとアメリカ人の41%が植物由来の肉をすでに試したことがあり、そのうちの60%はリピートしたいと答えたことです。
ヴィーガンはストイック!?
「ヴィーガン」と「ベジタリアン」はどのように違うのでしょう。どちらも菜食主義者であることは共通しています。しかし簡単に言うとヴィーガンは、ベジタリアンよりもストイックな菜食主義者なのです。
「動物性食品をとらない」という共通の信条をベースに、加えてハチミツ、ゼラチン、卵、乳製品など動物にまつわる一切のものを食べません。
精製の過程で牛の骨灰が使われているという理由で白砂糖さえも食べないものリストに挙げられているのです。生活も徹底的で毛皮やレザー製品も身に纏いません。
辞書を引けば「完全菜食主義者」と訳されるのも頷けます。
ヴィーガンワインとは
ワインはブドウが原料。そのため、醸造・貯蔵過程で動物性食品が使われることがあるとは信じがたいことでしょう。
しかし貯蔵中に不要なタンパク質やタンニンを取り除くための「清澄」という工程があり、その段階で卵白、カゼイン(牛乳由来のタンパク質)、ゼラチン、アイシンググラス(魚の浮袋由来のゼラチン)を用いることがあるのです。
当然、ヴィーガンたちは、これらのものを使ったワインを飲むのを躊躇うことでしょう。
そこで、ヴィーガンたちのニーズに応えるべく、動物由来でなく、植物性由来の珪藻土(ベンナイト)を清澄剤として使う生産者が徐々に増えてきたのです。
珪藻土は全米各地で採掘される粘土の一種で、タンパク質を除去することができます。また、清澄そのものさえ行わない生産者もいます。
ヴィーガンの認証制度
いくら動物由来の製品を使わないで手間暇かけてワインを造っても、世にヴィーガンワインであることを伝える術がなければ骨折り損と言えるでしょう。
またヴィーガンたちも選ぶ術がなければ困ったものです。そこで必要になったのが「ヴィーガン商品である」というお墨付きです。
しかし現在、EUではヴィーガン製品のラベルに関する法規制も、公的認証機関も存在していません。今のところ民間機関が独自にヴィーガンワインの認証マークを発行しているのです。下記では有名な機関とロゴを紹介します。
The Vegan Society
国:イギリス 認証機関:ビーガン協会
出展:The Vegan Society,https://www.vegansociety.com/
V-Label
国:スイス 認証機関:欧州ベジタリアン連合(EVU)
出展:V-Label,https://www.v-label.eu/
VEGAN CERTIFIED NZVS
国:ニュージーランド 認証機関:ニュージーランドベジタリアンソサエティ
出展:VEGAN CERTIFIED NZVS,https://www.vegetarian.org.nz/
ヴィーガンが選ばれる三つの理由
「#vegan」がトレンドにランクインしていることからも、ヴィーガンが単なる食事制限を超えて、もはやライフスタイルの一つになったことを証明していると言えるでしょう。
ヴィーガンが選ばれる理由の一つには、健康意識の高い人が増えているというシンプルな理由。ヴィーガンダイエットで体形を維持している海外セレブがいることでも有名です。
二つ目は「動物を殺さなくても必要な栄養を摂取できる」という強い信念を持っている人たちが根強く存在すること。
そして三つ目は、環境保護を大きな理由にヴィーガニズムを掲げている若者たちが増加しているのです。
ヴィーガンが地球を救う!?
牛や豚などの家畜を育てるため、そしてその飼料(牧草やサイレージ)を生産するためにも広大な土地が必要です。そのために毎年多くの森林伐採が行われているのです。
イギリスのファストフード店では2021年からヴィーガンナゲットを販売しており、最高経営責任者は、「2030年までに、メニューの半分は肉を使用しないものにする。同時に1店舗あたりの温室効果ガス排出量を41%削減する」と宣言しています。
つまり肉を植物由来のものに置き換えることが、環境保護活動に参加していることになるのです。
2019年、ニューヨークで開かれた国連気候行動サミットに出席した日本の環境大臣が、現地のステーキ―ハウスで食事をしたことに対して、世界から厳しい意見が出たのもそのためです。
これからも増え続けるヴィーガンワイン
ヴィーガン協会の調査では、イギリスで2014年に150,000人だったヴィーガンが、2019年には600,000人と5年間で4倍に急増したことが明らかになりました。
2022年には料理系サイトのシェフズ・ペンシルによって、世界No1のヴィーガン都市にイギリスのブライトンが選ばれました。2位はアメリカのポートランド、3位はイギリスのブリストルです。
ワイン業界を長年にわたってリードしてきたイギリスとアメリカでヴィーガンが増え続けていることは興味深く、このことは、今後もヴィーガンワインの需要が高まっていくことを示唆していると言えるでしょう。
まとめ
「Meet Free Monday」。これは月曜日だけ肉を控えるという、元ビートルズのポール・マッカートニーと娘のステラが提唱しているキャンペーンです。
動物性食品を100%断つのは簡単なことではありません。だからこそ「週1の菜食主義者」ということなのでしょう。
ワインならどうでしょう。もしかすると通常の醸造・貯蔵方法で造られたワインをヴィーガンワインに置き換えるのはそれほど難しくないかもしれません。もちろんその判断は個々人に委ねられています。
しかし遠くない将来、日本にもヴィーガンワイン専門店が増え、飲食店では「VE」マークの付いたワインが気軽に飲める日が到来しそうです。
参考:「イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン学入門」(デヴィッド・バード)