毎年、ラベルデザインを変えることで知られる、ボルドーのメドック格付け第1級、シャトー・ムートン・ロスチャイルド。
ラベルはこれまでシャガール、ピカソ、ゲルハルト・リヒターなど、時代を代表する世界的なアーティストが手がけており、毎年ラベルの発表時には、今年はどんなアーティストになるのか、世界的に注目されます。
ついに最新ヴィンテージ、2020年のラベルが発表されました!
イギリスを代表する現代アーティスト
2020年のアートラベルを手がけたのは、スコットランド出身のイギリスを代表するアーティストの一人、ピーター・ドイグ氏です。
ピーター・ドイグ氏はゴーギャンやゴッホといった巨匠の作品のモチーフや自身の個人的経験からくる風景、映画や広告など多彩なイメージを融合させた、ロマンチックかつミステリアスな風景を描くことで知られています。
今回の作品では、セザンヌとゴッホの作品からインスピレーションを得て、ギターの音色が不思議な魔力を放ち、息を吹き込まれるかのように夜の闇の中に生まれるグランヴァンという独自の魅惑的な夢の世界を描き出しました。
美しい一夜の夢物語のようなこの作品でピーター・ドイグ氏が表現しようとしたのは、ブドウ畑で働く人々、そしてブドウの成長と収穫への賛辞なのだそう。
また、この作品はトリニダード人の友人で、エムバと呼ばれるアーティストからもインスピレーションを受けています。エムバ氏は、パリで開催されたドイグ氏の展覧会にギターを持参し、演奏を披露したそうで、ラベルにはその記憶がありありと再現されています。
描いたのはワイン造りの舞台裏
とても美しくミステリアスな作品ですが、ドイグ氏はどのような思いで描いたのでしょうか。
「この作品は、ワイン生産の裏側、いわば舞台裏を描いています。ワインが瓶詰めされるまでの様々な工程に携わる人々への賛歌でもあります。それは、ブドウ畑で誰かが思わず歌を口ずさむかのように、ロマンティズムに彩られた夢想。夢の中でブドウ収穫の世界を旅するかのような、この絵はそんな旅の情景を表現しています」とドイグ氏は作品について説明しています。
ミレーやゴッホ、ベーコンといったブドウ園や農場で働く人々を描いた画家たちをこの作品でなぞらえたのは、そうしたワイン造りに携わる人々への想いがあったからなのですね。
新ヴィンテージのラベルを制作するアーティストのセレクションを担当しているのがオーナーファミリーの一人、ジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルド氏。シャトーの芸術文化活動の責任者です。
彼はピーター・ドイグ氏について、「私たちは、キャンバスや絵画的な素材を使って具象的なテーマを表現するアーティストを探していました。そしてピーター・ドイグ氏は、類い稀な色彩感覚で、絵画という分野に注力した活動を展開しています。彼の技法とその世界観は、現代アート界のなかでも際立っています」と世界観を絶賛しています。
ピーター・ドイグ氏
1959年スコットランド・エジンバラ生まれ。カリブ海の島国トリニダード・トバゴとカナダで育ち、その後ロンドンに移り住み、1990年にロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで修士号を取得した。 1994年にターナー賞にノミネート。2002年からは、トリニダード・トバゴとロンドンを行き来する生活を送っている。 ピーター・ドイグの作品は、現在も多くの美術館で展示されている。過去の巨匠になぞらえて、しばしば「画家の中の画家」と評される。
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