10年ごとに見直しが行われるボルドー地方サン・テミリオン地区の格付け。前回の改訂から10年を経た今年2022年9月、新たな格付けが発表されました。
そこで今回は改めてサン・テミリオンの格付けの歴史をおさらいするとともに、気になる最新情報をお伝え致します。
サン・テミリオンの格付けとこれまでの歴史
サン・テミリオンの格付けは、1954年、国の公的機関であるI'INAO(L'Institut National des Appellations d'Origine)によって制定されました。これは、1855年のパリ万国博覧会を機に制定されたにメドック(およびグラーブ)の格付け発表から約100年後のことです。
サン・テミリオンの格付けは第一特別級のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセと特別級のグランクリュ・クラッセからなりますが、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセは上級の「A」と下級の「B」に分かれるため、実際には3階級となります。
有名な五大シャトーを有するメドックの格付けが150年以上たった今でも一部の例外を除いてほとんど変更がないのに対して、サン・テミリオンの格付けは10年ごとに見直しが行われます。
これまでに1969年、1986年、1996年、2006年、2012年の6回にわたって改訂されました。
サン・テミリオンの格付けの審査は、官能検査が重視され、審査員はワイン仲買人、ワイン商、法律家、ワイン醸造学者などの第三者で構成されています。
当時の取引価格で評価されたメドックの格付けと異なり、公平性及び客観性が評価されており、定期的に見直しされることから、サン・テミリオンの格付けは他のボルドーの格付けに比べて非常に信憑性が高いと言えるでしょう。
しかしながら、格付けを見直すということは、昇格するシャトーもあれば降格するシャトーもあるということです。格付けはそれぞれのシャトーのワインの価格や地価、ブランド性に大きく影響を及ぼします。
そのため、2006年の見直しでは、降格した13のシャトーのうち八つのシャトーがその公平性を巡って不服を申し立て、訴訟となりました。結果、2006年の格付けは取り消しとなり、1996年の格付けの効力を2011年まで延長するという暫定措置が取られました。
2012年の格付けでは、シャトー・オーゾンヌとシャトー・シュヴァル・ブランの2シャトーのみが長きに渡って君臨してきたプルミエ・グラン・クリュ・クラッセAに、新たにシャトー・アンジェリュスとシャトー・パヴィが加わりました。
また、小さなガレージワイナリーから急成長しシンデレラワインという呼び名を持つシャトー・ヴァランドローや、シャトー・ラ・ガフリエールなど四つのシャトーがプルミエ・グラン・クリュ・クラッセBに昇格しました。
2022年に新たに制定された格付けは?
今年の9月に発表された新たなサン・テミリオン格付けにおけるこれまでとの大きな変更点は、シャトー・フィジャックがプルミエ・グラン・クリュ・クラッセ「B」から「A」に昇格したことです。
シャトー・フィジャックは、サン・テミリオン地区最古のシャトーの一つで、その歴史は2世紀頃まで遡ることができます。所有者は長い歴史の中で何度も変わりますが、18世紀頃のシャトー・フィジャックの所有地は200haもあったとされています。その後は分割を繰り返し、現在の所有地は40ha。1832年に売却された区画は現在のシャトー・シュヴァル・ブランとなっています。
シャトー・フィジャックは、シャトー・シュヴァル・ブランと共に、サン・テミリオンの他のシャトーとは離れたポムロールに近い場所に位置しています。この辺りはメドック地区のような鉄分が豊かな砂利の多い土壌で、メルロの栽培比率が高いサン・テミリオンでは珍しくカベルネ・ソーヴィニョンとカベルネ・フランの比率がそれぞれ35%と高く、メルロは30%程度となっています。
よって、シャトー・フィジャックは非常に濃い色調で力強い味わいながら、口当たりは柔らかくエレガントなスタイルとなっています。サン・テミリオンのワインらしく若くから楽しむこともできますが、長期熟成を経てこそ真価を発揮する、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ「A」にふさわしいワインと言えるでしょう。
今回の格付け見直しでは、2021年夏の申請時に、1955年から頂点に立ち続けてきたプルミエ・グラン・クリュ・クラッセ「A」のシャトー・オーゾンヌとシャトー・シュヴァル・ブランの2シャトーが、審査基準を理由に格付けに参加しないことを表明しました。
また、シャトー・アンジェリュスは、共同経営者が格付けを巡って利益相反があったとして有罪判決となったのを受けて格付けから撤退。よって、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ「A」には、2012年に昇格したシャトー・パヴィだけが残る事態となりました。
また、2022 年 6 月にはプルミエ・グラン・クリュ・クラッセ「B」に認定されていたシャトー・ラ・ガフリエールも、官能検査に対する懸念を理由に格付けから辞退しました。格付けは高い評価を得たシャトーだけでなく、産地そのものの発展に寄与していることに疑いはありません。
しかし、官能検査にはじまり、テロワール、栽培・醸造、価格に名声まで、格付けを公平に、正確に定めるのがいかに困難かということが、今回複数のシャトーが格付けから辞退したことからも伺うことができます。
2022年の格付け見直しの結果、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセのカテゴリーではシャトー・カノンやシャトー・トロロン・モンドなど、噂されていたシャトーの「B」ランクから「A」ランクへの昇格は見送られ、シャトー・フィジャックの昇格だけが唯一の変更となりました。
2022年のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセに格付けされたシャトーは以下の通りです。
【プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ<A>】
・シャトー・パヴィ
【プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ<B>】
・シャトー・ボーセジュール・ベコ
・シャトー・ボーセジュール・デュフォー・ラガロース
・シャトー・カノン
・シャトー・カノン・ラ・ガフリエール
・シャトー・ラルシ・デュカス
・シャトー・パヴィ・マカン
・シャトー・トロロン・モンド
・シャトー・ヴァランドロー
・クロ・フルテ
・シャトー・ラ・モンドット
・シャトー・トロットヴィエイユ
まとめ
信憑性が高いと言われるサン・テミリオンの格付けですが、著名な実力シャトーが辞退した今回の見直し以降、その捉え方はワインのプロも消費者も変わってくるかもしれませんね。
今後もサン・テミリオンの動向に注目です。