「厳めしいタンニン、緻密な酸が織りなす骨格のあるストラクチュア」、バローロというとこういったスタイルが一般的に想像されるかもしれません。
しかし実際には、テロワールごとに異なるスタイルが存在するのです。
バローロが生まれる場所
アルバの南西に位置する丘陵地帯、ランゲ地方。バローロはこのランゲ地方に位置しています。
複雑に入り組んだ地形で、「Langheランゲ」はラテン語「Linguae舌」が語源だと唱える歴史家もいます。なるほど、アルバの街から、バローロのゾーンを見下ろせば、なだらかな丘陵が、まるで舌を巻いているように見えます。
異なる標高、異なる方角、ときには円形劇場型の地形が組み合わさり、この地に微気候をもたらしているのです。
自然の恵みと脅威
温和な大陸性気候のバローロは、日中と夜間の気温差が大きいだけでなく、夏と冬の気温差が大きいことが特徴です。
アルプス山脈がレインシャドーとなり、北風と雨雲をある程度遮られるアドバンテージがある一方、春霜、夏の雹の被害は、栽培家の悩みの種です。
近年は、異常気象が深刻化し、暑くて乾いた夏を経験することもあります。ヨーロッパでは基本的に灌漑が禁止されているため、造り手にとって干ばつは新たな脅威となっています。
ブレンドが主流だった過去
バローロD.O.C.G.では、限定された11の村で収穫されたネッビオーロのみから造ることができます。さらに170の畑が存在し、2014年以降、村および単一畑がラベルに表示することができるようになりました。
このことは、バローロのテロワール論を過熱させるきっかけの一つになったのです。
ところで、今では単一畑名を冠したバローロは珍しくありませんが、1980年代までは、複数の村、複数の畑のブドウをブレンドするのが一般だったことをご存知でしょうか。
理由の一つは複雑さを醸すため。
二つ目はヴィンテージバリエーションをなくし、スタイルの一貫性を保つためです。上述の通り、この辺りは春霜、雹などの脅威に晒されています。ブレンドすることよりそれらのリスクを回避することができるのです。
何よりも最大の理由として挙げられるのが、経済的なメリットです。1960年代まで、シャンパーニュ地方やボルドー地方の大きなシャトーと同じく、バローロではネゴシアンや協同組合が支配していました。
一人当たりの農家が所有する畑の平均面積は約1.9ヘクタール。つまり、ほとんどの農家が自分たちで醸造や瓶詰めするだけの規模ではなく、現金化するには、ブドウをネゴシアンや協同組合に売った方が早かったのです。
一方、ネゴシアンたちも、大きなロットで原則一種類のバローロを仕込むことでコストを抑えることができたのです。
単一畑バローロの誕生
農家たちが、ネゴシアンや協同組合にワインを売るのをやめて、自分たちの畑のワインで仕込み始めたのが1960年代。特に増えたのが1980年でした。
昨日までブドウ栽培に専念していた農業者が、いきなりワインが造れるのか。また評論家や消費者に単一畑のコンセプトが伝わるのか。答えは「YES」。
背景には、バローロの畑は歴史的にも経済的にも付加価値があり、存在感があったこと。何よりも、前述の複雑な地形に加えて、多様な土壌が存在し、畑ごとにキラリと光る個性を現していたからです。
土壌が語る五つの村の個性
土壌という観点では、大きくは西側に位置するラ・モーラとバローロ、東側のカスティリオーネ・ファレット、モンフォルテ・ダルバ、セラルンガ・ダルバと分けて説明することができます。
西側の二つの村の土壌は、肥沃なトルトニアン時代の泥灰土から形成されています。畑の場所によっては、バローロとしては比較的早く熟成し、よりソフトで果実味豊か、香り高いワインが生まれます。
東側はエレヴィツィアーノと呼ばれるヘルヴェティアン時代の土壌で形成されています。こちらの方が地質年代は古く、圧縮された砂岩の割合が多く、より痩せて乾いています。
その結果、モンフォルテ・ダルバとセラルンガ・ダルバでは、凝縮し骨格のある、よりゆっくりと熟成するワインが造られます。
カスティリオーネ・ファレットは、この西側と東側の谷を隔てるような丘の上にあり、バローロ村のエレガントさと、セッラルンガの骨格を足して2で割ったようなバランスの良いワインが産出されます。
詳しい村と畑の特徴はこちら
期待が高まる二つの村
バローロ村のトップクリュといえばカンヌビです。真南を向いた丘陵に位置し、痩せた砂の多い土壌にブドウ樹が植えられています。春霜や降雨に対しては利点がありますが、酷暑で乾いた夏のヴィンテージにはチャレンジを突き付けられます。
そのような中、注目されているのが、ヴェルドゥーノとノヴェッロの二つの村です。ヴェルドゥーノはバローロ・ゾーンの最北に位置する村で、タナロ川から夕方になると冷たい風が流れ込むため、冷却効果を受けることができます。
特に標高200~300mの間に位置するモングリエ―ロの評判は上々です。エレガントで香り高く、長期熟成能力も見せています。
ノヴェッロはゾーンの中で最南西に位置する村で、南側のコッツ山脈から吹き下ろす風の影響で、11の村の中でも最も涼しい場所の一つに数えられています。
中でも評論家のみならず生産者も熱い視線を送っているのがラヴェーラという畑です。まさにゲームチェンジャー的なこの二つの村に今後ますます期待が高まりそうです。
「Sense of Place」を感じて
イタリアでテロワールとの結びつきを最も感じることができる場所、それがバローロです。
まるでブルゴーニュのシャンベルタンとミュジニーのピノ・ノワールが全く異なる個性を現すように、村ごと、畑ごとの個性を万華鏡のように映し出しているのです。
今度、バローロを飲むとき、どこの畑のものかラベルに目を止めて、「Sense of Place」を感じてみませんか。
バローロの商品一覧
参照:Jancis Robinson Purple page『Oxford Companion』