複数のワインを飲むとき、どんな順番でワインを飲むか迷ったことはないでしょうか。もちろん自分の感性に合わせて自由に開けていくのも良いかもしれません。
しかし、万人受けするいわゆる「王道」があることをご存じでしょうか。
西洋料理にヒントがある
最も有名なセオリーは、軽いものから重たいものへと順番に飲んでいくというものです。この飲み方が定着した理由の一つを西洋料理に探ることができます。
これまでワインが主役として飲まれてきた西洋料理では、前菜、魚料理、肉料理、デザートといった順で料理が出てきます。
その中で、前菜はスパークリングワイン、魚は白ワイン、肉は赤ワイン、デザートは甘口といった具合に、料理とワインの重量感を揃え、「ちぐはぐ」にならないようにするというのが、ごく自然な流れだったのです。
軽いものから重いものへ
軽いものから重たいものへと順に飲んでいくのは、料理の進行だけでなく、体の感覚も関わります。
重いワインを飲んだ後に、軽めのワインを飲むと、ほとんどの人が「物足りない」と感じるでしょう。
白ワイン→ロゼ/オレンジワイン→赤ワインと飲んでいけば、少しずつ体が重たいワインに馴染んでいくので、ぎくしゃくとした感じが起きづらいのです。
白ワインの中でも、ソーヴィニヨン・ブランとシャルドネの二つであれば、一般的にシャルドネの方が重たいので後に飲む、という具合にさらに順番を細分化することができます。
若いワインから古いワインへ
若いワイン、古酒ともにそれぞれ魅力があります。
若いワインはシンプルだけどフレッシュな果実香が主体、それに対して古酒の特徴は、長年の瓶内熟成で生まれた豊かなブーケがあることです。
その両者の良さを生かすためにも、若いワインから古いワインに飲んでいくのが理想的でしょう。もし古酒を先に飲み、その後に若いワインを飲めば、香りの複雑さという観点で、若いワインがかすんでしまう可能性があります。
期待感という観点でも、気持ちに逆転現象が起きるかもしれません。特に何十年も熟成したものであれば、知らず知らずのうちに期待感が高まっていることでしょう。その後に若いヴィンテージを飲めば、ギャップを感じやすいものです。
並級からプレミアムワインへ
物理的にだけでなく、精神的にも重さを考慮していくことも大切です。その一つが価格順に飲んでいくことです。
プレミアムワインと言えば、香りが複雑で多層的なものが多いもの。そのあとに1000円くらいのワインを飲めば、レベルの差に愕然とするかもしれません。
本来であれば1000円のワインにも1000円なりの良さもあるはずなのに、先に飲んだプレミアムワインのインパクトに圧倒されてしまう可能性があるのです。
高級ワインを最後に飲むのは、「楽しみは最後に」と、ショートケーキを食べるときにイチゴを最後まで取っておく、いわゆるそんな感覚に似ているかもしれません。
スターターは発泡性ワインで
食事のスターターに使われることが多いのが発泡性ワインです。
その理由の一つは炭酸ガスがグラスの底からゆらゆら立ち上るのを見るとき高揚感が増すこと。二つ目は、空腹の胃袋に炭酸ガスがはじけると、食欲が増すからです。
なお、スターターは必ずしも発泡性ワインである必要はなく、軽めの白ワインなどでも良いでしょう。ポイントは甘すぎない、アルコールが高すぎないことです。
理由は残糖量が多く、アルコール度数が高いワインを飲めば、血糖値が一気に上がり、食事前にも関わらず、お腹がいっぱいになったような感覚になってしまうからです。
ラストは甘口ワイン
凝縮した甘さを持ったワインは、食後酒として単体、もしくはデザートと組み合わせて食事の最後に飲むのが理想的。
一部の例を除いて、甘口ワインは食事に合わせづらいことが多く、甘口ワインを飲んだ後に辛口ワインを飲むと、ギスギスしたような痩せた味わいに感じられるからです。
型破りも時にはあり
フォアグラの冷製テリーヌと貴腐ワインを食事の前半でサービスされたことはないでしょうか。上記のセオリーで行くと、このサービス順番は少々型破りとも言えるでしょう。
実は、これはアメリカ人が生み出した順番とも言われています。フランス料理の後半でフォアグラと貴腐ワインを食したアメリカ人が、「美味しいけれど、お腹いっぱいで食べられないよ」「せっかくだから食事の前半にもってきてよ」と声を上げたのが理由だとか。
型破りがいつか常識になった典型例でしょう。
シャンパンを最後に飲むのも◎
「シャンパンを飲む理由をみつけられないのは、想像力が欠如した人間だけだ」とは、作家のオスカー・ワイルドの言葉です。
シャンパンはいつでも飲める素晴らしいワインです。その理由は、炭酸ガスとシャンパン香が食べ物のクセを包み込んでくれるため、食前だけでなく、食中、食後とすべてのシーンで楽しむことができるからです。
すべての食事をシャンパンで通すのも良いですし、食事の最後に飲むのも粋です。プレミアムシャンパンならば、花火大会のフィニッシュのようなゴージャス感を味わえます。
ワイン好きの間では「〆シャン」として親しまれています。
おわりに
ワインを飲む順番には「こうでなければならない」という絶対のルールはありません。
しかし、万人受けする基本的な順番があります。どのセオリーにも共通していることは、すべてのスタイル、価格帯のワインの良さを生かすための飲み順であるということです。
その王道を知った上でフレキシブルに考えていけば、ワインを飲むのがこれまで以上に楽しくなることでしょう。