ワインの世界は奥深く、原料ブドウや産地、ヴィンテージが同じでも出来上がるワインの味わいは多様です。
そして忘れてならないのが造り方。ワインは基本的にブドウのみから造られる極めてシンプルな醸造酒であるにもかかわらず、生産者の手法によって味わいに大きな違いが生まれます。
そこで最近よく耳にするようになったのが全房発酵という言葉。
ワインの造り方は生産者によって様々ですが、全房発酵という手法で造られたワインはどのような特徴があるのでしょうか?
今回はワインラヴァーなら知っておきたい全房発酵について解説します。
全房発酵と除梗
全房発酵とは、ブドウの果皮と種子、果肉、梗を一緒に醸す醸造方法のこと。反対に、発酵前に梗を取り除くことを除梗と言います。
ワインを勉強した人なら、ワイン造りの基本として「収穫したブドウは最初に除梗と破砕が行われる」と学んだでしょう。
その除梗を行わないのが全房発酵。除梗せずに果梗と果実を一緒に醸した場合、青臭いタンニンが抽出され、えぐみのあるワインができると言われています。
生食用のブドウを食べる時、果皮や種子をかじることはあっても、梗まで口にしようとする人はまずいないでしょうから、それは想像に難くありませんね。
ただ、赤ワインやオレンジワインのタンニンは果実を果皮や種子と一緒に醸すことで抽出されます。適度なタンニンはワインの好ましい風味であり、料理と合わせることで相乗効果を得られたり、長期熟成を可能にしたりします。
しかしながらそれは口当たりの良い滑らかなタンニンであることが大切で、苦味やえぐみが強ければ消費者に受け入れられないでしょう。
では、なぜあえて全房発酵という手法を用いる生産者がいるのでしょうか?
全房発酵とは?
ここからは全房発酵についてもう少し詳しくみてみましょう。
青臭いタンニンの正体
全房発酵は、私たちが生食用ブドウで見るような鮮明な緑色の梗と一緒に醸すわけではありません。緑色の梗を入れてしまうと青臭さの原因となるメトキシピラジンという物質がワインに移ってしまうからです。
メトキシピラジンとは、ピーマンのような青臭い香りを放つ化学物質で、ブドウの結実と共に茎や梗、果皮に蓄積され始め、ヴェレゾン(色づき期)で最大濃度になり、ブドウの成熟とともにその濃度を下げていきます。
よって、全房発酵をする場合、梗は茶褐色になるまで十分に成熟していることが重要です。
カベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランのワインにピーマンのようなグリーンノートをよく感じるのは、メトキシピラジンの含有量が多い品種だからです。
よって、これらの品種は全房発酵には向いていません。一方、メトキシピラジンの含有量が少ないピノ・ノワールやガメイは全房発酵に向いている品種と言えるでしょう。
全房発酵による影響
全房発酵を施すブドウは除梗をしていませんから、果皮に穴が開いていません。果皮に穴が開いていないブドウを醸造するにはピジャージュ(発酵槽内に浮き上がった果皮や種子などを櫂や人力で撹拌させること)が必要で、それにより破砕されたブドウから果汁が少しずつ流れ出ます。
そのため、発酵がゆっくりと進み、緩やかに発酵温度も上がります。結果、アルコール発酵の副産物として様々な成分が生まれ、ワインの香りや味わいに影響を与えるのです。
全房発酵のワインの味わい
全房発酵で造られたワインは、まず香りに複雑性が生まれます。そして、味わいにも奥行きが生まれ、繊細かつ、ストラクチャーのしっかりとしたワインとなります。
ブドウのエネルギーを感じる、スケールの大きなワインになると言っても過言ではありません。そのため、ナチュラルなワイン造りを目指す生産者の多くが全房発酵を支持しています。
一筋縄では行かない全房発酵の難しさ
そんな全房発酵にはメリットもありますが、デメリットもあります。
例えば、全房発酵を行う場合はブドウの房を丸ごと発酵槽に入れるため、房の中の空間に酢酸菌などのバクテリアを含む酸素が入りやすく、オフフレーバーの要因となる酢酸エチルが上昇しやすくなります。
また、前述の通りメトキシピラジンに由来する苦味をともなったワインに仕上がってしまう可能性も高くなります。
そもそも、原料となるブドウが健全で果実も梗も完熟していなければ全房発酵を行うことはできません。そのため、ブドウの栽培から醸造にいたるまで、生産者の高い技術とセンスが必要なのです。
全房発酵には多くのリスクを伴うため、収穫したブドウ全てに全房発酵を施すのではなく、一部の畝のブドウのみ全房発酵させ、除梗後発酵させたワインとブレンドしてワインを造る生産者もいます。
まとめ
全房発酵はあくまでワインの醸造手法の一つであって、除梗と全房発酵に優劣はありません。
醸造方法によってワインの味わいがどのように変わるかを知れば、よりワイン選びの幅が広がるのではないでしょうか?
醸造方法の違いによる飲み比べも面白いので、ぜひトライしてみてくださいね。