山あり谷ありの歴史を歩む、ヤラ・ヴァレー

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公開日 : 2022.10.17
更新日 : 2022.10.18
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山あり谷ありの歴史を歩む、ヤラ・ヴァレー

陽光がさんさんと降り注ぐ広大なブドウ畑、シラーズに代表される果実味豊富でスパイシーな赤ワイン……。


オーストラリアのワインと言えば、こんなイメージをお持ちの人が多いかもしれません。


しかし、オーストラリアにはそのようなイメージと真逆のワインを造る産地もあるのです。その代表がヤラ・ヴァレー。


今回はオーストラリアの上質ワイン産地、ヤラ・ヴァレーを紹介したいと思います。

目次

ヤラ・ヴァレーとは?

ヤラ・ヴァレー ブドウ畑

ヤラ・ヴァレーはオーストラリアの南東部のヴィクトリア州を代表するワイン産地。メルボルンから約60kmの距離にありオーストラリアのワイン産地の中では比較的冷涼な気候です。


テロワールは、北部は水捌けの良い砂質と粘土のローム土壌、南部は肥沃な火山性土壌で、斜面もあらゆる方角に面しており標高も様々です。


そのため、栽培されているブドウも黒ブドウならカベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズからピノ・ノワール、白ブドウならソーヴィニヨン・ブランやシャルドネなど多種にわたります。


ただ、近年は特にシャルドネとピノ・ノワールに注力しており、果実味のしっかりしたボディのあるオーストラリアワインのイメージを覆す、ブルーゴーニュスタイルの洗練されたワインを生み出す産地として、改めて注目されています。

波乱万丈な歴史

イエリング・ステーション外観

ヤラ・ヴァレーは1838年にヴィクトリア州で最初にワイン用ブドウが植えられた地域で、ヤラ・ヴァレー最古のワイナリーである「イエリング・ステーション」によって開墾されました。その後、1889年に開催されたパリ万国博覧会で「イエリング・ステーション」はグランプリを獲得、一躍世界中の注目を集めます。


しかし、20世紀に入るとフィロキセラの蔓延や経済不況、さらには南オーストラリア州で酒精強化ワインの需要が高まったことでテーブルワイン生産に行き詰まり、1921年に産地は一旦途絶え、ブドウ畑はかつての牧草地帯に戻ってしまいます。


ワイン産地としてヤラ・ヴァレーが復活したのは1960年代。植物学者のベイリー・カラドス博士が設立したヤラ・イエリングを先駆者として、地元の医師ジョン・ミッドルトン博士がマウント・メアリーを、この他ワンティルナ、イエリングバーグなどが設立され、小規模ながら高品質なワインを生み出したことから、ヤラ・ヴァレーが世界的に注目されるようになりました。


2000年以降は再び深刻なフィロキセラ禍に見舞われたり、遅霜の被害が頻発したり、他国の産地同様に温暖化の影響を受けて試練が続いていますが、大手企業から小規模な自然派生産者までヤラ・ヴァレーの冷涼地域に注目し進出を続けています。

ワインの特徴

赤ワイングラス、白ワイングラス

現在、ヤラ・ヴァレーのブドウ栽培面積のおよそ1/3をピノ・ノワール、1/4をシャルドネが占めており、この二つの品種がヤラ・ヴァレーを代表する品種となっています。


ボルドーより寒冷で、ブルゴーニュより少し温暖な気候のヤラ・ヴァレーは、冬場は雨が多く、夏場は比較的冷涼、特に斜面の上部は夜間の冷気に恵まれ、酸が重要なピノ・ノワールやシャルドネの栽培に適しています。そのため、最近はブルゴーニュと比較されることも多いようです。


ヤラ・ヴァレーのブドウ畑は、標高が低く平坦で比較的温暖な気候の「ヴァレー・フロア」と呼ばれる地域と、丘陵・森林地帯で標高が250m〜360mの比較的冷涼な「アッパー・ヤラ・ヴァレー」呼ばれる地域に分けられます。


ヴァレー・フロアには初期に発展したヤラ・イエリング、マウント・メアリー、ドメーヌ・シャンドンなど多くのワイナリーが集中しており、ピノ・ノワールやシャルドネをはじめ、カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーズにとっても重要な地域です。


ヴァレー・フロアのブドウから生まれるワインは、果実味豊かで比較的柔らかく、ボディもふくよかなものが多いのが特徴です。


一方アッパー・ヤラ・ヴァレーは、ワイナリー数は少ないものの、ピノ・ノワールとシャルドネの有力な畑が多数見られます。


ヴァレー・フロアより涼しいためブドウの成熟も2〜3週間遅くなり、この地域から生まれるワインは凛とした酸とミネラル感を持ち、堅牢なスタイルのものが多くなっています。

ヤラ・ヴァレーのパイオニア

ヤラ・イエリング サラ・クロウ氏
ヤラ・イエング サラ・クロウ女史

ワイン造りが途絶えていたヤラ・ヴァレーに単身入植し、その後の復興を牽引したベイリー・カラドス博士。1969年にワイナリー、ヤラ・イエリングを設立しました。


植物生物学の研究者であったカラドス博士は、ボルドーやブルゴーニュワインのようなエレガントで複雑なワインをオーストラリアで造るためには冷涼な地域が良いと考え、ヤラ川の南ワラメイト・ ヒルズ麓に注目し、ヤラ・ヴァレーでいち早くスティルワインの生産を始めました。


カラドス博士は独自の栽培・醸造技術を考案し、極めて個性的なワイン造りを行いましたが、「ワインは美味しさを感じることが大切」と醸造方法や熟成期間などの詳細情報を公開せず、評価紙の掲載も受けませんでした。それでも、ピノ・ノワールのワインはオーストラリア最高峰と言われるほどの名声を獲得したのです。


2008年にカラドス博士が亡くなった翌年、長年ヤラ・イエリングのワインのファンであり、カラドス博士の晩年に親交を持っていたケイズラー・ワインズ(バロッサ・ヴァレー)のオーナーに経営権を託し、同社の資本下でヤラ・イエリングは生産を継続。


そして、現在ワインメーカーを務めるサラ・クロウ女史は、カラドス博士が確立したヤラ・イエリングのワインのスタイルを大きく変えることなく、ヤラ・ヴァレーの冷涼な気候を活かした複雑で洗練されたワインを生み出し続けています。

まとめ

果実味豊かなシラーズのようなオーストラリアワインももちろん美味しいですが、ヤラ・ヴァレーで造られるピノ・ノワールやシャルドネのワインもぜひ試してみてください。


オーストラリアワインのイメージがガラリと変わるかもしれませんよ。

参考文献:日本ソムリエ協会 教本2021

ヤラ・ヴァレーのワイン一覧

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